東大教授に学ぶ 実習に役立つ!ヒヤリ・ハット事例

医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、
現場で実際に起きたヒヤリ・ハット事例とその対処方法を紹介します。

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事例22

ボルタレンゲルを
勝手に密封包帯法で使用

事例内容

ボルタレンゲル 1%(一般名:ジクロフェナクナトリウム)を肩部に塗布し、さらにサランラップで被い密封していた。

<処方> 53歳男性。肩関節周囲炎。処方オーダリング、病院の内科。

ボルタレンゲル 1% 50g 1本 1日3回 肩部に塗布

*実際の処方通りに記載。

具体的な過程

患者は、以前にステロイド外用剤の密封包帯法(Occulusive DressingTechnique:ODT法)を行った経験がある。その時に用いていたポリエチレンフィルムや接着テープなどが自宅に残っていた。今回、整形外科において肩関節周囲炎のためにボルタレンゲルが処方されたが、患者はステロイド外用剤を使用したときと同様に密封すれば効果が高まると思い、自己流でODT法を試みた。この不適正使用は、患者が薬局に再来したときに判明した。

原因

ODT法とは、ステロイド外用剤を0.5〜1mmの厚さに塗布した後に、通気性のないラップなどのポリエチレンフィルムで被い密封して治療するものである。密封により皮膚が水和してステロイドの吸収が高まる。一方、大部分のNSAIDs外用剤についてはODT法を適用してはならないとされている。ボルタレンゲルも適正に使用した場合、成分の全循環血への移行は極めて低いと考えられているが、ODT法で使用した場合、全身的投与(経口剤、坐剤)と同様の副作用が発現する可能性があるので、添付文書上ODT法で使用しないこととされている(参考事項)。

今回のヒヤリ・ハット事例によって引き起こされる
「最悪の事態」を考えてみましょう。

ジクロフェナクの全身作用により  

正解と今後の対応を見る

予想される最悪の事態

ジクロフェナクの全身作用により急性腎不全、横紋筋融解症。

今後の対応

【今後の対応】
ボルタレンゲルは単純塗布するよう指導する。ボルタレンゲルの添付文書には患部に塗擦(よく擦り込む)とあるが、激しい塗擦は血液中濃度が増加して全身作用を引き起こすため避けた方がよいと考えられる。一般にNSAIDs外用剤では塗擦により皮膚中濃度と血液中濃度が増加して効果が高まることが認められているが、ボルタレンの場合、繰り返し擦り込む必要はなく、効果を高めるには入浴後の塗布が勧められる。また、ODT法は本剤については副作用としての全身作用を来す可能性があるので決して行わないよう指導することが必要である。

【具体的な説明や確認】
肩の痛い所とその周辺に、満遍なく薄く塗り広げてください。繰り返し擦り込む必要はありません。お風呂上りに塗ると、より効果的です。こちらの薬歴によれば、過去にステロイド外用剤の密封療法をされていらっしゃいますね。今回のお薬を同じように密封して使用すると、薬の皮膚からの吸収が促進して、飲み薬や坐薬と同じくらい強い全身的な副作用が現れる危険性がありますので、指示通りの使用法を守ってください。

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プロフィール

東京大学大学院客員教授(薬学系研究科 育薬学講座)
澤田 康文

医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、全国から収集し、解析を加えたヒヤリ・ハット事例を紹介し、医薬品適正使用と育薬のポイントを解説します。

[書籍紹介]
ヒヤリ・ハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント
(日経 BP社)

ヒヤリハット事例の原因を分析し、どうリスクを回避すべきかを提示する“服薬リスクマネジメント”の実践書です。本連載は本書に掲載された事例を引用・改変して掲載しております。

更に多くのヒヤリ・ハット事例を NPO法人・医薬品ライフタイムマネジメントセンターで紹介しております。薬剤師になった暁には是非ご参加ください。また、自己研鑽を深めて頂く卒後研修のプログラム(育薬セミナー)も提供しています。詳細については、ホームページをご覧ください。