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3月企業エントリーに向けた新機能と今後の流れ

~仕事を知る特集~ 理系の選択

「情報技術(IT)」や「遺伝子編集」などに代表されるテクノロジーの進化が、新たな産業を生み、企業のビジネス戦略を牽引する現代社会。
 ここでは、今後、テクノロジー・トレンドの主役となるであろう研究・開発分野の現況を、各分野の学識経験者の方々に語っていただきます。

第3回「ロボット」

メインタイトル
国立研究開発法人
科学技術振興機構
研究開発戦略センター
フェロー
馬場 寿夫

さまざまな分野の研究成果を
取り入れていく必要がある

 日本が「ロボット大国」と呼ばれる所以は、工場の組み立て作業などに使われる産業用ロボットの生産において、世界を牽引してきたからです。ただし、これからのロボット産業はもっと多様化していくものと見られています。

 2010年に経済産業省が発表した2035年に向けたロボット産業の市場予測によると、産業用ロボットを示す「製造部門」の市場規模が拡大するとともに、ロボット技術を組み込んだ家電、自動車、建機などを指す「ロボテク製品」、「農林水産分野」、そして、「サービス分野」が急成長していくと見られています(下図参照)。特に大きく成長すると考えられているのがサービス部門ですが、これは、私たち人間がこれまで行ってきたさまざまな活動をロボットが肩代わりすることを意味しています。

2035年までのロボット産業の将来市場予測

ロボット産業の将来市場予測
(2007年 経済産業省の資料をもとに作成)

 ただし、ロボットが使われるシーンが多様化していくと、従来からある産業用ロボットの開発で基盤となった機械工学や制御工学だけでなく、さまざまな研究分野の成果を取り入れていかなければなりません。

 例えば、お手伝いロボットが開発され、一般家庭で使われるようになると、時には人間と衝突することもあるかもしれません。これまで通りの硬い外装で覆われたロボットであれば、ぶつかった衝撃で人間を怪我させかねず、安全性を考慮して、ロボットの表面をプラスチックやゴムなどの柔らかい素材で覆うことが求められるようになるでしょう。過去、ロボットの研究開発で、あまり重要視されてこなかった材料科学の成果の活用を検討していく必要があるのです。

人間との共生を目指し、
期待が高まる
ソフトロボティックス

ポートレート1

 前述のように、人間とともに活動するロボットであれば、安全性を担保するために、従来の産業用ロボットにはなかった柔軟性が求められます。柔らかい素材でロボットの表面を覆うだけでなく、危険をなくすためには、動作にも滑らかさや柔軟性を持たせていく必要があるでしょう。そのためにはロボットの動力源を抜本的に変えていかなければなりません。

 これまでロボットの動力源(アクチュエーター)には、もっぱらモーターが使われてきました。モーターは瞬発性の面や、制御性の面ではとても優れているのですが、その大きさに比例する重量が難点でした。その結果、ロボット自体が重くなり、どうしても滑らかな動きを作り出すのが難しかったのです。そのため、これからのロボット開発では、モーターに変わる、軽量、高効率、高出力な新たなアクチュエーターの開発が期待されます。

 すでに人間の動きに近い滑らかさを得るための人工筋肉の開発などが進められていますが、筋肉を模したチューブを空気圧で動かす方法では、滑らかな動きが得られる反面、力強さや瞬発力に欠けるといった欠点も抱えているため、さらなる進化が必要とされています。
 柔軟性を持つロボットを突き詰めていけば、将来的には鞭のようにしなる柔らかい材料が採用されるかもしれません。しかし、柔らかい材料は、ロボットの表面を覆うような使い方ならともかく、駆動部での使用においては、硬質な材料とは違い、アクチュエーターの動力を受け流してしまう可能性があります。そのため、従来のロボット開発で基盤となってきた制御工学が通用しない場合もでてくるでしょう。

 まだまだ解決すべき課題は多いとはいえ、柔らかい素材からなるアクチュエーターで、柔らかい材料を動かすソフトロボティックスの研究が進展していけば、ロボットが活躍できるシーンは増えていくことでしょう。

