医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、
現場で実際に起きたヒヤリ・ハット事例とその対処方法を紹介します。
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18時間にボルタレン錠を10錠服用
患者は歯科医院を受診後、痛み止めのためボルタレン錠(一般名:ジクロフェナクナトリウム)を処方された。ところが、翌日の午前10時に、「薬を全部飲んでしまいました。痛みが続いているので、鎮痛剤をまたください」といって歯科医院に駆け込んで来た。
<処方> 20歳代の男性。歯痛。処方オーダリング。病院の内科。
ボルタレン錠25mg 1回2錠 頓用 疼痛時 5回分
*実際の処方通りに記載。
患者は虫歯を治療する目的で歯科医院を訪れた。治療後、疼痛が続くため、まず午後4時にボルタレンを2錠服用した。それでも痛みは治まらず、午後6時に2錠、午後8時にまた2錠を服用した。そして、翌日午前10時に再来院するまでのわずか18時間の間に10錠(250mg)をすべて飲み切ってしまったのである。本来の次回診察予約日は1週間後であったが、とても耐えられない痛みだったと患者は述べた。幸いなことに、特に有害事象は起こっていない。歯科医師は患者に対し、痛みを取るために原因の治療を早急に行った。
歯科医師は、疼痛時に4〜5時間に1回服用することを想定して処方したが、そのことを患者に告げていなかった。また薬剤師も、飲み方(服用間隔など)について詳細な説明をしていなかった。ボルタレン(内服)の「抜歯後の鎮痛・消炎」に対する最大1日量は100mgと考えられる。しかし、患者は痛みに耐えかねて、実際には、4時間の経過を待たずに服用し、午後4時から翌日の午前10時までのわずか18時間の間に10錠(250mg)を服用してしまったわけである。
今回のヒヤリ・ハット事例によって引き起こされる
「最悪の事態」を考えてみましょう。

過量服用による消化管出血で緊急入院。
【今後の対応】
ボルタレンなどのNSAIDs(内服)が処方された場合、最大1日量を考えて、1日2回までの服用にとどめるように説明する必要がある。それでも、強い痛みが続く場合には、頓用回数を1日3回以上に増やすのではなく、適切な対処をしてもらうために直ちに受診するように指導すべきである。
【具体的な説明や確認】
抜歯した後の強い痛みのようですので、このお薬は今(午後4時)まず2錠を飲んでください。その後もまだ痛むようでしたら、4〜5時間の間隔を空けてさらに2錠を飲むことができます。ただし、1日2回までが限度です。今日は最短で2日半分に相当する量が出ております。それでも強い痛みが続くようでしたら、頓用回数1日3回以上に増やすのではなく、適切な対処が必要と思われますので、歯科医師に直ちにかかるようにしてください。
東京大学大学院客員教授(薬学系研究科 育薬学講座)
澤田 康文
医薬品をめぐるリスクマネジメント研究の第一人者である澤田康文教授が、全国から収集し、解析を加えたヒヤリ・ハット事例を紹介し、医薬品適正使用と育薬のポイントを解説します。

[書籍紹介]
ヒヤリ・ハット事例に学ぶ服薬指導のリスクマネジメント
(日経 BP社)
ヒヤリハット事例の原因を分析し、どうリスクを回避すべきかを提示する“服薬リスクマネジメント”の実践書です。本連載は本書に掲載された事例を引用・改変して掲載しております。
更に多くのヒヤリ・ハット事例を NPO法人・医薬品ライフタイムマネジメントセンターで紹介しております。薬剤師になった暁には是非ご参加ください。また、自己研鑽を深めて頂く卒後研修のプログラム(育薬セミナー)も提供しています。詳細については、ホームページをご覧ください。
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