HDN Japan配信記事

再発・難治性の多発性骨髄腫患者に対する二重特異性抗体talquetamabの投与により、70%以上の患者で奏効が認められたとする第1/2相臨床試験の結果が報告された。米マウント・サイナイ・アイカーン医科大学ティッシュがん研究所のAjai Chari氏が指揮するこの試験の結果は、米国血液学会(ASH 2022、12月10~13日、米ニューオーリンズ)で発表された。
二重特異性抗体とは、2種類の異なる標的(抗原)に結合することができる人工抗体のこと。Talquetamabの場合は、がん性の形質細胞で高レベルに発現しているGPRC5D(Gタンパク質共役受容体クラスCグループ5メンバーD)とT細胞のCD3受容体に特異的に結合する。研究者たちはこのような二重特異性抗体を用いた治療戦略のことを、「敵であるがん細胞の隣に“軍隊”を配置するようなもの」と説明している。
今回は、第1相試験での結果を受けて設定された、talquetamabの2通りの第2相試験推奨用量の安全性と有効性について報告された。推奨用量は、talquetamab 0.4mg/kgの週に1回(QW)の投与と、0.8mg/kgの2週間ごとの(Q2W)投与であり、投与対象は、CAR-T細胞療法などのT細胞を用いた治療法を受けたことのない288人であった(0.4mg/kg QW投与143人、0.8mg/kg Q2W投与145人)。
奏効率は0.4mg/kg QW群で74.1%、0.8mg/kg Q2W群で73.1%だった。0.4mg/kg QW群の最良部分奏効率は59.4%、完全奏効率は33.6%で、talquetamabが奏効するまでの期間の中央値は1.2カ月(範囲0.2〜5.0カ月)、完全奏効までの期間の中央値は2.1カ月(範囲1.1〜12.4カ月)だった。また、無増悪生存期間の中央値は7.5カ月だった。一方、0.8mg/kg Q2W群の最良部分奏効率は57.2%、完全奏効率は32.4%だった。
研究グループは、「標準治療と標的治療の後に再発する多発性骨髄腫患者の予後は不良であることが多い。それゆえ、他の治療薬とは異なる受容体を標的とするtalquetamabは、多発性骨髄腫患者にとって新たな希望となるだろう」と話す。
talquetamabは、治療抵抗性を獲得した多発性骨髄腫患者にとって、試す価値のある治療選択肢となり得る
Chari氏によると、talquetamabの奏効率は、現在使われている大半の多発性骨髄腫の治療薬よりも高いという。同氏は、「talquetamabは、治療抵抗性を獲得した多発性骨髄腫患者にとって、試す価値のある治療選択肢となり得る」と付言する。
Talquetamabの安全性に関しては、副作用が頻繁に認められたものの、研究グループは、概して軽度のものだったとしている。最も多く生じたのは炎症反応のサイトカイン放出症候群で、0.4mg/kg QW群の79%、0.8mg/kg Q2W群の72.4%に生じた。同症候群は、免疫療法でしばしば生じる症状であり、危険ではあるが治療可能である。また、0.4mg/kg QW群の55.9%、0.8mg/kg Q2W群の67.6%に発疹などの皮膚関連の症状が認められたほか、0.4mg/kg QW群の51.7%に爪の症状、0.8mg/kg Q2W群の46.2%に味覚障害が生じた。しかし、副作用を理由に試験を中断した患者は、0.4mg/kg QW群の4.9%、0.8mg/kg Q2W群の6.2%のみであった。
この臨床試験には関与していない、米フォックスチェイスがんセンターのHenry Fung氏は、「この結果は、患者にとって大きな勝利となる可能性がある。この新たな分子標的療法が、近い将来、多発性骨髄腫の治療で利用できるようになるのなら、本当に素晴らしいことだ。うまくいけば、疾患の早期段階で使用できるようになるだろう」と期待を示している。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。(HealthDay News 2022年12月12日)
https://consumer.healthday.com/blood-cancer-2658944429.html
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参考情報
- Abstract/Full Text
- https://ash.confex.com/ash/2022/webprogram/Paper159707.html
- Press Release
- https://ashpublications.org/ashclinicalnews/news/6711/GPRC5D-Targeting-Bispecific-Antibody-Talquetamab
- https://www.jnj.com/janssen-presents-new-data-for-talquetamab-a-first-in-class-gprc5dxcd3-bispecific-antibody-suggesting-durable-responses-in-patients-with-heavily-pretreated-multiple-myeloma
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