<中編>訓練を積んではじめて、数学が「美しい」という感覚がわかる。数学者・千葉逸人さんに教わる、数学の「美しさ」

数学は、いま、社会の最前線で活躍している。そして、それが世界の共通認識になってきている、と千葉さんは言います。社会は役割分担でできているので、数学に苦手意識があってもいいはずですが、でも、光が当たり始めている数学に、せっかくだからすこし近づいてみたくはありませんか。
そこで、数学者が口を揃えて言う「数学は美しい」って、どんな感覚なのか? 実際の問題を例に、千葉さんに教わってみましょう。
>前編はこちら

プロフィール

千葉 逸人さん

2009年、京都大学 数理工学専攻 博士課程卒業。九州大学 数理学研究院 などを歴任したあと、現在では東北大学 理学研究科数学専攻 / 材料科学高等研究所の教授に就いており、数学やその医学、材料への応用について研究しています。
著書:「工学部で学ぶ数学」(プレアデス出版)「ベクトル解析から学ぶ幾何学入門」(現代数学社)「解くための微分方程式と力学系理論」(現代数学社)

Q2.数学の美しさって、なんですか?

A.ある程度、数学の訓練をした後に辿り着ける境地です。

マンガ
マンガ
マンガ

 僕が数学の美しさにはじめて惹き込まれたのは、熱伝導方程式を知ったときのこと。ものに火などの熱を当てると、熱が広がっていきますよね。その広がり方を表すための方程式というのがあって、それを用いると、火をあてた何秒後のこの部分は何度になるといったことが計算できます。

 この方程式の理論が、すごくカッコよくて面白いんですよ。美しいと感じました。

千葉逸人さん

 数学をやっていない人だと、方程式の理論が「カッコいい」「美しい」というのはピンとこないでしょうか。そうかもしれません。

 海とか川とか星とか、自然って美しいですよね。この美しさを感じるのは、たぶん生まれつきだと思うんです。でも、数式の公式や定理、理論が美しい。この境地に辿り着くには、訓練が必要です。

 でもこれは、数学に限らず、絵画やクラシックを堪能するのと同じ。芸術も、ある程度の知識や経験がなければ、じゅうぶんに美しさを味わえないですよね。
 ちゃんと宗教・歴史・美術の勉強をしている人なら、他の人と同じものを観ても、その美しさに深く胸を打たれるのかもしれない。知っているからこそ、感じられる美しさというのは確実にあります。

千葉逸人さん

 ……なんですが、ここでひとつ、数学の美しさについて、具体例を出しましょうか。

 

千葉逸人さん オイラーの多面体定理に挑戦

 オイラーの多面体定理です。ここに、四面体・六面体・六角柱、3つの図形があります。この多面体に共通する公式を見つけてみてください。

〈編集部注:下にすぐ答えがあります。ぜひ頭の体操と思って、チャレンジしてみてから、画面をスクロールしてくださいね〉

オイラーの多面体定理に挑戦

 これが答え。穴のない多面体において「頂点の数-辺の数+面の数=2」が成立する方程式が成り立ちます。…わかりましたか? 常に答えが「2」となる定理、これは「美しい」。

 数学者によって好みはありますが、ちょうど「2」になるなんて、数学者はみんな大好きです。

 ちなみに、さらに多面体をすべて曲面に変形させても、同じように「2」という数字を導き出せます。オイラーが定理を見出したのが1700年代、曲面にしても答えが変わらないとわかったのは1900年代。時を超えて、本来同じ現象が、違う数式を使って証明されるんです。それも美しいですよね。同じ結果が出るとしても、美しくないやつはやっぱり好きじゃない。

「2」が出てくることを数学者は誰でも証明できるんだけど、なぜ2なんだろう? そこには神秘性があります。

千葉逸人さん

<前編>はこちら
<後編>はこちら

スタッフクレジット:

取材・執筆:山内 宏泰
漫画:秋野ひろ
撮影:黑田 菜月

S H A R E

おすすめコンテンツ