一人の医療人として地域のために活躍してほしい

継田 雅美

TSUGITA MASAMI

新潟薬科大学 薬学部 臨床薬学研究室 教授/博士(薬学)

1985年、東京理科大学薬学部薬学科卒業。同年、大田調剤薬局に入職。1987年から新潟市民病院薬剤部、2008年から新津医療センター病院薬剤部長と、約30年間病院薬剤師として勤務し、特にチーム医療の推進に注力。2016年から現職。

学生の就職状況に変化はありますか?

薬局志望が多く、病院志望はやや減少傾向

卒業生の就職先の割合は、保険調剤薬局やドラッグストアが6〜7割を占め、病院薬剤部が3割前後。残りは大学院進学・行政機関・製薬会社などです。薬局で働くやりがいは、たくさんの地域住民とふれあえること。薬剤師としての知識を生かして地域に貢献する実感があります。一方で病院薬剤師のやりがいは、チーム医療を日常的に体験できること。医師・看護師・栄養士・臨床検査技師らとコミュニケーションを取りながら、薬剤師としての充実感を味わうことができます。

ではなぜ薬局を選ぶ学生が多いのかと言うと、待遇面が理由のひとつとして考えられます。初任給が高く、奨学金制度を設けている企業も多い。本学は約半数の学生が奨学金を利用しているので、返済期間を考えて薬局を選ぶケースも少なくないでしょう。また病院よりも早く内定が出る薬局が多いため、スケジュールが影響している部分もあると思います。私は病院勤務が長かったこともあり、病院薬剤師を応援しているのですが、希望者はやや減少傾向にあります。

どちらを選ぶ学生でも、進路希望に大きく関わっているのが実務実習での経験です。実習先で尊敬できる先輩と出会えたり、大切なことが学べたり、感動的な体験ができると、学生は「ここで働きたい」という気持ちを強く持つようになります。そのくらい、実務実習でどんな先輩や施設に出会えるかは重要なことなのです。

これからの薬剤師に求められるのは何ですか?

コミュニケーション能力や協調性が大切です

チーム医療の時代、薬剤師も他の職種との連携が欠かせません。ただ自分の主張を押し通すだけでなく、相手のこともプロの一人として尊重しなければいけない。逆に「ドクターが言っているから正解」というわけでもなく、薬剤師の立場から判断をする必要があります。患者さんに対しても、「この薬を飲んでください」だけでは不十分。本心に寄り添えるコミュニケーション能力と協調性が大切です。患者さんはもちろん、そのご家族の声にも耳を傾ける必要があります。

発信力も身につけてもらいたいもののひとつです。薬剤師全体の問題として、表現が得意でないことが挙げられます。100の仕事をやっていても、世の中には10くらいしか伝えられていない。もっとアピールしていくべきだと思います。発信することは、つまり自分の仕事に責任を持つこと。広く一般の人々に向けて、薬剤師の仕事と責任を伝えていきたいですね。論文や学会発表も大切。薬剤師は論文の数が少ないことが指摘されていますので、数を増やしていくことも必要です。

その他にも、同時多発的に起こる事柄に対して優先順位をつける能力や、医療人としての決断が求められる場面での倫理観などが薬剤師には必要です。もちろん知識や技術も欠かせませんが、国家試験に合格できるレベルを身につければ、あとは現場で学んでいくものです。

卒業生はどんなキャリアを歩んでいますか?

高い志を持って、ステップアップをする先輩がいます

薬局に就職した卒業生の中には、管理薬剤師として活躍している方がたくさんいます。店舗運営の責任者や会社の経営を担う人材として力を発揮する方もいます。製薬会社では、品質管理や開発部門のほか、MRとして就職するケースもあります。医師たちへの情報提供に、大学で学んだ医薬品の知識を生かしているようです。また、研究の道を選び、大学院に進学する学生も毎年います。

病院では薬剤部責任者を任される方や、専門薬剤師として活躍する方がいます。専門薬剤師には「がん」「栄養サポートチーム(NST)」「感染制御」などの分野がありますが、薬剤師として5年間の経験を積んでから所定の条件をクリアすることで資格取得が可能。学生時代から「将来は専門薬剤師になりたい」と話す学生もいます。

病院薬剤師として経験を積み、その後に薬局に転職する方もいます。病院は病床数が限られているため、触れ合う患者さんの数が多くありません。「もっとたくさんの地域住民のために働きたい」「在宅医療の仕事がしたい」という思いが転職の動機になっているようです。逆に薬局から病院へと転職する方もいるのですが、私の知っている方の場合だと「医療の最前線で働きたい」というのがその理由でした。どちらも医療人としての高い志が根底にあり、素晴らしいことだと思います。

薬学生へのアドバイスをお願いします!

どんな職についても、責任と誇りを忘れずに

処方箋の通りに薬を作って渡す。それだけが薬剤師の仕事ではありません。これからは地域住民が気軽に健康相談ができる存在を目指す必要があります。例えば、国が推進するセルフメディケーション。ここにも、薬剤師が大いに役立てる部分があります。「ちょっと体調がおかしいな」という時、病院に行く前に薬局に立ち寄ってもらえれば、薬剤師が相談に乗れるはずなのです。知識は貯め込むだけでは意味がありません。そうやって地域に還元することで、初めて価値が生まれるのです。

私が病院薬剤師として勤務していた時は、若い医師から薬についての相談を受けることがよくありました。どの薬にするのか、どんな方法で投与するのか。これらをアドバイスすることは、一見ドクターをサポートしているようですが、私はそうは考えていません。最終的にはすべて患者さんのため。自分が学んできた知識を、患者さんのために使っているのです。

学生の皆さんには薬剤師も医師や看護師と同じ医療人の一人であるという自覚を持ってもらいたい。学生のうちから、将来そういう仕事に就くのだということを意識してもらいたい。病院で働くにしても、薬局で働くにしても、その他の就職先を選ぶにしても、その誇りと責任を持って、自らの知識を地域住民に還元するということを、強く心がけてもらいたいですね。