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3月企業エントリーに向けた新機能と今後の流れ

~仕事を知る特集~ 理系の選択

「情報技術(IT)」や「遺伝子編集」などに代表されるテクノロジーの進化が、新たな産業を生み、企業のビジネス戦略を牽引する現代社会。
 ここでは、今後、テクノロジー・トレンドの主役となるであろう研究・開発分野の現況を、各分野の学識経験者の方々に語っていただきます。

第2回「エネルギー」

メインタイトル
国立研究開発法人
科学技術振興機構
研究開発戦略センター フェロー
尾山 宏次

再生可能エネルギーの今後、
原発の今後

2050年カーボンニュートラルに向けて

カーボンニュートラルに向けて
(2020年 経済産業省の資料をもとに作成)

 2016年11月に発効した2℃目標に向けた温室効果ガスの排出削減を目指すパリ協定ですが、EUなどが2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出ゼロ)達成を表明する中、2020年10月に我が国も表明し、それに向けた対策が急速に進められています。
 これを実現するためには①電源の脱化石燃料化(発電時にCO2を排出しない)、②排出CO2を回収し、CO2を排出しないエネルギー源により燃料・化学品に変換して炭素を循環的に利用する技術(CCU)または水素利用、③ネガティブエミッション技術と呼ばれる植林等によるCO2吸収固定量増加や人工的に大気中CO2を回収除去する技術が必要です。すべて重要ですが、その中での最優先課題は①の電源の脱化石燃料化の早期実現になります。

 2019年時点の電源構成において76%程度の化石発電割合を2030年には41%程度まで低下、すなわち24%の非化石電源を59%程度に増加させることを目指しています。このうち自国で発電できる太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギーの比率を36~38%程度と大幅に増やすことを目指しています。そのためには後で述べますが、変動する電気を上手に調整・貯蔵し、安定的に使いこなすことが重要であり、その技術も同時に必要になります。

 また非化石発電のうち、原発は一定量の電力を安定的に供給することに適した発電設備であり、ベースロード(基礎負荷)と呼ばれる定常的な電力供給の役割を担っています。その意味では発電量が自然条件で変動する太陽光発電や風力発電とは異なる特徴を持つ電源といえます。

 原発については、東日本大震災に伴って発生した福島第一原発の事故をきっかけに、その安全への信頼性が揺らぐことになりました。このため原発の即時廃止を求める声も上がっています。しかし一方で、資源の乏しい日本では電力の安定供給の確保、エネルギー安全保障への対応、さらには先の電源の脱炭素化という同時解決すべき難題を抱えています。

 また電力供給はインフラ産業であり、変化していくとしても20年、30年単位に及ぶ相応の時間がかかります。このため、日本が長期的に原発およびその技術基盤にどう取り組んでいくかについては今後も議論して決めていく必要があると思います。2030年の電源構成において原発を20~22%の比率としているのも、経済・生活の基盤である電力供給について、現在の原発の安全性確保を大前提とした上でなるべく使い尽くすことを考えた結果と理解しています。

コストを下げつつ、
発電技術の高度化を目指す

 固定価格買取制度(FIT)の導入により、近年、急速に再生可能エネルギーの発電施設が増えていますが、さらに総発電電力量に占める割合を増やしていくには、技術的な高度化も求められます。

 例えば、太陽光発電の場合、ペロブスカイト太陽光発電が、低コスト化(塗布技術)、フレキシブル・軽量化による設置場所(例えばビル壁面など)の自由度増加などが期待されています。これが実用化されれば再生可能エネルギーの割合を高める一助になるでしょう。

 一方、風力発電に関しては、洋上風力発電が期待されています。国土が狭く、山岳地帯の多い日本では、陸上で安定した風が吹いてくれる風力発電の適地が多くありません。しかし、島国である日本は世界第6位となる排他的経済水域(EEZ)の広さを誇っています。これを生かすことができれば、洋上風力発電で膨大な電力を作り出せるかもしれません。

 ただし、着床式の風車を建設できる遠浅な海が広がるヨーロッパと異なり、日本の沿岸は岸近くから急に深くなるため、EEZを生かすには浮体式の風車が必要です(下図参照)。コストの懸念もありますが、日本では台風の問題もあり、十分な耐久性を得られるかどうかは今後の技術開発にかかっています。

