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印刷・事務機器・日用品業界

業界の現状と展望

長期にわたる出版不況の中で多角化。脱出版事業を図る

印刷業界では、雑誌・書籍などの「出版印刷」、チラシ・ポスター・パンフレットなどの「商業印刷」、商品パッケージなどの「商品印刷」などさまざまな種類の印刷に携わっている。
一般社団法人日本印刷産業連合会の資料によれば、市場は1991年の出荷額8兆9,000億円をピークに減少傾向にあり、2019年の製品出荷額は、前年比0.3%増の4兆9,981億円となった。対前年比で増加するのは2007年以来となるが、デジタル化の進展やネット広告の拡大は紙の印刷需要にとってはプラス材料とはならず、従来の印刷だけでの生き残りは難しい。

そのため、印刷業界では大手の印刷会社を中心に、新規事業の開拓、多角化を図ってきた。例えば、大日本印刷や凸版印刷では、印刷技術を活かした液晶用フィルターや包装材、ディスプレー、半導体などの電子関連部材を取り扱う事業が、主力の印刷事業に迫る収益を上げており、印刷不況の中でもしっかりとした業績を確保している。他方、得意分野に特化することで顧客獲得を目指している会社もある。近年はこうした事業の多角化や強化を目的とした、国内外企業のM&Aも行われている。デジタル化、高機能化、企業の実情に合わせた解決方法を提案するソリューション&アウトソーシング分野への参入、さらにはビジネスモデルの進化など、印刷産業の高度化が進んでいる。
また環境対策にも力を入れており、有害物質を含まないインクの使用、水資源を使わなくて済む「水なし印刷」の開発、使用資材のリサイクルなど、地球に優しい印刷技術の研究開発も常に行っている。

普及が進むデジタル印刷

普及が進むデジタル印刷

PCなどに表示されるデジタルイメージを、版を作成することなく直接印刷するデジタル印刷。特長は、短時間で小ロットの印刷が可能で、データの修正にも即座に対応できること。そのため、インターネット上でユーザーがデータを作成・送付すると、印刷物が宅配便で納品される印刷通販などで採用されている。小部数から対応しており、色数・紙質・体裁・納期などが価格とともに明示されているので、ユーザーには使いやすく、また一般的には安い価格に抑えられている。

使いやすい文具や事務機器を企画開発する

文具・事務機器メーカーは、使いやすい文房具や事務機器を生み出し、世の中に広める。パソコンやスマートフォンの普及により、ペーパーレス化とともに文具や事務機器の出番も減っている。一方で、「書きやすい」「使いやすい」「おしゃれ」などの理由でヒットし、ロングセラーとなる商品も多い。使い手の要望や意見をくみ取り、使いやすくて、持ちたくなる文具や事務機器を生み出すのが、文具・事務機器メーカーの主な仕事だ。
また、企業では、オフィス用品を通販で買う方法が主流になっている。カタログに紹介されている商品は、文房具や事務機器だけではなく、飲料やお菓子、家具など幅広く、オフィス環境に必要なものがほとんどそろっている。注文すると翌日に届くなどスピードの速さと、価格の安さが特長。各社ともに、値下げ競争が続いている。

文具・事務用品市場は成長が一服。小ロット・多品種化に

文具・事務用品市場は成長が一服。小ロット・多品種化に

矢野経済研究所によれば、国内の文具・事務用品市場は、ここ数年は4,600億円程度で推移している。
一方で、SNSを中心とした口コミの影響で、文具・事務用品を自分好みにアレンジしたり、コレクションしたりするといった個人需要は高まりを見せており、特に女性層を中心に活発化。女子文具カテゴリーの存在感が高まっている。
国内においては人口減少の影響もあり、需要の減少は避けられないが、日本製文具は外国人にも人気が高い。個人需要に対応した新機能や付加価値のある商品を投入しつつ、海外市場展開に必要なサプライチェーンの確立にも力を入れている。小ロットで、様々なニーズに対応できる多品種化の傾向が強くなることも想定しなければならず、生産体制の工夫も求められている。

また、コロナ禍で在宅でのテレワークが拡大し、法人向けの需要の減少が予想される中、個人に向けた在宅ワーク向けの文具・事務用品の開発にも注力している。加えて、アナログとデジタルの融合にも積極的だ。スマホに手描き入力したイラストなどを紙に印刷したり、ノートや用紙に手書きした文字やイラストなどをデジタル化しスマホで管理したりできる、いわゆるスマホ連携文具が各社から登場している。