ロボットとは縁遠い生命科学や
医学も取り入れられていく

 ロボット開発に求められる研究分野の多様化は、一見、ロボット開発とは関係なさそうな生命科学や医学にまで及ぶと考えられています(下図参照)。その端的な例が、近年、注目を集めている介護用のロボットです。

 少子高齢化が進んだ日本では、介護の必要なお年寄りが増え、老人ホームや介護施設で働く人達の労働負担が大きくなっていくと心配されています。そこで介護者の肉体的負担を軽減するアシストスーツが開発されています。
 このスーツには介護者の動きを計測するセンサーが組み込まれています。お年寄りを抱え上げようとすると、腕や足の動きに添うように、スーツに搭載したモーターが作動し、持ち上げる動作をサポートします。介護者は重さをほとんど感じることなく、お年寄りの身体を支えられるのです。

 そもそもこのスーツは、使用者が動く際に筋肉が発する電気(筋電)を感知することで機能します。これが正確に計測できなければ意図した動きをサポートできず、単に邪魔な存在になってしまいます。だからこそ、介護者の筋電をとらえて、確実に動きを合わせていくという面において、生命科学の研究成果が大いに生かされているのです。

 また、前述の経済産業省の市場予測では、医療分野で用いられるロボットの市場が拡大していくと予測されています。医療分野のロボットの応用では、すでにアメリカのベンチャー企業により、外科医の操作で作業用のアームを精密に動作させて、腹腔内の手術を行うロボットが実用化されています。今後、医工連携の研究が進めば、腹腔内の手術に留まらず、さまざまな手術に応用できるロボットが開発されていくでしょう。

ロボットの要素技術・基盤技術の開発

ロボットの要素技術・基盤技術の開発
(2016年 科学技術振興機構
・研究開発センターの資料をもとに作成)

ロボット工学を
専攻していなくても
ロボット開発にかかわれる

ポートレート1

 今やロボットの開発は工学分野の知見だけでなく、多様な分野の研究成果が求められるようになってきたことが理解できたと思います。そのため大学でロボット工学を専攻していなくても、自分の専門分野を生かせる時代になったのです。
 材料科学、生命科学、医学など、ロボット工学とは違う視点を持って開発にかかわれば、新たなイノベーションを生み出すことができるかもしれません。ロボットに興味はあっても、大学でロボット工学を専攻していなかったから…と諦めている人も、今一度、ロボット業界にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 これからの時代、ロボット開発の現場では、日常的に異分野の研究者とコラボレーションしていくことになるはずです。ただし、異分野の研究者との共同研究では意外なところに落とし穴があります。お互いが専門分野での知識や用語に頼ったコミュニケーションを進めてしまうと、相手の意思が理解し合えない状況が生まれます。

 理系の学生には、自分の専門とは違うという理由から、異分野の研究者とかかわることさえ敬遠する人が多いように感じられます。不案内な研究分野にかかわることの難しさは理解できますが、ぜひこのネガティブな要素を排して社会に出て行ってもらいたいと思います。

 市場の拡大が予測されるロボット技術の分野ではいずれも異分野融合してこそ開発できるものばかりです。異分野の研究者のところに飛び込んでいって、新しいイノベーションを生み出すことのできる人材を目指してください。

第3回「ロボット」 テーマ監修

馬場 寿夫(ばば としお)
国立研究開発法人 科学技術振興機構
研究開発戦略センター フェロー
1979年に電気通信大学大学院応用電子工学専攻修士課程修了。同年、日本電気株式会社入社。同社シリコンシステム研究所の研究部長、基礎・環境研究所のエグゼクティブエキスパート、内閣府総合科学技術会議事務局ナノテクノロジー・材料分野の政策企画調査官などを経て、2012年より現職。企業や政府での経験を基に、ナノテクノロジー・材料分野を中心に、世界の技術動向を把握し、日本の取り組むべき研究領域や課題を検討している。
馬場 寿夫(ばば としお)

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