 沖合に建設する以上、送電方法も検討しておかなければなりません。送電する距離が長くなれば、それだけ電気抵抗によるロスが大きくなるため、抵抗のない超伝導電線を取り入れるなどの対策が求められますが、その場合のコスト増をどう解消していくかという点も課題です。再生可能エネルギーを高度化させていくため、さらなる技術開発が求められます。

洋上風力発電の形態と水深の関係

洋上風力発電の形態と水深の関係

今後、求められる
再生可能エネルギーの
安定化技術

 再生可能エネルギーは、その電源が自然任せで不安定という問題が付きまといます。太陽光発電の場合、雲で日射が遮られれば、大幅に発電量は低下しますし、風力発電も風次第で発電量は増減します。数%程度のわずかなうちは問題にならなくても、総発電量に占める割合が40%近くなるとすると、変動対策が日常的に不可欠となります。

 まず考えられるのは蓄電池の利用です。変動する再生可能エネルギーの電気でも、いったん蓄電池にためた後、需要に応じて送電線に流すようにすれば、電気の質を低下させることはありません。しかし、今ある蓄電池はコストに課題があり、変動対策として安定化のみを目的とした専用蓄電池では限定的な利用に留まらざるを得ないでしょう。そこで、今後、活用が期待されるのが電気自動車(EV)や、コンセントからの充電が可能なプラグイン・ハイブリッド車(PHV)に搭載されている蓄電池です。

V2H(Vehicle to Home)のしくみ

V2Hのしくみ

 一般家庭で使われる自動車の利用頻度は高くなく、9割程度の時間はガレージに停められているといわれます。EVやPHVには高性能の蓄電池が搭載されていますから、屋根に設置した太陽光パネルで得た電気をEV、PHVの蓄電池にためておければ、後々、それを家庭の電力消費に充てられます。不安定な太陽光による供給でも、電気をいったん蓄電池にためるのですから、安定して利用できるだけでなく、電気が余るようなら送電線に流して売電することも可能です。悪天候が続いて、自宅の太陽光や蓄電池だけでは消費する電気を賄えない場合は、電力会社から電気を都度購入することも可能なため、停電する心配もありません(上図参照)。

 こうした技術は「V2H」(Vehicle to Home)と呼ばれています。今はまだ国内におけるEVやPHVの保有台数が少ないため、電力の安定化に寄与する効果は乏しいものの、EV、PHVが普及するとともに、V2Hの機器が増えれば、送電線の電気の質が低下しても、家庭では安定して電力を利用することができるようになるでしょう。

電力会社はサービス産業の
色合いを強めていく

ポートレート1

 理系人材の流動化とともに、今後、取り組んでいかなければならないのは、専門的な科学技術や知識を背景に、その研究成果を社会に還元していくための人材の充実です。
 例えば、画期的な技術が開発されたら、その権利を守るために知財化(特許化)しておくことが必要です。これまでにも弁理士はいたわけですから、特許申請することはできました。しかし、より積極的に知財を生かそうとするならば、戦略的に申請していくことが求められるのです。「隣接する知財を把握した上で、後続する技術開発にも目配せしつつ、知財の及ぶ範囲を決めて申請していく」。そんな知財戦略を立案できるスペシャリストなら、多くの企業が欲しがるに違いありません。

 つまり、これからの時代は自身が学んできた専攻に加えて、もう1つ、知財戦略などの研究を支援したり、実用化に導いたりするためのスキルを身に付けたマルチな人材の需要が確実に高まっていくと考えられます。そのため知財戦略や、科学技術を理解して経営に生かすMOT(技術経営)を学べる大学院もあります。また、社会人向けの大学院コースも開設されています。

 社会人大学院に通い、夜間や週末を利用して勉強するのは大変だとは思いますが、時代の要請に合わせたスキルを習得していけば、戦略的に自分のキャリアをデザインしていくこともできるでしょう。

第2回「エネルギー」 テーマ監修

尾山 宏次(おやま こうじ)
国立研究開発法人 科学技術振興機構
研究開発戦略センター
フェロー
1982年東京大学大学院工学系研究科反応化学専攻修士課程修了。同年、日本石油株式会社(現・ENEOS株式会社)入社。主に自動車燃料品質、エンジン燃焼、自動車排気等の研究開発、および自動車業界と石油業界の共同研究に従事。2014年より科学技術振興機構研究開発戦略センターフェロー。環境・エネルギー分野における技術・社会動向の俯瞰調査ならびに戦略プロポーザル作成に従事。博士(工学)。
尾山 宏次(おやま こうじ)

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