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自動車・輸送用機器業界

業界の現状と展望

世界に冠たる自動車産業大国

世界に冠たる自動車産業大国

自動車業界は、日本が世界に誇る巨大産業だ。国内には世界販売台数において首位を争うメーカーをはじめ、複数の完成車メーカーがある。完成車メーカーは、部品・素材供給を行う数え切れないほどの下請け会社系列会社を抱え、大きな雇用機会を作り出している。同時に販売会社などの流通や金融に関連する産業にもかかわっており、自動車業界は、生産・販売・整備・輸送など広範な関連産業を持つ総合産業といえる。

2022年12月に公表された、「令和3年経済センサス‐活動調査 産業別集計」によれば、2021年の製造業に従事する従業者数は756万44人、そのうち「輸送用機械器具製造業」に従事する者は全体の13.5%と、「食料品製造業」の14.6%に次いで多い。また、同調査の2020年「製造品出荷額等」合計は303兆5,547億円。そのうち「輸送用機械器具製造業」は、60兆2,308億円で、最多の19.8%を占めており、日本経済を支える重要な基幹産業と言える。

自動車産業も、コロナ禍で世界各地の自動車工場が休止に追い込まれた。さらに、旺盛なデジタル化の進行にともなう半導体供給不足や、サプライチェーンの混乱などによる部品製造の遅れもあり、一時的に生産が制約されることもあった。一方で、新車への需要は根強く、特に人気車種では納品までの期間が長引いている。生産が需要に追いついておらず、大量の受注残を抱えているのが現状だ。半導体不足が大きな要因とされており、各社は対応に追われている。部品不足は徐々に解消されつつあるが、同時にEV(電気自動車)開発と市場投入という喫緊の課題も抱えている。

加速するEVシフト!

近年は地球温暖化の原因とされる温室効果ガス削減に各国が力を入れている。EUはこれまで、自動車のCO2排出基準を厳格化する方針を表明していたが、2022年10月に「2035年に欧州域内で販売される乗用車と小型商用車(バン)の100%をZEV(ゼロエミッションヴィークル)にする」法案について合意。これにより、発売できる新車はEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)のみとなり、ガソリン車やディーゼル車だけではなく、エンジンを搭載したHV(ハイブリッド自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド自動車)の販売も禁じることを意味している。
(※ただし2023年3月25日に、これまでの方針を変更。水素と二酸化炭素から作られる合成燃料(e-Fuel)を使うエンジン車については、2035年以降もエンジン車の販売を引き続き認める決定がされた。当初は、日本メーカーが得意とするHVも禁止される予定であったが、合成燃料エンジン車を搭載することで、逆に有利になる可能性を指摘する声もある。)

また、中国も、従来型ガソリン車の製造・販売を2035年までにゼロにする方向で検討。2035年までにEVFCVなどの販売比率を50%に高め、残りの50%もエンジンとモーターを併用するHVなどにする方針としている。ただし、各国がさらに厳しい温室効果ガス規制の動きを見せ始めており、さらに一歩踏み込んだ政策に転換する可能性もある。中国は世界最大の自動車市場であり、国内には、EVでは販売台数世界一の会社と言われるBYDや、車載電池市場で世界一のCATLを抱えている。早くから世界に先駆けて、EV電動バイクに力を入れてきた中国。環境対策の変更は、最大の自動車産業に大きな影響を及ぼしそうだ。
また、アメリカのバイデン大統領も温室効果ガス削減に前向きだ。2030年までにアメリカの新車販売の50%をEVなどのZEV(ゼロエミッション車)にするという目標とともに、2035年までに連邦政府が購入する公用車もZEVにすることも表明している。また、2022年4月に、トランプ前大統領が緩和した燃費規制の新基準を公表(2026年の企業別平均燃費基準では、1Lあたり約20.9キロ)。.2023~2025年に販売される2025年モデルから新たに適用される。さらにこの平均燃費基準は、1年ごとに厳しくなるように設定されている。
加えて、国内の環境規制をリードし、規制基準が厳しいことで知られるカリフォルニア州でも新たな規制を制定。2035年までに州内で販売される自動車の100%を、EVPHEVにすることを義務づけるとした。
なお、ゼロエミッション車(ヴィークル)とは、動力源から二酸化炭素などの温室効果ガスや大気汚染物質を排出しない車両のことで、HVPHEVは含まれず、具体的には、EVFCVなどがある。ただし、アメリカの大統領令によるゼロエミッション車には、PHEVが含まれている。

