東大教授に学ぶ 実習に役立つ!ヒヤリ・ハット事例

医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、
現場で実際に起きたヒヤリ・ハット事例とその対処方法を紹介します。

2週間に1回更新中!

事例05

復帰組の薬剤師、カバサールを
パーキンソン病薬と説明

事例内容

産婦人科からカバサール錠(一般名:カベルゴリン、ドパミン作動剤)が処方された女性患者に対し、10数年ぶりに薬局業務に復帰した薬剤師は、パーキンソン病だと思い込み「手のふるえを抑えるお薬です」と説明した。患者は何も言わずに帰宅したが、その後、同剤が排卵障害の治療を目的に使用されていたことが判明した。

<処方> 30歳代の女性。排卵障害。処方オーダリング。病院の産婦人科。

カバサール錠0.25mg 1錠 毎週水曜日のみ 1日1回 寝る前 3日分

*実際の処方通りに記載。

具体的な過程

投薬に当たった薬剤師(10数年ぶりに職場に復帰した)は、30歳代の女性にパーキンソン病治療薬が処方されたことを疑問に感じはしたが、そのまま投薬してしまった。しかし、その後も、産婦人科からカバサールの処方が数件続いたため調べたところ、排卵障害などの効能・効果が追加されていたことがわかった。処方医に確認してみると、やはり排卵障害の治療が目的だった。薬剤師は、誤った説明をしてしまったことを産婦人科処方医に報告したところ、同医師は「こちらで、効能・効果を含めてきちんと説明しているので問題ないでしょう」と回答した。なおカバサールは、2003年4月(薬剤師が子育てのため退職した時期)に適応が拡大され、高プロラクチン血性排卵障害などへの使用が可能になっていた。

原因

患者に治療目的を説明する際は、可能な限り、患者インタビューで疾患名などを確認した上で行うことが基本である。そうしないと、適応が複数ある場合や、適応外で薬剤が使用された場合などに、医師の意図とは異なる説明をしてしまう可能性がある。本ケースも、この基本手順を踏んでいれば、少なくともパーキンソン病患者ではないことに気づくことができたはずである。ただし本例では、排卵障害という疾患の性質上、特に指導した薬剤師が男性であった場合には、患者から病名を聞き出すことが難しかった可能性もある。  またこのケースで、薬剤師は、カバサールが「週1回、就寝前服用」で処方されている点に着目すべきであった。同剤は、排卵障害等には1週1回就寝前投与するが、パーキンソン病患者に対しては1日1回朝食後に投与することが定められているからである。
 当該薬剤師は十数年ぶりに薬局に復帰したため、以前の古い情報でカバサールの効能を判断して服薬指導してしまった。更にカバサールの薬情を確認していなかった。

今回のヒヤリ・ハット事例によって引き起こされる
「最悪の事態」を考えてみましょう。

服薬中止による の悪化。

正解と今後の対応を見る

予想される最悪の事態

服薬中止による排卵障害の悪化。

今後の対応

【今後の対応】
ブランクがあって数年ぶりに薬局に復帰した薬剤師は、その間の新薬情報は言うに及ばず、効能追加などの添付文書の改訂情報を含め、あらゆる医薬品関連情報を速やかに入手して理解することが必要である。

【具体的な説明や確認】
こちらのカバサールは、排卵を促すためのお薬というようにお聞きになっていますでしょうか。このお薬はそのような目的のほかに普通、手のふるえなどを抑えるために使われることもあります。薬情に詳しくかいてありますのでこちらをお読みになってください。

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プロフィール

東京大学大学院客員教授(薬学系研究科 育薬学講座)
澤田 康文

医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、全国から収集し、解析を加えたヒヤリ・ハット事例を紹介し、医薬品適正使用と育薬のポイントを解説します。

[書籍紹介]
ヒヤリ・ハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント
(日経 BP社)

ヒヤリハット事例の原因を分析し、どうリスクを回避すべきかを提示する“服薬リスクマネジメント”の実践書です。本連載は本書に掲載された事例を引用・改変して掲載しております。

更に多くのヒヤリ・ハット事例を NPO法人・医薬品ライフタイムマネジメントセンターで紹介しております。薬剤師になった暁には是非ご参加ください。また、自己研鑽を深めて頂く卒後研修のプログラム(育薬セミナー)も提供しています。詳細については、ホームページをご覧ください。