オピニオンリーダーに聞く チーム医療Vol.1 鎌田 實 「命の伴走者」として、医療者は何ができるのか?

鎌田實氏は、大きな赤字を抱え苦況に喘いでいた長野県の諏訪中央病院に赴任。住民とともに作る医療を実践し、見事に経営を立て直して、患者さんはもちろんのこと、若い医療者たちが日本中から集まる病院となった。そんな奇跡を可能にしたのは、いったい何だったのか? 多種多様な医療の現場で、医療者はどんな心構えを持つべきかを鎌田氏に伺った。

累積赤字4億円の患者の来ない病院に赴任して

僕が諏訪中央病院に赴任した当時、「大都市の病院でも、出身大学の付属病院でも、いくらでも選択肢はあったのに、なぜそんな地方に?」と周囲の人たちには言われました。僕は昔から変なところがあったんですよ。東京生まれの東京育ちだったから、自分が今まで見たことのない、地方の医療の姿というものを見てみたかった。それに、1回だけの人生なんだから、人の役に立って、人に喜ばれながら、面白く生きたいなという気持ちもありました。

でも、実際に行ってみたら、ひどい状態でしたよ。茅野駅でタクシーに乗って病院名を告げても、運転手は知らないと言う。累積赤字は4億円。赤字だから、新しい医療機器など、とても買えない。そんな状態だから、若い医師は来たがらない。だから、手術のために入院した患者さんは不安になって、ここでは手術されたくないからと言って夜逃げする。悪循環で、赤字は火だるまのようにふくれあがっていく、そんな病院だったんです。

従って、時間だけはたくさんありました。当時長野県は秋田県に次いで2番目に脳卒中が多く、中でも茅野市は、県内で一番脳卒中の死亡率が高い市だったんです。

 また、普通では考えられないことなんですが、胆石で死ぬ人がいた。何とかしなければならないと思いました。どうしたら、脳卒中を減らすことができるんだろうか。どうしたら、胆石を初期の段階で発見できるようになるだろうか。病院は残念ながら暇だったので、いろいろ考える時間はあったんです。幸いなことに、僕のような変わった医師を支援してくれる保健師さんが現れました。

茅野市は生涯教育が盛んだったので、公民館の分館が93もあったんですよ。とにかく全部回ることを目標に、夜、仕事が終わってから保健師さんたちと公民館を訪ね、食生活の改善指導や、健康学習会を行いました。そうやって地域に出て行き、コミュニケーションを取ることによって、だんだんと地元の方とのつながりができ、住民のみなさんの健康意識が高まっていったんです。その結果、今では、日本有数の長寿地域でありながら、医療費が低いことで有名になったというわけです。 つい先日も「鎌田塾」という会があって、若い医師や研修医など30名ぐらいが集まりました。そこで僕は、40年前に茅野へ来て地域の人たちと何をしたかを語ったんです。その後に、地域の食生活改善推進員の女性たちが「健康づくり運動」で作った30品目ぐらいの料理を作って、彼らに振る舞ってくれました。若い医師たちの歓迎会です。「あなたたち、こうやって料理をお腹一杯食べちゃったんだから、今度私たちが困ったときは助けに来なきゃダメよ」と脅かす。

もちろん、関係は一方的ではなくて、病院で何か催しがあるときは、彼女たちが料理を作るなどサポートをしてくれる。最初は僕が間に入らないと、病院と地域の人々とのつながりがなかなかできなかったんですが、こうやって見事に自然につながっていくようになりました。

生きている限り、
温かい医療で患者さんを支えてあげたい

諏訪中央病院には緩和ケア病棟があるのですが、たとえば東京などの大きな病院で、「もう、これ以上やることはありません」と投げ出された患者さんがやってきます。僕に言わせれば、生きている限りやることがないなんてことはないんです。うちの緩和ケア病棟の患者さんのほとんどにPT(理学療法士)やOT(作業療法士)がついています。これは全国の病院でも珍しいと思います。患者さんは余命を告知され、自分でも近々死ぬことはわかっている。それでも、PTやOTがつくと、立つ練習が始まって、自力でベッドからトイレへ行けただけでも喜ぶ。

患者さんが「辛い、苦しい」とばかり言っていた時は、そばにいるのが辛くて離れていた家族や友人なども、患者さんがニコニコと笑顔を見せるようになると、見舞いに来やすくなるんですよ。人間というのは不思議なもので、もう先が見えている人でも、昨日より今日が良いほうが嬉しい。少し歩けるようになると、諏訪中央病院はお庭がきれいに整えられているので、庭に行ってみたいということになる。PTやOTがつけばそれが実現できるんです。そして、今度は自分でスーパーに買い物に行きたいと言い出します。お団子一つでも、家族に買ってきてもらうのと、自分であれこれと迷った結果、「これが欲しい」と選ぶのとでは大きく違う。命というのは、このように複雑で可愛いものなんです。

PROFILE

鎌田 實(Minoru Kamata)
医師・作家
東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県・諏訪中央病院へ赴任。30代で院長となり、つぶれかけていた病院を再生させた。医師として地域医療に携わるかたわら、チェルノブイリ、イラク、東日本大震災の被災地支援などにも取り組んでいる。
  • 書籍人間らしくヘンテコでいい(集英社)
    人間が幸せに生きるのに、本当に必要なものは何か。鎌田氏が遠いルーツを求めて人類発祥の地アフリカほか各地を訪ね、あらゆる人種と触れ合ってみつけた答えは、人間らしければ「ヘンテコでいい」だった。日々不安を抱え、弱気になりがちな人に贈る、生き方のコツ。
  • 書籍がんばらない(集英社)
    本当に豊かな生、また死とはなんだろう。延命だけの治療に批判的であり、患者の側に立った医療を目指している名物医が、日々患者やその家族に接する中で綴った、感動エッセイ。多くの人に感銘と勇気を与え、TVドラマ化されるなど、鎌田氏を一躍著名にしたベストセラー。