国内自動車のEV対策

欧州や中国では、EVの導入に多額の補助金が使われていることもあり、新車販売時のEV比率は約10%と高く、普及が進んでいる。中には、ノルウェーのように新車販売のうちEVが70%を超える国もある。なお、日本の新車販売のうちEVの比率は、一般社団法人日本自動車販売協会連合会のデータによれば、2021年で約0.9%とわずかだが、直近では軽EVの販売が好調で、EVへのシフトを加速している。
世界のEV市場では、アメリカのテスラと中国BYDの2社が販売台数で上位にあり、他社との差は大きい。しかし、国内メーカーも、世界のEV化推進に手をこまねいているわけではない。トヨタは、2030年にEVFCVで200万台としていた従来計画から、2030年のEVの世界販売を350万台とする計画を発表。乗用車から商用車まで30モデルのEVを市場に投入する予定だ。また、以前からEVに力を入れていた日産自動車に加えて、提携関係にある三菱自動車工業とフランスのルノーの3社は、電動化の分野でさらに連携を強化し2030年までに35車種のEVを市場投入することを明らかにしている。ホンダは2040年までに世界で販売する四輪車の全てをEVFCVにシフトする計画を発表。2023年1月には、ソニーとの業務提携で開発した「AFEELA(アフィーラ)」の新型EVプロトタイプを発表した。
ただし、欧米や中国の自動車会社は、すでにEV化に全速力で突き進んでおり、EVが急速に普及している。各国の環境規制もより厳しくなりつつある状況で、商品化までの時間はあまり残されていない。同業との連携や異業種との提携、新技術の開発などが注目される。

産業構造が大きく変化する可能性も

EVシフトは、裾野の広い自動車産業全体に大きな影響があるため、産業構造にも変化の波が押し寄せている。とくに衝撃を受けるのが自動車部品メーカー。自動車全体で数万個、エンジンだけでも数千個の部品が使われているが、EVシフトによって根幹部品であったエンジンがモーターに置き換わるだけでなく、自動車の構造も大きく変わる。EVでの部品点数は従来の半分程度ともいわれており、大手中小に限らず多くの自動車部品メーカーが仕事を失う可能性がある。
一方でEVシフトにより新たな市場が立ち上がることで、これまで自動車メーカーとつながりのなかった企業にとっては新しいビジネスチャンスが到来している。国内でも、ソニーがEV市場への参入を表明しており、大きな雇用を抱えて日本を支えてきた自動車関連産業は、急速な変化に対応するスピードと柔軟性がますます求められる。

モビリティサービスへの変革でGoogleやAppleがライバルに

これまでの自動車会社は、所有することに喜びを感じる魅力あふれる車づくりにこだわってきた。しかし、自動運転技術の進化もあり、従来の自動車の概念を超えて、すべての人が自由に手軽に移動できるモビリティサービスに必要なプラットフォームを提供していくことが自動車業界に求められている。各社は、さまざまな国や地域で自動運転の実証実験を行い、研究開発費の多くをこの分野に投じている。すでに、自動車業界のライバルは同業だけではなくなっており、GoogleやAmazon、AppleなどのアメリカIT勢や、AutoX百度(Baidu)いった自動運転車開発にも力を入れている中国IT勢が自動車業界に加わっている。

ライバル国との競争激化が続く造船業界。効率化と脱炭素に向けた対応も求められる

高度な技術力に定評があり、かつては世界トップクラスのシェアを誇った日本の造船重機メーカーだが、現在はライバル国との激しい受注獲得競争を繰り広げている。
一般社団法人日本造船工業会の「世界の新造船竣工量の推移」によると、2021年の新造船の竣工は、コロナ禍の反動もあり、世界合計で前年比99隻増の2,425隻となった。国別では中国が845隻でトップ、次いで日本が410隻、韓国が237隻となった。総トンでは中国が2,619万総トンで43.7%を占め、韓国が1,931万総トンと日本の1,078万総トンを上回る結果となった。

中国では国内1位と2位の中国船舶工業と中国船舶重工が経営統合し新会社である中国船舶集団が誕生、日本でも、業界1位の今治造船と2位のジャパンマリンユナイテッドが共同出資で新会社日本シップヤードを設立するなど、再編の動きが加速している。
韓国でも、韓国内1位の現代重工業と業界大手の大宇造船海洋の合併が協議されていたが、韓国が圧倒的な力を持つ液化天然ガス(LNG)船分野(両社が合併すると世界市場の60%に達すると言われている)での市場独占解消案について、EU競争当局との協議がまとまらず、事実上失敗に終わった。
スケールメリットを活かしたライバル国との受注競争はますます激しくなりそうで、人材確保の面からも業界を取り巻く環境は厳しく、コスト削減と建造時間短縮のため自動化システムを導入している企業もある。造船業界は、地域の経済や雇用を支えるだけでなく物流や安全保障の面でも重要な産業。事業再編や生産性向上などによる競争力基盤の整備が求められている。
さらに、脱炭素の流れは世界的潮流として待ったなしの状況にある。電動化したタンカーや、水素を燃料にする船も登場している。
各社が、脱炭素を意識した船舶の開発にまい進する中、2022年11月に公開された、商船三井の「ウインドハンター」が話題になった。船内で海水から水素を製造。水素を製造するための電力には風力エネルギーを利用するので、環境に負荷をかけない完全ゼロエミッッション運行を可能にし、自動航行することを目指している。