海外市場での認知度アップと高付加価値製品の開発が求められる

洗剤や歯ブラシ、紙おむつや生理用品、トイレタリー用品、殺虫剤など、私たちが日常的に使用しているさまざまな製品を開発、製造、販売しているのが日用品業界。化粧品から化学品まで幅広い製品を提供する大手企業もあれば、得意分野に集中して国内外で高いシェアを獲得している会社もある。
独自の技術で日常的に求められる製品を販売できることから、安定した売上と収益を長年続ける、いわゆる優良企業が多い業界といわれているが、少子高齢化などの影響もあり国内での大きな成長が期待しづらいのが現状だ。そのため、海外展開と、時短や便利さをもたらす高付加価値製品の開発が求められている。いち早く海外市場に進出し売上を伸ばした会社もあれば、ユニークな新製品のヒットで、国内市場で収益を確保している会社もあり、各社は新市場の開拓と新製品の開発に心血を注いでいる。
日用品の中には、コロナ禍で訪日できなくなった外国人の影響をはじめ、商品によって明暗が分かれる状態になっている。外出の自粛で化粧品、ヘアケアやUVケア商品などは苦戦している一方で、マスクや消毒液といった衛生用品や、入浴剤や台所用洗剤などの巣ごもり増で恩恵を受ける商品は好調だ。ただし、こうした特需はいつまでも続かない。各社はウィズコロナやアフターコロナを見据え、消費者に訴求できる新製品の開発や新規事業の創出に向けた動きを加速している。

業界関連⽤語

文具女子博

「文具好きが最高に楽しめるイベントを!」を合言葉に2017年12月にスタートした、“見て・触れて・買える”日本最大級の文具イベント。2020年11月に東京流通センターで開催された「文具女子博2020」は、コロナ禍で入場制限があったため前年の来場者を下回ったものの、1万9,000人の来場者数を記録した。

電子チラシ

新聞販売店が新聞に折り込んで家庭へ届ける「折り込みチラシ」は印刷業界が受注していた業務の一つ。近年はこうした「折り込みチラシ」を、印刷会社がスマートフォンやパソコンで読める「電子チラシ」としてインターネットで配信している。電子チラシ大手といわれる『Shufoo!(シュフー)』は凸版印刷が、『オリコミーオ!』は大日本印刷が手掛けている。利用者は、近隣スーパーなどのチラシを毎日確認することができる。

デジタルサイネージ

表示と通信にデジタル技術を活用した電子看板。ビル壁面の巨大ディスプレーや広告用動画ディスプレーなどで広く利用されている。印刷物を取り換える手間や時間が必要なポスターとは違い、デジタル通信で表示内容を随時変更することができるため、設置場所や時間帯によって変わるターゲットに向けて、タイムリーな情報発信ができる。デジタル技術を使ってデジタルサイネージの販売事業を始めている印刷会社も多い。

MPS(Managed Print Services=マネージド・プリント・サービス)

大手事務機器メーカーが行っているサービスの一つ。メーカー側が顧客のオフィスに点在する出力機器の配置を提案、さらに運用を請け負うことで、機器の設置台数の削減など効率的な運用と業務改善、コスト削減の提供を目指す。

紙おむつリサイクル

乳幼児用、大人用とも紙おむつの生産量は増加傾向にあるが、現状ではその多くが使用後に焼却処理されている。紙おむつは、大きく上質パルプ、樹脂、高分子吸収材という素材でできており、使用済みの紙おむつをリサイクルし再利用する技術の研究開発が各社で進んでいる。ユニ・チャームは、世界で初めて紙おむつの循環型リサイクルモデルを実現。回収した使用済紙おむつを粉砕、洗浄し、素材を分離。再び紙おむつとして利用できるレベルの上質パルプと高分子吸収材の生産技術を確立しており、2022年に再生紙おむつの新商品を発売する予定だ。SDGsや温暖化対策の観点からも、紙おむつのリサイクルへの期待は大きい。

どんな仕事があるの︖

印刷業界の主な仕事

・営業
クライアント(出版社や広告代理店)の要望を吸い上げたうえで、企画提案を行い、クライアントと工場の窓口として、入稿から納品までの全工程に携わる。また、自社商品を、顧客である企業や個人に提案・販売。顧客の要望を聞き出し、商品の改善や新商品企画に役立てる。

・企画
クライアントのビジネスに役立つ広告宣伝プランや印刷技術を使った新企画などを立案する。

・DTPオペレーター
パソコン上で雑誌・書籍・広告などの印刷物をデザイナーの指示に従いレイアウトする仕事。会社によってはデザイナーが兼任するケースもある。

・研究開発
インクや印刷機などの印刷技術を改善したり、次世代の技術を研究開発したりする。

・生産管理
制作現場の全工程を理解し、品質、コスト、時間を管理する。品質管理と効率面のコントロールが重要な仕事。生産効率を高めるために、生産に関する予測・計画を立てて管理する。効率のよい生産体制を統括する仕事。

事務機器・日用品業界の主な仕事

・営業
自社商品を、顧客である企業や個人に提案・販売。顧客の要望を聞き出し、商品の改善や新商品企画に役立てる。

・商品開発
顧客の要望や意見を踏まえて、商品を改善したり、新商品を企画開発したりする。

・情報システム
生産管理や在庫管理などの情報を適切に保存・管理・流通させるためのシステムをつくり、維持する。主にコンピューターとそれをつなぐネットワーク、それらの保守運用全体が仕事。

・生産管理
生産効率を高めるために、生産に関する予測・計画を立てて管理する。効率のよい生産体制を統括する仕事。

・基礎研究
商品の品質改善や、新しい商品開発に役立つ機能を研究開発する。

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印刷・事務機器・日用品業界の企業情報

※原稿作成期間は2021年12⽉23⽇〜2022年2⽉28⽇です。

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