薬の専門家として、誇りと自覚をもって社会に羽ばたいてほしい

渡部 一宏

WATANABE KAZUHIRO

昭和薬科大学 臨床薬学教育研究センター 実践薬学部門 教授/学校法人昭和薬科大学理事

1995年昭和薬科大学卒、1997年同大学院修士課程修了。1997年聖路加国際病院薬剤部入職。2008年共立薬科大学大学院薬学研究科博士課程修了(博士(薬学))。2009年聖路加国際病院 薬剤部退職後、昭和薬科大学臨床薬学教育研究センター講師に着任、2013年同准教授、2017年 同大臨床薬学教育研究センター実践薬学部門教授、現在に至る。2017年5月より学校法人昭和薬科大学理事を併任。

薬剤師業界の最新動向を教えてください。

非薬剤師が調剤業務の一部に携わることが可能に

2019年4月2日、厚生労働省が「調剤業務のあり方について」と記した文書を公表しました。薬剤師の業務のうち、「処方箋に記載された医薬品の必要量を取り揃える行為」及び「監査の前に行う一包化した薬剤の数量の確認行為」について、薬剤師の指示の下、薬剤師以外の者が実施することを「差し支えない」と通達したのです。この公表は、薬剤師業界に大きな波紋を投じました。「非薬剤師が調剤をして良いのなら、薬剤師の存在価値がなくなってしまうのでは」――このような焦りを感じた薬剤師は、決して少なくないでしょう。

本学の学生たちも、同じような印象を抱いたようです。しかし、ここで気をつけてほしいのは、「調剤に最終的な責任を有する薬剤師の指示」に基づいた行為であり、「調剤した薬剤の最終的な責任は、当該薬剤師が自ら行う必要がある」としていること。厚労省の通達は、決して薬剤師の存在を否定しているのではなく、むしろ、薬剤師に求められる役割が変化していることを意味しているのです。

そして、厚労省がこのような通達をした目的は「対人業務のさらなる充実」にあります。薬剤師の役割は、「調剤した薬を患者さんに渡すこと」だけではありません。患者さんと向き合い、正しく服薬できるよう指導し、薬物治療の効果が十分に発揮するようサポートすることもまた、大切な業務の一つ。今後は、調剤業務の一部を非薬剤師に任せることで、より一層、患者さんと深く関わっていくことが求められていくことでしょう。

卒業生の就職動向に変化はありますか?

保険薬局やドラッグストアの人気が高まる

昭和薬科大学は、90年の歴史をもつ単科の薬科大学です。6年制学部と大学院薬学研究科(修士/博士)から成り、「薬を通して人類に貢献」を大学の理念に掲げています。アットホームな校風があり、学生と教員の距離が非常に近く、どの教員も日頃から親身になって学生の就活相談に応じています。

薬学部卒業生の就職先は、保険薬局約35%、調剤併設ドラッグストアが約25%、病院薬剤師約20数%、製薬・治験関連企業、医薬品総合卸職約10数%、その他数%。その他の内訳としては、公務員(薬事行政職)や、香粧品・食品メーカーの開発職などで、さまざまな職域で薬剤師の資格を有する卒業生が活躍しています。

特にここ数年は、「健康サポート薬局」や「かかりつけ薬剤師・薬局制度」に興味・関心を抱く学生が多く、調剤併設ドラッグストアへの志望者が増加傾向にあります。保険薬局やドラッグストアは薬剤師の需要が高く、給与や福利厚生面の充実を図っている企業も少なくありません。このような待遇面の良さもまた、人気の理由となっています。

大学院に進学し、キャリアの幅を広げた者もいます。本学の6年制薬学部第1期卒業生のうち、3名が大学院博士課程に進みました。各々、海外の大学で研究者、製薬会社の創薬研究者、国立研究機関の研究員で活躍しています。

学生時代に学ぶべきことは?

