<後編>「私はこのために生まれてきた」というものは深く悩まずに決めていい。ロボット研究者・吉藤オリィさんに聞く、人生のミッションの決め方

前回まで、分身ロボット「OriHime」の持ちうる可能性と、テクノロジーによってオリィさんが目指す社会のお話を聞いてきました。

これまでのお話を聞いていると、オリィさんが、自分の信じたビジョンを目指し、歩みを止めずにひたすら研究を進めてきたことが伝わってきます。その果てしなさに凄みを感じますが、ブレない姿勢で人生に挑むオリィさんはどんなふうに人生のミッションに辿り着いたのでしょうか? お話を聞いてみましょう。
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プロフィール

吉藤 オリィ(よしふじ・おりぃ)さん

奈良県生まれ。小学5年~中学3年まで不登校を経験。
高校時代に電動車椅子の新機構の発明を行い、JSECにて文部科学大臣賞Intel ISEFにてGrand Award 3rd を受賞、その際に寄せられた相談と自身の療養経験から「孤独の解消」を研究テーマとする。早稲田大学、孤独解消を目的とした分身ロボットの研究開発を独自のアプローチで取り組み、2012年株式会社オリィ研究所を設立。分身ロボット「OriHime」、ALS等の患者さん向けの意思伝達装置「OriHime eye+ switch」、寝たきりでも働けるカフェ 「分身ロボットカフェ」等を開発。2021年度「グッドデザイン賞」大賞に選ばれる。Ars Electronica -Golden Nicas受賞。

Q3.やりたいこと=自分のミッションはどう探したらいいですか?

A.終わりから逆算する視点を持つのが便利です。

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 私が掲げる「孤独の解消」というミッションが、自分の中でブレることは決してありません。「私はこのために生まれてきた」とはっきり言えるミッションを、10代のころに決めることができてよかったと思っています。

 そんなミッションに、どのように巡り会うことができるか? 「ひとつになんて決められない」「これぞというものが自分の中に見当たらない」という声も聞こえてきそうですね。私の経験からお話ししましょう。

吉藤 オリィさん

 私の場合は、小さいころから身体が弱く、視力の低下が止まらなかったんです。30歳で失明するかもしれない、と言われたこともあり、私は、自分が生きられるのはせいぜい30歳くらいまでだろうと考え、「人生30年」という設定でこれからのことを考えるクセがつきました。

 終わりを意識し、終わりから逆算するようになったんです。そうすると、「孤独の解消」というテーマ以外に手をつけている余地などないと気がつき、自然とやることが絞り込まれました。
 迷っていても何かに邁進していても、同じように時間は過ぎていきます。成し遂げたいことが明確にあったほうが、ミッションへ突き進んでいきやすくなりますよね。

 たとえば遊園地に遊びに行くときだって、帰る時間が決まっているからこそ、何に乗るか、どう回るといいか、プランが立てられます。終わりの時間を設定して、少々強引にでも決めてしまう。それが自分のやりたいこと=ミッションを打ち立てるうえでは便利です。

 もし、心から自分のこと、自分のミッションを信じることができなくても、「私はこのために生まれてきた」と決めてみたらいい。そんなに悩まずに決めてもいい。

 私は今生においては、「孤独の解消」以外のことはやらないと決めています。もちろんそのほかにも楽しそうなことや興味深いテーマはいっぱいありますが、それらはまあ、来世にとっておきます(笑)

分身ロボット「OriHime」

 自分がやることを思い切って絞り込んでしまうのは、誘惑も選択肢も多い現代を生きていく方法のひとつとして、アリだと思います。

 とはいえ、これは人それぞれですよ。「私はこのために生まれてきた」と言えないと駄目なんてことはなくて、ただ、こう言えるようになったことで、私は死にたいと思わなくなりました。そういった意味では、こういう考え方をしてみてもいいんじゃないかな、と思います。

 分身ロボットづくりや分身ロボットカフェをビジネスとして展開しているのも、自分の「終わり」を意識しているからです。
 「孤独の解消」というテーマは、自分がもう二度と孤独になりたくないから探究していることではありますが、もしもそれが実現できたとして、私が死ぬと振り出しに戻ってしまうようでは意味がない。私個人が消えても永続できるしくみはつくっておきたいものです。

 この資本主義の社会において、個人を超えて意思を引き継げるものとしては、会社組織が有効です。分身ロボットで稼ぐしくみを構築しておけば、仲間がそこで働きながら「孤独の解消」を目指し続けてくれるんじゃないかと希望が持てますからね。

吉藤 オリィさん

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スタッフクレジット:

取材・執筆:山内 宏泰
漫画:あまいろ
撮影:黑田 菜月

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