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スペシャルインタビュー 若き研究・開発者への伝言

第15回 科学技術に国境はない! たとえ国内で認められなくても良い成果なら、世界に必ず認めてくれる人がいるはずだ

片岡 一則 KATAOKA KAZUNORI
東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 教授
1950年、東京都生まれ。1979年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1979年、東京女子医科大学医用工学研究施設助手。同施設の講師、助教授を経て、1989年、東京理科大学基礎工学部助教授。1994年、同教授。1998年より現職。2001年より2004年まで物質・材料研究機構生体材料研究センターディレクター併任。2004年より東京大学大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター教授を併任。2005年より東京大学ナノバイオ・インテグレーション研究拠点リーダーを務める。

全身に作用する抗ガン剤の副作用を抑えるには…

治療が難しいとされるガンでも、最初にガンができた原発巣に留まっていれば、手術で切除したり、放射線を照射することで完治が期待できる。しかし、原発巣から離れて他の臓器に転移していると手術や放射線では完治は難しくなる。その際は、全身に作用する抗ガン剤を用いることになるが、抗ガン剤の影響はガン細胞だけでなく正常な細胞にも及ぶため辛い副作用が現れることがある。

現在、ガン細胞だけに働く抗ガン剤の開発が進められているものの、抗ガン剤は細胞を殺す働きを持っているためガン細胞だけに効く新薬の開発は決して簡単ではない。ただし、従来からある抗ガン剤でもガンだけに選択的に届けることができれば、正常細胞への副作用を抑えつつ、ガンを叩くことができるだろう。そこで、求められるのがガンだけに抗ガン細胞を運ぶ薬物送達システム(DDS)だ。東京大学大学院工学系研究科の片岡一則教授は高分子でできた微細なカプセル(高分子ミセル)に抗ガン剤を封入してガンにだけ届けるDDSの開発を進めている。

高分子ミセル型DDS(ドラッグデリバリーシステム)

抗ガン剤をガンだけに集中させるDDSを開発

片岡教授が開発を進めるDDSが、ガンだけに抗ガン剤を届けられるのには、高分子ミセルのサイズがカギを握っている。その理由について片岡教授がこう説明してくれた。
「正常な細胞に比べてガン細胞は活発に増殖するため、より多くの酸素や栄養を必要とします。ガンが大きくなるにつれて自ら血管を作る因子を分泌して栄養の供給路となる腫瘍血管を作るのですが、正常な血管と違って腫瘍血管は安普請の家のように隙間だらけ。高分子ミセルの粒径が数十ナノメートル(ナノメートルは10億分の1メートル)だと、正常な血管からは漏れ出ることなく、腫瘍血管からだけ漏れ出てくれます。高分子ミセルに抗ガン剤を入れておけば、ガンだけに抗ガン剤を届けることができるでしょう」

すでに既存の抗ガン剤を封入したミセル化製剤については、実用化に向けて臨床試験が進められており、近い将来の実用化が期待されている。こうしたサイズのコントロールだけでも副作用を抑えつつ、ガンを叩くことが期待されるが、さらにガンへの集中度を高めるために片岡教授はガン細胞の表面だけに存在する分子に結合し、細胞への取り込みを高める分子をとり付けた高分子ミセルの開発を進めている。

今後、片岡教授が開発するDDSが多くの抗ガン剤に応用されれば、辛い副作用に耐えなければならないとされる抗ガン剤治療を大きく様変わりさせる可能性がある。

高分子薬物の固形がん集積メカニズム

基礎的な化学の研究から医療応用を目指した研究へ

現在では医療技術の研究者として知られる片岡教授。東京大学では工学系研究科に加えて医学系研究科の教授も併任しているが、大学院の修士課程までは純粋な化学者としての道を歩んでいたという。博士課程に進学する過程で研究の方向性を変えるできごとがあったようだ。片岡教授がこう説明する。

「修士課程までは高分子の重合反応に関する基礎的な研究をしていたのですが、博士課程に進学するに当たって、指導教官から『社会の役に立つ研究をしてみないか』と提案されました。高分子化学を活かした医療技術、今でいうバイオマテリアルの研究だったのです」

当時の片岡教授にとっては思いがけぬ提案だったが、調べてみるとバイオマテリアルの研究はようやく始まったばかりで、わからないことだらけ。それまで学んできた高分子化学の基礎的な研究を役立てられるのではないかと感じた片岡教授は、東京女子医科大学でバイオマテリアルの研究室に出向いて新たな研究分野にチャレンジすることになった。

というのも、東京女子医科大学には、東京大学医学部付属病院で外科医として活躍していた桜井靖久教授が人工心臓を開発するための研究室を開設していた。人工心臓は傷んだ心臓の代わりに全身に血液を送る人工のポンプだが、血液は人工物に触れると固まって血栓を作ってしまう。そのため片岡教授はまず血栓を作りにくい高分子材料の開発に取り組むことになったのだ。これこそ片岡教授の研究者人生を決定づける大きな転換点となった。

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