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SPECIAL INTERVIEW ー若き研究・開発者への伝言ー

VOLUME
53

主体的に考え、そして行動できる
人材が求められている

相澤 守AIZAWA MAMORU

明治大学 理工学部応用化学科 教授

1990年、上智大学理工学部化学科卒業。1992年、同大学大学院理工学研究科応用化学専攻修了。1992から花王株式会社素材研究所に勤務した後、1993年、上智大学理工学部助手。1996年、博士(工学)を取得。2001年10月〜2002年9月、英国ケンブリッジ大学に客員研究員として在外研究。2003年、明治大学理工学部応用化学科准教授。2008年より現職。無機材料、生体材料、組織工学を専攻し、研究テーマは「次世代医療に貢献する生命機能マテリアルの創製と生物学的評価」

骨折治療を革新するペースト状人工骨

明治大学の研究室にて

骨折すると、ギプスや金属製のプレートで患部を固定して、骨の自然な再生を待つことで治療が行われる。骨の一部を欠損するような場合は、骨盤などから採取した骨(自家骨)や、骨に似せて作られた人工材料を埋め込むことはあるが、それでも周囲の骨と馴染むには骨の再生を待たなければならず、骨折が完治するまでには時間がかかってしまう。そこで研究開発が進められているのがペースト状人工骨だ。ペースト状であるため注射器を用いて体に負担をかけずに骨折したところに注入できるし、注入後すぐに固化すれば速やかな完治が期待できるだろう。

すでに複数の人工骨が実用化されているが、固化する際に生じる熱で周囲の組織が炎症を起こすなどの問題が指摘されてきた。そこで明治大学理工学部の相澤守教授の研究グループは、周囲の正常組織に悪影響を及ぼすことなく、速やかに固化して骨折を治療するペースト状人工骨の研究開発を進めている。この研究に取り組むことになった経緯について、相澤教授がこう説明してくれた。
「上智大学では化学を専攻していましたが、子供の頃に読んだマンガの『ブラックジャック』への憧れもあって、医学にも興味がありました。ですから、大学4年生になって卒業研究に取り組むことになった際、バイオセラミックスの研究をすることに決め、これがその後の人工骨の研究につながりました」

といっても、卒業研究で取り組んだものはアルミナ基板に骨の主成分であるリン酸カルシウムの膜を形成するという基礎的な材料化学の研究であり、ペースト状人工骨を作り上げる研究ではなかった。

同僚から聞かされた話で始まったペースト状人工骨の研究

ケンブリッジ大学研究室での1コマ。上智大の岡田勲教授(当時)と。

大学院修士課程を修了した相澤教授は、民間企業の研究所を経て、上智大学に助手として勤務。生体材料の研究でも、人工骨ではなく、再生医療に用いる細胞を培養する足場材の研究に取り組んだ。リン酸カルシウムの一種であるアパタイトの多孔体の開発に進めていたのだが、そんな折、同じ大学の同僚からペースト状人工骨の研究を始めるきっかけとなる話がもたらされた。相澤教授がこう続ける。
「生体材料を研究していたので興味があると思ってくれたんでしょうね。同じ大学の仲間が、知り合いの歯学部の研究者の話を聞かせてくれたのです。虫歯の治療などで歯が欠けた部分を補う材料(補填材)の表面が、私たちの体内にもあるイノシトールリン酸という物質があると、歯との接着性が高まるという話だったのです。そこでアパタイトにイノシトールリン酸を結合させてやれば、アパタイトどうしの接着性も高められるのではないかと考えました」

このアイデアこそ、ペースト状人工骨の研究につながるわけだが、当時、相澤教授が取り組んでいたのは足場材の開発だ。イノシトールリン酸で補填材の接着性が高まるという話を聞いて、なぜペースト状人工骨の研究のアイデアに至ったのだろうか。相澤教授がこう説明してくれた。
「当時は研究者としてはまだまだ駆け出しでしたから、何か新しい研究テーマを模索していたんでしょうね。ですから、イノシトールリン酸の話を聞いて、アパタイトへの応用を思いつき、ペースト状人工骨の研究を始めるきっかけになりました」

努力している者だけがセレンディピティを得る

ペースト状人工骨の外観

偶然の出来事で研究が進展する…研究活動では「セレンディピティ」と表現される出来事が時として起こる。しかし、何もしていないところに突然、幸運がもたらされるわけではない。相澤教授の場合、足場材の開発に取り組んでいても、当時のペースト状人工骨が持つ問題を把握していたことで、イノシトールリン酸を用いることで理想的な人工骨が開発できるのではないかとアイデアに至ったのだ。相澤教授がこう付け加える。
「北野大先生(明治大学・元教授)が仰っていましたが、セレンディピティは努力しているからこそ得られるんですね。私の努力が十分だったかどうかはわかりませんが、当時のペースト状人工骨の問題点を把握するとともに、新たな研究テーマを探していたので、同僚から聞かされた話を自分の研究に取り入れることができたのだと思います」

もちろんアイデアだけで研究が完結するわけではない。アパタイトどうしの接着性を高めるアイデアを得たとはいえ、イノシトールリン酸と混ぜただけでは紙粘土のような状態で、とても注射器で患部に注入できるものではなかった。地道な実験を繰り返して、アパタイトの粒径や添加剤の濃度などを最適化。目指すペースト状人工骨に近づけていった。

人体に注入するため安全性や効果を厳密に確かめる必要があり、実用化するにはもう少し時間がかかりそうだが、これまでに実施されたブタの骨を対象とした実験では、事前に骨に空けられた穴をペースト状人工骨が速やかに塞ぐことに成功しており、周辺組織の炎症も生じていないという。近い将来、相澤教授らが開発したペースト状人工骨が実用化されて、骨折治療に革新をもたらすことだろう。

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