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SPECIAL INTERVIEW ー若き研究・開発者への伝言ー

VOLUME
60

理系出身者の使命は研究開発だけではない
科学技術を発展させる多様な人材が求められている

生越 由美OGOSE YUMI

東京理科大学大学院 経営学研究科 技術経営専攻 教授

1959年、大阪府出身。1982年に東京理科大学卒業後、経済産業省の特許庁に入庁。審査官、審判官を経て、2002〜2004年、信州大学大学院非常勤講師(兼任)、2003年、特許審査第二部上席総括審査官、政策研究科大学院大学助教授を経て、2005年から現職。知的戦略本部コンテンツ・日本ブランド専門調査会委員、内閣府総合科学技術会議産学官連携功労者表彰選考委員、農林水産技術会議専門委員などを歴任。専門分野は知財政策、知財教育、文化産業。

小学生の頃に読んだ本で薬の危険性を知る

日進月歩で進む研究開発によって生み出された新技術を世に送りだすためには、技術の知財化は欠かせない。いくら優れた科学技術を生み出そうとも、知財化なくして富を生むことは不可能だ。資源が乏しい日本では “科学技術立国”と標榜されるようになって久しいが、これは“知財立国”と言い換えてもいいだろう。

近年では研究開発にも介入する積極的な知財戦略が求められるようになっており、東京理科大学大学院経営学研究科の生越由美教授は、科学技術の知財戦略を研究するとともに、次世代の知財戦略を担う人材の育成に取り組んでいる。では、生越教授は、どのような経緯で知財の道に進んだのだろうか。往時を振り返ってこう語ってくれた。
「小学6年生の頃、夏休みの宿題として『薬 その安全性』という本を読んだことは、その後の人生を大きく決定づけることになりました。病気を治療するのに薬は欠かせないとはいえ、副作用を引き起こしてしまうと、多くの人が不幸な目に合うことを知りました。特に印象深かったのはサリドマイドの薬害の問題でした。同世代に多かったサリドマイド児の誕生の理由を知って大きなショックを受けた」

サリドマイドは1957年にドイツの製薬会社から販売が開始された薬剤で、睡眠薬、胃腸薬として販売されたが、催奇形性を持っていることが判明。妊婦が服用すると胎児に重篤な障害が発症することが明らかになっていた。日本でも1962年に出荷が停止されるが、多くの赤ちゃんが先天的に障がいを持って生まれることになった。

膨大な情報に惹かれて特許庁に入庁

『薬 その安全性』でその事実を知った生越教授が受けたショックは、決して小さなものではなかっただろう。生越教授がこう続ける。
「私にとって最も大きな衝撃だったのは、世界中の多くの国で販売されていたにも関わらず、アメリカの食品医薬品局(FDA)だけは販売を承認しなかったことでした。ある女性審査官が、いち早くサリドマイドに催奇形性があるとの情報を察知して、製薬会社からの圧力に屈することなく承認しなかったのです。いかに情報が大切かを学びました」

薬の副作用で苦しむ人を救いたいと考えた生越教授は、東京理科大学の薬学部に進学。将来は厚生省(現・厚生労働省)で薬事行政に関わることを志すが、同大学卒業後は特許庁に入庁した。一見、志望とは異なる道に進んだように思えるが、特許庁に入った理由について、生越教授がこう説明してくれた。
「厚生省からも内定はいただいていたのですが、特許庁にも話を聞きに行ったところ、『ここには膨大な科学技術情報があります』と説明され、すごく惹かれたんです。しかも、案内された資料館には、日本だけでなく、アメリカ、イギリス、フランスなど、欧米諸国の特許公報が集められていて、言葉通りに膨大な情報が蓄積されていました。それで特許庁に入ろうと決めたんです」

専門外の部署への配属が後々活きてくる

特許庁勤務時代の生越教授(右)。園田指導審査官の退官時に

こうして特許庁に入った生越教授は機械系の審査部に配属され、包装容器、包装装置の審査に取り組んだ。その後、自動販売機、プリペイドカードなど、さまざまな分野の審査を担当することになるが、学生時代に生越教授が所属していたのは薬学部であり、機械の審査は専門外だったはず。生越教授がこう語る。
「確かに学生時分の専門とは異なる部署に配属されました。担当する分野が変わることに、一から勉強しなければなりませんでしたが、幸い先輩の審査官が手取り足取り教えてくれましたから問題はありませんでした。機械関連の技術について勉強できたことは、後々の財産になりました。医療機器の審査を担当することになって、学生時代に学んだ化学と、特許庁で学んだ機械の知識を活かして審査に取り組むことができました」

医療機器の中でも人工透析器や血液を成分ごとに分離する技術を審査しようとすると、化学と機械の両方の知識が求められる。生越教授の配属を決めた人事担当者に、医療機器を審査できる人材を育てようという深慮遠謀があったかどうかは分からないが、結果的に機械系の審査部に配属されたことは、生越教授にとっては幸運なことだったに違いない。

誰しも専門外の部署に配属されれば、戸惑うことが多く、場合によっては“望まぬ人事”と感じられるかもしれない。しかし、生越教授のように専門外の知識であっても積極的に習得すれば、後々大きく活かせるはず。逆に自分の専門を限定して、専門外の領域を避けていては自身のキャリアを狭めてしまう可能性もあるだろう。

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