東大教授に学ぶ 実習に役立つ!ヒヤリ・ハット事例

医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、
現場で実際に起きたヒヤリ・ハット事例とその対処方法を紹介します。

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事例21

デルモベート軟膏と
パスタロンソフトのどちらが先?

事例内容

デルモベート軟膏(一般名:クロベタゾールプロピオン酸エステル)とパスタロンソフト軟膏(尿素)の塗布する順序がわからず、間違った順序で塗布し副作用が強く出たらと心配し、使用をやめてしまった。 

<処方> 68歳女性。進行性指掌角皮症(湿疹)。処方オーダリング、病院の内科。

デルモベート軟膏 0.05% 5g 全4本1日1回 両手の甲に塗布
パスタロンソフト軟膏 10% 20g 全1本 1日1回 両手の甲に塗布

*実際の処方通りに記載。

具体的な過程

薬剤師からは、両薬剤の効能効果、副作用などの説明を受けたが、帰宅後、実際に手に塗布するときに、どちらの薬剤から塗布すればいいのかわからなった。もし間違った順序で塗ってしまったら、治療効果が得られないばかりか、副作用が強く出るのではないかと不安になった。翌日、患者から質問を受けた薬剤師が医師へ問い合わせたところ、どちらから塗布してもよいことになった。しかし、決めておいた方が安心との判断から、デルモベート軟膏を先に塗布するということになった。

原因

皮膚科領域では、複数の外用剤の併用がよく行われる。同じ場所に塗布する場合には、その順番をどうすればいいのか患者は迷うところである。本事例のように薬剤師からの説明がなければ、副作用を心配しがちな患者は特に大きな不安を抱くことになる。  一般的にステロイド外用剤と保湿剤などが同じ部位に併用される場合、コンプライアンスの低下を回避するために事前に軟膏を混合調剤して交付することが多いが、しばし重ね塗りする場合もある。その場合、皮膚科領域では、一般的にはステロイド外用剤を先に塗布する場合が多いようである(ある調査によると、ステロイド剤を先に塗布する場合が50%程度、ステロイド剤を後から塗布する場合が15%程度、順序を指定しない場合が20%程度であった)。これは、疾患に対して効果の強い皮膚外用剤を先に塗布するという意図であろうが、経験的なものであり根拠を明らかにした研究は今のところ報告されていない。一般的に塗布順序と治療効果の関係を検討した報告は現時点ではないが、動物(ラット)実験でデルモベート軟膏とパスタロンソフト、ヒルドイドソフト(ヘパリン類似物質)について塗布順序の影響を検討した研究によれば、体重減少(副作用)には大きな違いはないとの結果が得られている。

今回のヒヤリ・ハット事例によって引き起こされる
「最悪の事態」を考えてみましょう。

  により湿疹が悪化。

正解と今後の対応を見る

予想される最悪の事態

服薬中止と不安の増強により湿疹が悪化。

今後の対応

【今後の対応】
患者によって、コンプライアンス不良になる可能性がある場合は、軟膏の混合を考える。また、別々に調剤する場合には、基本的にはどちらから塗布してもよいと思われるが、これまでの皮膚科領域での経験から、まずステロイド剤から塗布するよう指導することも一つの方法と考えられる。

【具体的な説明や確認】
今回、軟膏剤が二つ処方されていますが、どちらを先に塗布すればよいか気になるかもしれません。基本的には、どちらを先に塗られても結構です。しかし、これまでの経験では、デルモベート軟膏を先に塗布する方が多いようです。今回もそのようにしましょう。でも、もし間違って、後先が逆になっても問題ありませんので、あまり気にしないでください。

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プロフィール

東京大学大学院客員教授(薬学系研究科 育薬学講座)
澤田 康文

医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、全国から収集し、解析を加えたヒヤリ・ハット事例を紹介し、医薬品適正使用と育薬のポイントを解説します。

[書籍紹介]
ヒヤリ・ハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント
(日経 BP社)

ヒヤリハット事例の原因を分析し、どうリスクを回避すべきかを提示する“服薬リスクマネジメント”の実践書です。本連載は本書に掲載された事例を引用・改変して掲載しております。

更に多くのヒヤリ・ハット事例を NPO法人・医薬品ライフタイムマネジメントセンターで紹介しております。薬剤師になった暁には是非ご参加ください。また、自己研鑽を深めて頂く卒後研修のプログラム(育薬セミナー)も提供しています。詳細については、ホームページをご覧ください。