- 作業療法士
- 「知らないことは学生の強み」だから、
現場の臨場感を楽しんで積極的に質問を。 - 埼玉セントラル病院
リハビリテーション科 技士長
河原 克俊さん - 2011年入職。コロナ禍以来、職種の垣根を越えた業務が常態化しており、リハビリテーションの傍ら、技士長として人事調整にも深く携わる。
実習前に準備しておくことは?
作業療法士とは「作業を扱う」プロフェッショナルですが、その作業内容は利用者によってまったく違います。例えば「料理」という作業があったとして、何人分の・どんなものを作るかによって体の動かし方はまったく変わります。つまり一つの作業が、100通りもの異なる内容を含んでいるのです。目の前の人が具体的に何を求めているのかを汲み取るには、技術や知識以上に豊かな人生経験が必要になります。とはいえ、一人の人間が経験できることには限りがあるので、学生の皆さんには実習前からたくさん本を読み、友だちと話して遊んでほしいと思います。料理した経験があれば、「あの道具を使えば上手く作業できるのでは」といったアイデアが浮かぶかも知れません。ギターが弾ければ、音楽をやりたい利用者さんに寄り添えます。こうしたことは、身体機能の計測以上に大切なことなのです。あらゆる経験が仕事に役立つ、それが作業療法士です。
余裕があったら、先輩や学術誌の「事例報告」を読むといいですよ。検査の仕方や治療方法という「点」と「点」が、一人の対象者を追った事例報告によって「線」につながることがわかるでしょう。できるだけ、対象者の顔が浮かぶような報告書を読むと、実習の雛形としても参考になると思います。
チェックリスト
- ● 社会人・医療人としてのマナーや態度
- □ 遅刻・欠席をしない(体調管理も自己責任)。もしもの場合は、必ず連絡を。
- □ 職員・利用者さんに対して、明るい笑顔と明朗な態度で挨拶を。
- □ 課題の提出期限は厳守。
- □ 病院で知り得たことは、守秘義務として口外しない。
- □ 空いている時間は机に向かうのではなく、見学や質問を。
- □ 教科書でなく、利用者さんから学ばせていただいていることを忘れずに。
- □ 目上の人に対する言葉遣い・態度に注意。
- ● 専門的知識(認知領域)
- □ スタッフ間ではできるだけ専門用語を(利用者さんには平易な言葉を)。
- □ 課題は提出前に必ずもう一度、誤字・脱字などをチェック。
- □ 基本的知識(解剖学・運動学・生理学・評価法)を理解。
- ● 専門的技術(精神運動領域)
- □ 利用者さんに対する接し方(話し方や態度)。
- □ 検査・測定の技術(ROM-T,MMTなど)。
- □ トランスファーなどの介助技術。
実習中の注意点
学生生活と違って、現場では唯一の正解がありません。そして、まず問題を探すことが重要になります。目の前にいる人にとっての課題は何なのか。カルテに「手に麻痺」と書いてあっても、普段の手の使い方によって課題は人それぞれ。実習では、習った手技を実践するなど医学の領域に気持ちが向きがちですが、「作業」療法士ならではの視点を忘れずにいてください。それは、担当した利用者さんに興味・関心を持つことから始まります。
1対1で濃密に教えてもらえる時間は、実習くらいしかありません。この仕事は一生勉強が必要ですが、入職したら1年目であろうとプロという扱いです。今は学生の特権を最大限に活用して、教えてもらうことに貪欲になっていいと思います。いろいろな先輩のリハビリを見学させてもらいましょう。その際は、「何を」しているのかではなく、「なぜ」それをしているのか、掘り下げて考えてみます。それが利用者さんの課題を見つけるヒントになるはずです。実習以外の時間はよく寝て、よく食べて、元気でいることが大事。レポートは思考の整理ができないから時間がかかるものなので、抱え込まずに指導者と一緒に整理しましょう。
実習に取り組む後輩へのメッセージ
私はいつも、実習生には楽しんでほしいし、「作業療法士って面白い」と思ってもらいたいと願っています。世代の違う人と話したことがないなど経験不足を補うには、とりあえず先輩を真似てみましょう。学生さんのほうが素直に「教えてください」と言えて利用者さんの懐にスッと入れることもあります。人と人との関係性の中では学生という立場が強みになる場面もあるので、あまり心配せず、実習中はぜひ、アドバイザーよりも目の前にいる利用者さんの顔を見るようにしてください。
実習は作業療法士の現場だけでなく、社会人として働くということ自体を知る機会です。我々の仕事はリハビリ以外にもカンファレンスやカルテの作成があり、また職場の改善会議のように、利用者さんと直接的な関係のない業務も日常の一部です。この機会にそうした多様な日々の業務も見られると、入職してからギャップを感じることが減ると思います。「社会に出る練習」と思って、緊張せずに楽しみましょう。
実習の目的と概要
作業療法士が実際に活躍する校外の医療・福祉施設において、専門家として必要な知識・技術を習得するために臨床実習を行います。各養成校によってカリキュラムに違いはありますが、指導者の助言・監督の下で実施される主な臨床実習は次の3種類です。
■臨床実習I(見学実習):初年度に1週間程度
実際のリハビリテーションの現場や関連職種の仕事の様子を見学します。一連の業務内容を理解して、作業療法士としての基本的姿勢を身に付けます。
■臨床実習II(評価実習):2~3年度に2~3週間を2回程度
身体障害・精神障害両領域の実際の対象者に作業療法評価を実施し、医療面接、検査・測定、動作観察などの技術・能力を身に付けます。
■臨床実習III(総合実習):最終年度に8~9週間を2回程度
身体障害、精神障害、老年期障害、発達障害のうち、2領域以上で長期的に対象者を担当し、評価、目標設定、治療計画立案、治療までを実施します。また、組織の一員としての実務や業務管理を経験し、作業療法士としての実践的な能力を身に付けます。
それぞれの臨床実習は異なる施設で実施される場合もあります。実習施設が遠隔地であれば、生活拠点を一時的に寮やホテルに移しての実習となります。