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スペシャルインタビュー 若き研究・開発者への伝言

第20回 直面したことのない障壁に立ち向かいそれを乗り越えることこそ研究者の使命

遠藤 哲郎 ENDOH TETSUO
東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター長
東北大学 大学院工学研究科 教授
1987年、東京大学理学部物理学科卒業。同年、株式会社東芝入社、研究開発センターULSI研究所研究員としてNAND型メモリーの開発に従事。1995年に東北大学電気通信研究所講師に着任して以降、同助教授、准教授、教授、同大学学際科学国際高等研究センター教授、同大学省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター副センター長、教授、同大学大学院工学研究科教授を経て、2012年10月より同大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター長(併任)。東北大学着任を機に、世界に先駆けて縦型トランジスタ(縦型ボディチャネルMOSFET)を提案し、世界を先導する研究成果を挙げてきた。

スマホ、タブレットPCの
バッテリーの持ちの悪さの原因は…

スマートフォンやタブレットPCが普及したことで、外出先でも手軽にインターネットを利用できる環境になったが、こうした情報端末の技術的な課題となっているのがバッテリーの寿命の短さだ。目いっぱい充電してもバッテリーは1日も持たず、どこかで追加充電しなければならなくなることは誰もが経験しているだろう。

というのも、従来の平面型の半導体トランジスタでは、無駄に電気が流れる「リーク電流」が生じていた。制御側(ゲート電極)の電圧を加えることでボディに生じる電界で電流の流れを制御していても、厚みのあるボディすべてに電界を働かせることは難しい。ゲート電極に電圧をかけてもボディの奥底では電流が流れてリーク電流が生じてしまい、これがバッテリーの持ちの悪さの一因となっていたのだ。

もしリーク電流の発生を抑えられれば、容量は同じでもバッテリーの持ちを飛躍的に伸ばせるはずだ。そこで、東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター長で、同大学大学院工学研究科の遠藤哲郎教授は、まったく新しい半導体トランジスタを開発することでバッテリーの寿命の問題を解決しようとしている。

「これまでのような平面型ではなく、縦型のトランジスタの開発を進めています。柱状にシリコンを形成して、ゲート電極を360度取り囲むように作れば、電界が及ばない部分がなくなり、リーク電流の発生を抑えられるでしょう」

提案した縦型BC-MOSFETによる低電力化の原理

縦型トランジスタ開発

開発したプロセス技術によるシリコンピラー構造

遠藤教授は世界に先駆けて縦型トランジスタの開発に取り組み、すでに安定して柱状のシリコン(シリコンピラー)を形成するプロセス技術を確立した。縦型トランジスタが実現すれば、リーク電流を抑えられるだけでなく、3次元的に集積することができ、飛躍的な性能向上が期待できる。そのため世界の名だたる半導体メーカーが遠藤教授を後追いするように開発に乗り出してきており、今や縦型トランジスタの研究開発は半導体業界のトレンドになりつつある。

しかし、遠藤教授が東北大学電気通信研究所の講師に着任した頃は、縦型トランジスタのアイデアはあっても、とうてい実現は不可能だと考えられていた。遠藤教授の縦型トランジスタの研究はまさにゼロからのスタートだったのだ。当時を振り返って遠藤教授がこう語る。

遠藤教授が試作した縦型MOSFETによる集積回路の300mmウエハー

「研究室での当初の研究費は、大学運営交付金から支給される数十万円だけでした。それだとパソコンを購入するだけでなくなってしまいます。もちろん縦型トランジスタの試作品を作ることはできませんから、シミュレーションで研究するしかない。少しでも安く高性能のパソコンを得るために、仙台市内のパーツ屋さんでマザーボードを買ってきて自分で組み上げました。これで小規模なシミュレーションを行い、縦型トランジスタの可能性を示していきました」

こうした小規模なシミュレーションの成果をもとに、遠藤教授は外部から研究費を調達。高性能なワークステーションを購入して、より精度の高いシミュレーションを実施する。すると遠藤教授の研究に注目した企業との共同研究が進められるようになる。さらに研究費も拡大して、念願の縦型トランジスタの試作品を作れるまでになった。

研究者たるもの
立ちふさがる障壁を楽しむ気概を持とう

しかし、実際に試作品を作ってみるとシミュレーションでは予想もしなかったことが発生した。その1つが「シリコン・ミッシング」と呼ばれる現象だった。この現象について遠藤教授がこう説明する。
「シリコンピラーを形成できたら、その表面を酸化させて絶縁膜を作るのですが、酸化させるために熱を加えると、結晶を構成するシリコン原子が動いて柱状構造を維持できなくなってしまったのです」

柱状の構造を維持できなければ縦型トランジスタの実現の道は絶たれてしまう。シリコン・ミッシングは致命的な障壁と言っても過言ではなかった。遠藤教授はシリコン・ミッシングが起こる原理の解明に取り組み、最適条件を見出して安定してシリコンを柱状に形成する技術プロセスを確立していった。現在では、すでに小規模な回路ながら縦型トランジスタの集積回路を作り、1メガビットのメモリーを動かすことに世界で初めて成功している。

「確かにシリコン・ミッシング現象は縦型トランジスタの実現を阻む大きな障壁でした。しかし、私たちがやっていることは誰も成し遂げていない新しいデバイスの開発なのです。誰も知らない障壁が立ちふさがっても何ら不思議はありません。越えがたい障壁に直面すれば、誰しも落ち込むものですが、研究者たるもの障壁を楽しむぐらいでないといけません」

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