名古屋大学
総長
杉山 直

神奈川県出身。理論天文学や宇宙論を専門に、さまざまな大学や研究機関で助教授や教授などの職を歴任。2022年、名古屋大学総長に就任。

子どもの頃から本の虫。中学時代には友だちと毎週、電車で図書館に通って読書の日々。小説が好きで、文学の棚を端から端まで読んだ。一方で、友だちはジュニア向けの科学書シリーズを好んで読んでいた。「面白いのか?」と私も手にとってみたら、すっかり科学の世界に魅了された。中学校の卒業文集には「物理学者になってノーベル賞をとる」とまで書くほど、科学にのめり込んだ。
高校卒業後は、物理学を学ぶために理工学部に進学。第一人者と言える教授のもとで、物理学の基礎を徹底的に学ぶことができた。専門分野は「素粒子」。素粒子は物質を構成する最小単位、素粒子を理解できれば、世の中のすべてのもの、つまり宇宙までも理解できるということになる。次第に自分の関心は「素粒子」という極小の世界から、「宇宙」という極大の世界へと移っていった。
大学院修士課程を卒業した1986年は、まさにバブル前夜。理系学生は引く手あまたで、友人の多くは大手メーカーに就職していった。しかし、自分は人に指示されたり、給与のためだけに働いたりするのは嫌だった。自分の好きなことを仕事にしたい。もちろん、将来食べていけるかという不安はあったが、就職はせず、宇宙について学べる大学院博士課程へと進むことを決めた。
所属した大学院の研究所は、広島の市街地から電車で1時間半の場所にあった。俗世から隔絶した環境の中で、世界トップレベルの研究者たちに囲まれながら研究に明け暮れる日々。先生や先輩・後輩たちと、夜遅くまで議論することも一度や二度ではなかった。人生で最も何かに没頭できた時期だ。
博士課程修了後、私は本格的に研究者としての道を進み始めた。大学や研究機関を渡り歩き、海外にも留学、研究者としてそれなりに認めていただき、思い描いていた道を歩んでこられたのかなと思っている。現在は大学の総長として、自身の大学や日本の大学全体をよくするという新しいチャレンジに取り組んでいるが、宇宙に心を奪われた一物理学者という本質は今でも変わっていない。
学生時代、寝る間を惜しんで研究に没頭した経験は、その後の人生の屋台骨となっている。物理学者としての基礎を学べたという意味だけでない。その時の没頭した日々が、「好きなことを仕事にする」という夢の実現にも、確実につながっていたのだから。
学生への応援メッセージ
学生の皆さんには「挑戦しよう、でも逃げてもいいよ」と伝えたいです。どれだけ頑張っても、時の運で、うまくいかないということはあります。だから失敗してもいい。失敗したら終わりじゃなくて、うまく逃げて、また違う挑戦をすればいい。人生に無駄な経験などありません。私も若い頃は、研究だけでなく音楽や読書にも熱中しました。それらの経験がすべて現在に活きています。様々なことに没頭し、自分の「好き」を見つけてみてください。