<後編>人の役に立つ近道は「得意」なこと。金融教育家・田内 学さんに聞く、大学で「得意」を見つける方法

田内さんのお金論には、ずっと「人」がいます。外資系投資会社に就職し、金融教育家として、お金にまつわる講演や執筆活動をしている田内さん。
どのように、このお金の本質に辿り着いたのでしょう? 外資系投資会社での経験から? 始まりは、子どもの頃、そして大学時代にカギがあったようです。キーワードは「得意」です。
>前編はこちら
>中編は こちら

プロフィール

田内 学さん

1978年生まれ。2001年東京大学工学部卒業。2003年、同大学院情報理工学系研究科修士課程修了後、ゴールドマン・ サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーダーに。2019年、退職後は、子育てのかたわら、社会的金融教育家として講演や執筆活動 を行っている。noteでは、経済やお金の情報を発信している。主な著書に「お金のむこうに人がいる」(ダイヤモンド社)

Q3.「大学」では、何をしたらいいですか?

A.大学は、自由にある時間を使って「得意」を見つける場所です。

まさか、プログラミングは絶対にやらないと決めていた自分が、プログラミングコンテストの日本代表になるなんて、大学入学時には想像もしていませんでした。

イラスト:お金の良い稼ぎ方悪い稼ぎ方

 あるとき、大学の先輩からプログラミングのバイトに誘われたんです。
 もし、ここで「いや、プログラミングはやらないから…」と断っていたら、いまの自分はないでしょう。そこからプログラミングにのめり込み、結果として、日本代表としてアジア大会出場。おおきな大会で敗れたことで、世界の広さを体感しました。

 もともとプログラミングを苦手視していたのに、バイトを引き受けたのは先輩を尊敬していたから。そして、「数学が得意ならできるよ」と言われたのが大きいですね。
 没頭する対象となったプログラミングに導いてくれたのは、子どもの頃から好きで得意な「数学」だったんです。

 その後、就職活動でも、「数学が得意なら、金融トレーダーが向いているんじゃないか」と、人から勧められました。経済にはまったく興味がありませんでしたが、たしかに、数学の考え方とトレーダーの仕事はつながる部分が多い。そして、外資系投資銀行に就職しました。

 ふりかえると、大学時代に、数学という「得意」を、プログラミングという「得意」、そしてトレーダーという仕事につなげるきっかけを人からもらったんです。

田内学さん

 僕の場合は、小さい頃から大好きで得意だった数学を、仕事として役立てることのできる分野を見つけたわけですが、自分の「得意」をまだ見つけていない人にとっても、時間がたくさんある大学というのは「得意」を見つけるためには、うってつけの場所でしょう。

 とある高校で、「大学に行くとは、『海を見る自由』を得るためではないか」という言葉を卒業生に贈った校長先生がいます。

 大学時代をどう過ごすかは人それぞれです。授業や研究に忙しい人もいるでしょう。でも、「海に行きたい」と思ったときに、行くことを選ぶ自由があるのが、大学時代だということ。高校時代にはそれは許されていなかったし、働き始めてからも、家庭を持っても、なかなかそんなことはできない。
 でも、大学時代にはそれができる。本当に、その通りだと思います。

 大学は、自由な時間がたくさんある、貴重な場所です。自分で自分の時間を管理できる。好きなことに時間をかけることができて、いろいろなことにチャレンジできるし、失敗してもいい。

田内学さん

 実は、僕が『お金のむこうに人がいる』という本を書いたのは、外資系投資銀行を退職し、時間がたくさんあった時期でした。
 そんなときに「何かやりたいことないの?」と友人に聞かれて、それまで誰にも話したことがなかったのですが、「経済の本を書きたい」と答えました。そして、紆余曲折を経て、出版し、今に至ります。
 文章を書くことはまだ得意とは言えませんが、新しい経験を通して、自分の「得意」が増えた実感があります。

 大学時代と退職した後。このふたつの時期の共通点は、「時間がたくさんあった」こと。でもあります。
 時間があるから、チャレンジができて、失敗ができます。そうして過ごしていると、「得意」が見つかります。

 必ずしも、みんなが「得意」を仕事にしているわけではありません。でも、人生でやりたいことを探す中で、「誰かの役に立ちたい」「幸せにしたい」という視点が出てきて、そこに得意なことを活かせたらいいですよね。

田内学さん

 そして、やりたいことを見つけたら、ぜひ、周囲の人に本音をさらけ出してみてください。

 僕の知り合いの話なのですが、とある学生が「競走馬が好きだから」と言って、北海道の新聞社を志望していました。ところが、面接のときに「馬に関わりたい」と正直に伝えると、「うちではそれはやっていません」と言われて、あっけなく選考に落ちてしまいます。

 失敗体験のように聞こえるかもしれませんが、本音の志望動機を伝えたからこそ、本人の「やりたいこと」とその会社が合わないことが確認できた、とも言えます。もし本音を言わずにその会社に就職していたら、「こんなはずじゃなかった」と、つらい時間が待っていたかもしれません。

 大学時代に、時間をかけて、好きなことや得意なことを見つけること。時には、周りの人に見つけてもらうこと。そして、得意なことをどうやって社会に役立てていくのか。みなさんの選択と挑戦を応援しています。

<前編>はこちら
<中編>はこちら

スタッフクレジット:

取材・執筆:片岡 由衣
イラスト・漫画:ホリプー
撮影:豊島 望

S H A R E

おすすめコンテンツ