東大教授に学ぶ 実習に役立つ!ヒヤリ・ハット事例

医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、
現場で実際に起きたヒヤリ・ハット事例とその対処方法を紹介します。

2週間に1回更新中!

事例03

便中にデパケンR錠の白色残渣

事例内容

来局時に患者から「時々、便の中に錠剤がそのままの形で混ざっているのだが、大丈夫だろうか」と相談された。患者は「薬がきちんと吸収されていないのではないか」と心配していた。

<処方> 40歳代の女性。てんかん。処方オーダリング。病院の精神科。

.妊僖吋R錠100mg 6錠 1日2回 朝夕食後服用 28日分 ▲侫Д離弌璽觧 10% 60mg(成分量として) 1日3回 毎食後服用 28日分

*実際の処方通りに記載。

具体的な過程

処方は長らく変わっていない。数カ月前、患者が病院内のトイレで大便をした際、便器が和式だったため自分の便をよく観察でき、便中に白色の錠剤を発見した。その後、自宅でも注意して便を観察するようになり、しばしば便中に錠剤を認めたという。患者には、残渣は主薬が放出された後の“抜け殻”であり、治療上問題がないことを説明したが、不安感を完全には払拭できなかった。そこで患者と相談の上、医師に細粒剤への処方変更を提案。「デパケン細粒600mg(成分量として)、1日3回、毎食後」に変更された。

原因

デパケンR錠は、外側の糖衣が消化管内で短時間で消失し、主薬のバルプロ酸ナトリウムが水に不溶のマトリックスから徐放膜を介して放出される(5時間で約50%、9〜10時間で100%溶出される)。実際に、糞便中に錠剤の形状を保持したまま残渣が排泄された13症例について、回収した錠剤の残渣の主薬残存率を測定した結果、約10%残存していた1例を除いて、残存率はすべて1〜5%にすぎなかったと報告されている(協和発酵社内資料)。患者が便中に発見した白色残渣は、この“抜け殻”である可能性が高く、治療上の問題はないものと考えられる。ただし、患者が重篤な下痢症状を伴っている場合には、主薬が十分吸収されないうちに錠剤が糞便中に排泄され、血中バルプロ酸濃度が十分に上昇していない可能性がある。その場合には、一時的に普通錠を使用するなどの対応が必要である。

今回のヒヤリ・ハット事例によって引き起こされる
「最悪の事態」を考えてみましょう。

服薬拒否から を起こし、それに続く転倒。

正解と今後の対応を見る

予想される最悪の事態

服薬拒否からてんかん発作を起こし、それに続く転倒。

今後の対応

【今後の対応】
便中に製剤が排泄される薬剤を服用する患者には、患者が便中の残渣に不安を感じないよう、事前にその可能性を説明しておく。また、患者が残渣を強く気にする場合には、処方医に相談し、散剤などに剤形を変更することも検討すべきである。

【具体的な説明や確認】
このお薬を服用すると、便の中に錠剤の“抜け殻”のようなものが残ることがあります。ですが、これは主成分が溶け出た後、錠剤を覆う膜が水に溶け切れなかったために残ったもので、治療上特に問題ありませんので、安心して服用してください。

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プロフィール

東京大学大学院客員教授(薬学系研究科 育薬学講座)
澤田 康文

医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、全国から収集し、解析を加えたヒヤリ・ハット事例を紹介し、医薬品適正使用と育薬のポイントを解説します。

[書籍紹介]
ヒヤリ・ハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント
(日経 BP社)

ヒヤリハット事例の原因を分析し、どうリスクを回避すべきかを提示する“服薬リスクマネジメント”の実践書です。本連載は本書に掲載された事例を引用・改変して掲載しております。

更に多くのヒヤリ・ハット事例を NPO法人・医薬品ライフタイムマネジメントセンターで紹介しております。薬剤師になった暁には是非ご参加ください。また、自己研鑽を深めて頂く卒後研修のプログラム(育薬セミナー)も提供しています。詳細については、ホームページをご覧ください。