コミュニケーション能力や医療プロフェッショナリズムの習得を

冒頭でご説明したとおり、今後、薬剤師はこれまで以上に深く患者さんと関わりながら薬物治療を支えていくことが期待されています。「薬局のカウンターで処方せんを待つ」ような受け身の姿勢ではなく、積極的に薬局の外に出て、多職種と連携しながら薬学の専門性を発揮していく姿勢が必要です。

そこで、学生の皆さんには、2つの視点をもって学びと向き合ってほしいと思います。他の医療系学部で学ぶ学生との交流を通じ、コミュニケーション能力や医療プロフェッショナリズムの習得です。

医学や看護学など、医療系の学問を学ぶ学生と交流を深めることで、多職種連携のあり方を知ることができるでしょう。本学は薬学系の単科大学ですが、他の医療系大学と連携して「多職種連携教育」を実施し、チーム医療に対応できる医療人の育成に取り組んでいます。もちろん、チーム医療を学ぶ授業や実習だけでなく、日頃から他大学の学生と関わることで、コミュニケーション能力を育んでいくことができます。

医療プロフェッショナリズムとは医療者と社会との契約であり、医療者の専門知識や技術を、患者の利益のために誠実に提供することを約束する代わりに、社会から自律が保証され信頼を得るというものである。薬学教育モデル・コアカリキュラムに書かれている「薬剤師として求められる基本的な10の資質(▽薬剤師としての心構え▽患者・生活者本位の視点▽コミュニケーション能力▽チーム医療への参画▽基礎的な科学力▽薬物療法における実践能力▽地域の保健・医療における実践的能力▽研究能力▽自己研鑽▽教育能力)を意識してほしいと思います。

これら2つに加えて、インターンシップへの参加も積極的に行ってください。できれば、実務実習で忙しくなる前に参加することをお勧めします。業界や企業への理解が深まるだけでなく、他大学の学生との交流にも役立つでしょう。

これから社会に羽ばたく薬学生にアドバイスを。

長期的な視野で、キャリア形成を考えよう。

薬学生の皆さんに、3つのメッセージを贈ります。 1つは、「どこに就職したいかではなく、薬剤師として患者さんや社会のために何をしたいか」を考えてください。「有名な会社だから」「給料が良いから」という理由で就職先を選んでしまうと、入社後に「こんなはずじゃなかった」とギャップを感じてしまいかねません。日頃から「なりたい薬剤師像」をイメージすることで、どのような就職先に向いているか見えてくるでしょう。

2つ目は、「薬学部出身者としての自覚を持って行動してほしい」ということ。薬学部は医療系の学部です。どのような職域に就いたとしても、患者さんへの視点を忘れずにいてほしいですし、社会のために“医療人薬剤師”として貢献していく気持ちを持ち続けてほしいですね。

3つ目は、「真のリーダーシップを発揮する人材」に成長してほしいということです。たとえばチーム医療において、医師や看護師、薬剤師などがそれぞれの専門性を発揮しながら患者さんの治療にあたっています。臨床現場では、薬の作用や副作用に関して、薬剤師が医師から質問を受けることもあります。逆に薬剤師から、患者さんの服薬の状況を観察した上で、医師に処方提案をすることもあります。つまり、薬剤師が薬のプロとして積極的にチーム医療に参加し、その責任を果たすことこそが、「真のリーダーシップ」なのです。

最後に、どの道に進むにしても、長期的な視点でキャリアについて考えてください。たとえば薬局薬剤師を目指しているのなら、「現場で経験を積んだ先のキャリア」をイメージしてみましょう。多くの薬剤師が、数年の経験を経て管理薬剤師に昇格し、若手薬剤師の育成などマネージメントに携わることになるでしょう。つまり、自分自身のスキルアップや成長だけでなく、組織全体の管理に携わることで、より大きな視点で医療を支えていくことになります。薬学生の皆さんには、このような視点をぜひ備えていてほしいですね。