東大教授に学ぶ 実習に役立つ!ヒヤリ・ハット事例

医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、
現場で実際に起きたヒヤリ・ハット事例とその対処方法を紹介します。

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事例04

トランサミンを
止血目的とわからず

事例内容

耳鼻科診療所を受診後、上記の処方せんを持参した患者に対して、薬剤師が、トランサミンカプセルを「のどの炎症を抑えるお薬です」と説明した。説明後、患者から「鼻血を止める薬は出ていませんか」と質問された。ここで初めて薬剤師は、同剤が止血剤として処方されていたことに気づき、止血剤としての作用があることを付け加えて説明し直した。

<処方> 30歳代の男性。方オーダリング。病院の内科。

PL配合顆粒 3g 1日3回 毎食後 4日分
トランサミンカプセル 250mg 3カプセル 1日3回 毎食後 4日分

*実際の処方通りに記載。

具体的な過程

薬剤師は、服薬指導を始めるに当たって、PL配合顆粒が処方されていたことから「かぜですか?」と患者に尋ね、患者から「はい」と返答があった。このため、併用されていたトランサミンが扁桃炎や咽喉頭炎などを抑える目的で処方されたものと考え、患者にそのように説明してしまった。しかし、患者が気にしていたのは、鼻をかんだ時に繰り返し鼻出血が起こることであった(鼻出血の詳細は不明)。  この薬局では、PL顆粒とトランサミンが併用されている処方せんを幾度となく経験していたが、その場合、トランサミンは、扁桃炎や咽喉頭炎の治療目的で併用されていた。また、止血目的でトランサミンが処方される場合は、アドナ(一般名:カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム)が併用されるケースが大半だった。

原因

トランサミン(一般名:トラネキサム酸)は、フィブリン分解酵素であるプラスミンの作用を阻害することで、抗炎症作用や止血作用などを発揮する。同剤の適応は、扁桃炎や咽喉頭炎以外にも、線溶亢進による出血、蕁麻疹などの皮膚疾患、口内炎など幅広く、使用目的に関する説明を慎重に行うべき薬剤の一つといえる。  このケースで薬剤師は、指導前に患者にきちんと病状を確認している。総合感冒剤のPL顆粒が処方されていることを考えれば、「かぜですか」という尋ね方も妥当といえるだろう。しかし結果的に、薬剤師が推定したトランサミンの使用目的(扁桃炎などの炎症抑制)と実際の使用目的(鼻出血の改善)が食い違い、一時的にではあるが、患者に不安を与えてしまっている。  本例では、処方せんが耳鼻科医から発行されていることに着目できれば、かぜ以外に何らかの耳鼻科疾患があることを疑えた可能性がある。ただし実際には、単なるかぜや咽喉頭炎を主訴に耳鼻咽喉科を受診する患者もおり、決め手にはなりにくい。

今回のヒヤリ・ハット事例によって引き起こされる
「最悪の事態」を考えてみましょう。

服薬中断により   が悪化し入院。

正解と今後の対応を見る

予想される最悪の事態

服薬中断により鼻出血が悪化し入院。

今後の対応

【今後の対応】
薬剤師側からYes/No形式で単純に病名を確認しただけでは、情報収集に漏れが生じる場合がある。漏れを防ぐには、例えば、かぜであることがわかった時点で、「特に気になるのはどのような症状ですか」といったより間口の広い質問を加える。また、角度を変えて「先生(医師)から、薬についてどのような説明を受けましたか」といった質問をする方法もよいだろう。患者に突っ込んだ質問ができるかどうかはケースバイケースだろうが、できるだけ幅広く情報を収集することが大切である

【具体的な説明や確認】
処方せんを見ると、今日はかぜで受診されたようですが、特に気になる症状はありますでしょうか。このトランサミンというお薬は普通、のどの痛みに使われることが多いのですが、出血を止める際にも使われることがあります。その場合でしたら、文書の説明とは異なります。今、ここに私が手書きで修正したものがこのお薬の使用目的ですので、こちらをお読みになってください。

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プロフィール

東京大学大学院客員教授(薬学系研究科 育薬学講座)
澤田 康文

医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、全国から収集し、解析を加えたヒヤリ・ハット事例を紹介し、医薬品適正使用と育薬のポイントを解説します。

[書籍紹介]
ヒヤリ・ハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント
(日経 BP社)

ヒヤリハット事例の原因を分析し、どうリスクを回避すべきかを提示する“服薬リスクマネジメント”の実践書です。本連載は本書に掲載された事例を引用・改変して掲載しております。

更に多くのヒヤリ・ハット事例を NPO法人・医薬品ライフタイムマネジメントセンターで紹介しております。薬剤師になった暁には是非ご参加ください。また、自己研鑽を深めて頂く卒後研修のプログラム(育薬セミナー)も提供しています。詳細については、ホームページをご覧ください。