<後編>やわやわのおかゆにはしない、歯ごたえが残る番組づくりを心がけています。「100分de名著」TVプロデューサー・秋満吉彦さんに聞く、創作論

前回まで、「100分de名著」の番組コンセプトである「名著とは、現代を読む教科書である」、そして、番組に欠かすことのできない、司会・伊集院光さんの「素手で闘う勇気」が巻き起こすビッグバンについてお話を聞いてきました。
後編では、そんな「名著」と「ビッグバン」を武器に、名番組をつくり続ける創作論に話を広げていきましょう。秋満さん、番組づくりでは、どんなことを大切にしていますか?
>前編はこちら
>中編はこちら

プロフィール

秋満 吉彦さん

1965年生まれ。大分県中津市出身。熊本大学大学院文学研究科修了後、1990年にNHK入局。ディレクター時代に「BSマンガ夜話」「日曜美術館」等を制作。その後、ドラマ「菜の花ラインに乗りかえて」、「100分de平和論」(第42回放送文化基金賞優秀賞)、「100分deパンデミック論」(第48回放送文化基金賞優秀賞)、「100分deメディア論」(第55回ギャラクシー賞優秀賞)等をプロデュースした。現在、NHKエデュケーショナルで教養番組「100分de名著」のプロデューサーを担当。

Q3.番組づくりに大切なことはなんですか?

A.歯応えがある番組の力を自分で信じて、つくり続けることです。

マンガ
マンガ
マンガ

 「100分de名著」もTV番組ですから、視聴率を気にしないわけにはいきません。ただし私自身は、数字がすべてではないとも思っています。

 好きなものを例にお話しすると、私は『機動戦士ガンダム』がすごく好きなんですが、初代ガンダムは、当時、打ち切られたって知っていますか? 全52話放送予定が43話で打ち切りになってるんですよ。

秋満吉彦さん

 でも、完成度はすごく高かった。だから、こうして現代では、続編や映画版も公開される超人気作品になっている。だから、すぐに評価されなくても、つくり続けることが大切なんです。

 「100分de名著」が目指すところも同じで、もちろん視聴率も大事だけれども、番組を好きでいてくださるファンの方の心に、いかに深い内容を届けられるか。その点こそ勝負だと、肝に銘じて番組をつくっています。

 古今東西の名著をたった100分で読み解くというのが番組の趣旨なので、「どうせ、名著をやわやわのおかゆのように食べやすくしているのだろう」と勘違いされることもあります。

秋満吉彦さん

 ですが実際のところは、けっこう歯ごたえを残すようにしているんですよ。
 消化のしやすさを目指すばかりではなく、「よくわからないけど、なんだかおもしろいぞ」「見直して、理解してみたいな」と思わせるよう、常にエッジを立てています。わかりやすさを最大目的にすることは選びません。

 歴史の風雪に耐えてきた、選りすぐりの名著を素材として用いるのですから、番組自体も時の流れに堪えて残るものにしたい。高品質で、歯応えの残る番組をつくって、それが実現できたら、プロデューサーとしては本望です。

秋満吉彦さん

 番組づくりにおいて、プロデューサーがどんな仕事を担っているかをお話しておきましょう。まず第一の仕事は、企画を立ち上げること。

 「100分de名著」の場合は、どんな名著を取り上げるか。その本をどんな角度・切り口で解説するか。誰に論じてもらうか。一冊を4回に分けて紹介するので、各回のテーマは何にするか。
 それらを前もって決めていき、制作準備期間を考えると、1年ほど前には企画を固める必要があります。

 どのように名著を見つけてくるか。これはもうひたすら、いろんな古典作品、時に現代作品にも目を通す以外に方法はありません。
 加えて、世の中の動きをよく見ておき、各界のおもしろそうな人たちの言葉や言動にも目を凝らします。どこに切り口やテーマのヒントが転がっているかわかりませんから。そして、私は解説者候補の方が、どのように語る方なのかも講演の場などでよく聴くようにしています。

「100分de名著」スタジオ

 企画を無事に通すことができたら、番組を実現するためにあらゆる算段をつけていきます。制作に必要な予算を確保し、人材を集め、制作の進捗を管理し、出来上がった内容の品質チェックをします。

 たくさんの人に見てもらうための広報宣伝にも力を尽くしますし、番組にまつわるすべての事柄に責任を持ちます。
 細部にまで注意を払わなければならず、気が抜けない仕事ではありますが、それも名著が世の中に広まっていくためだと思えば、つくづく面白く、やりがいのある仕事だと思っています。

秋満吉彦さん

<前編>はこちら
<中編>はこちら

スタッフクレジット:

取材・執筆:山内 宏泰
漫画:うえはらけいた
撮影:井上 英祐

S H A R E

おすすめコンテンツ