<前編>「やりたいこと」がない人は「叶え組」かも。雑談の人・桜林直子さんに聞く、「やりたいこと」との向き合い方

人生の中で、きっと一度は聞かれたことがあるであろう「あなたは何がやりたいの?」というセリフ。やりたいことをスラスラ答えられる人もいれば、「そんなのないよ…」と、言葉に詰まってしまう方もいるかもしれません。「やりたいこと」は、どのように探し、向き合っていけばいいのでしょうか?
「夢組・叶え組」という言葉を生み出した桜林さんに、やりたいこととの向き合い方について話を聞いてみましょう。
プロフィール

桜林 直子(さくらばやし・なおこ) さん
1978年、東京都生まれ。洋菓子業界で12年の会社員を経て2011年に独立し、クッキー屋「SAC about cookies」を開店する(現在はオンライン販売のみ)。noteで発表したエッセイが注目を集め、『セブンルール』に出演。著書:『世界は夢組と叶え組でできている』(プレアデス出版)では、ユニークな視点から働き方・生き方についてのヒントを提案している。現在は「雑談の人」という看板を掲げ、雑談サービス「サクちゃん聞いて」を主催。コラムニストのジェーン・スーさんとのポッドキャスト番組『となりの雑談』も好評配信中。
Q1.やりたいことがなくて困っています。どうすればいいですか?
A.「やりたいこと」は(まだ)なくていいんじゃないかな。
私は2017年に、noteで『世界は「夢組」と「叶え組」でできている』という文章を書きました。
これは、世の中には「やりたいことがある人」と「ない人」がいて、どちらがいいとか悪いとかではなく、両方いるから成り立っているよね、という話。何かに夢中になる能力がある「やりたいことがある人」に「夢組」、「ない人」に「叶え組」という名前をつけました。

「やりたいことがない」って、どこかで引け目を感じている人も多いと思います。でも、やりたいことがないからこそ、できることがある。やりたいことがある人の助けになれたり、気持ちだけでやり方がわからないという人に、叶えるための手段や優先順位を客観的に見せることができたり。
夢組は自分のため、叶え組は誰かのため。このnoteにはとても多くの人が共感してくれて、2020年には書籍になりました。
だから、「やりたいこと」は別になくてもいい。それが私の考えです。
ただ、ひとつ注意点が。「夢組・叶え組」という考え方を知ると、「自分は叶え組だから、やりたいことがなくてもいいんだ!」と決め切ってしまう人が出てきますが、学生さんは、自分がどちらかなんてまだ決めない方がいいんじゃないかな、と思います。

それは、「やりたいこと」が「まだ」見つかっていないだけかもしれませんよね。まだ働いたことがないのだから、自分を叶え組だと思い込んでしまうのは、その後の人生のストッパーになりかねません。
私は自分のことを叶え組だと思っているのですが、それがわかったのも、うんと大人になってから。目の前のひとつひとつに対して本気で一生懸命やってみてからじゃないと、自分の向いている立ち位置はわからないんだと思います。
それに、「夢組」と「叶え組」って、そもそも線引きが曖昧でグラデーションなんですよ。
たとえば、やりたいことがある夢組の人が起業したとします。
会社をつくるときには夢組100%の気持ちで始めるけれど、成長の過程では必ず、社員やお客さんなど、さまざまな人のことを考えなければいけないフェーズがやってきます。社員の働きやすさやお客さんが求めることを考えるのって、「誰かのため」の「叶え組」の要素なんです。自分のやりたいことだけでは、絶対に大きくなれない。

アーティストや作家などの職業でも一緒です。需要を無視して自分の書きたいことだけを書くだけでずっと売れ続けるのって、本当に限られた一部の人。読者のため、関わってくれる人のため、という気持ちなしでは動機の循環が生まれないので、ひとりで書き続けるのって難しいと思うんです。
叶え組の人も、誰かの「やりたいこと」を一緒にやっていたらいつの間にか自分のアイデアが出てきて、自分でやってみようと思える瞬間があると思う。だから、夢組の人にも叶え組の要素があるし、叶え組の人にも夢組の要素があります。
学生のときは、夢組が「自分の夢を実現するための楽しそうな仕事」、叶え組は「人のために大変なことをする仕事」みたいに極端に見えちゃうかもしれないけれど、そんなことはない。
仕事には、夢組・叶え組、どちらの要素も必要。そのことがわかっているといいんじゃないかなと思います。

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スタッフクレジット:
取材・執筆:あかしゆか
漫画:吉本ユータヌキ
撮影:菊田 香太郎