評価が高い日本の技術。小型旅客機は無事にテイクオフするもコロナの影響も

評価が高い日本の技術。中国のゼロコロナ解除で、航空機需要回復の期待も

航空機業界は、数社の機体メーカーと、部品・材料メーカー、こうした材料を取り扱う商社など、すべての企業を合計すると千数百社から構成されている。
巨額な資本を必要とする機体開発の分野では、リスクを抑えるため、海外や他メーカーとの共同開発が主流で、日本の企業も参加している。 日本の技術が特に高く評価されているのは、素材技術構造設計などで、世界でもトップレベルにある。ボーイング787機は機体構造の35%を日本企業が受け持ったため、「Made with Japan」とも呼ばれている。 航空機業界は、コロナ禍で大きな影響を受けたが、各国が徐々にコロナに関する規制を緩和。ゼロコロナを続けていた中国も規制緩和に踏み切っており、航空機に対する需要は増えそうだ。
日本企業による中小型旅客機の自社開発もあり、ホンダジェットは、2018年12月に日本での引き渡しを開始。セールスも好調だ。2022年10月には、最新型としてアップグレードされた「HondaJet Elite II」を発表している。一方で、「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の名称でプロジェクトがスタートし、開発が進められていた国産初のジェット旅客機「スペースジェット」は、採算が見込めず、撤退が発表された。
一方で、これまでボーイング社やエアバス社から大量の航空機を購入していた中国では、国産ジェット機の開発が急ピッチで進んでいる。中国初の国産ジェット旅客機「C919」は、2017年に初飛行に成功、2022年12月には航空会社に引き渡され、2023年には商業飛行を予定している。座席数は160席前後で、ボーイング737やエアバスA320と同クラスの旅客機となる。当面は中国国内での運用となるが、近い将来ボーイングとエアバスの2強が3強となる可能性を指摘する声もあり、注目されている。

民間企業の参入が目覚ましい宇宙産業。宇宙旅行も現実のものに

日本航空宇宙工業会によれば、国内の2020年度の宇宙機器関連企業の売上高は、前年度比7.0%増の3,521億円となった。2021年度の売上高予測値は3,244億円と減少を見込んでいる。
ただし、これまでの通信衛星や地球観測だけでなく、宇宙旅行も現実のものとなっており、宇宙関連ビジネスへの期待は大きい。テスラが出資するスペースXやアマゾンのブルーオリジン、ヴァージン・ギャラクティックなど民間企業の宇宙産業への進出もめざましい。国内でも、民間のスペースワン社が、人工衛星を搭載した小型ロケットの開発から打ち上げまでを一貫して行うとして、商業宇宙輸送サービスの事業化を目指している。2021年12月に、ZOZO創業者の前澤友作氏が、民間人として宇宙ステーションに滞在したことや、テスラのイーロン・マスク氏が、スペースXの人工衛星によるインターネット接続サービスをウクライナに無償提供していることも話題となった。
米国を中心に、欧州、ロシア、中国との競争が激化しているが、日本も、人工衛星ロケットを独自に製造、運用できる高い能力を持っている。日本の探査機「はやぶさ2」は、世界で初めて小惑星「リュウグウ」の岩石などのサンプル採取に成功。日本の宇宙技術の高さを証明した。また、これまでの「H-IIAロケット」の後継機で、柔軟性や信頼性を向上させ、低価格を実現した新型の「H3ロケット」の打ち上げも予定されている。さらに、RV-Xと呼ばれる再使用型の実験ロケットを使い、打ち上げたロケット機体の一部を回収し再使用できるロケットの研究開発も進めている。

業界関連⽤語

CASE

Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング・サービス)、Electric(電動化)の頭文字を取った造語。具体的な取り組み方は会社によってさまざまだが、自動車業界各社に拡がる基本戦略となるキーワードとして認知されている。自動車は今後、コンセプトやデザイン、機能などが大きく異なる、シェアする自動車と所有する自動車に二極化されると言われており、自動車業界のあり方が大きく変わる可能性が指摘されている。

コネクテッドカー

インターネットと常時接続機能を有した自動車のこと。エンジンやブレーキなど、自動車のすべてのデータがインターネット経由で外部と接続できるため、渋滞や工事の情報、店舗の情報などさまざまな情報をドライバーに提供できる。 また、事故発生時はドライバーの代わりに自動的に警察や消防などに緊急通報を行うこともでき、盗難時に車両の位置を追跡したり、遠隔操作でエンジンを始動できなくしたりということもできる。

MaaS

Mobility as a Serviceの略で、A地点からB地点に移動する際に、公共交通機関やレンタカー、タクシー、レンタサイクルなどさまざまな交通手段を活用して最適な行き方を提案してくれるサービスのこと。自動運転車の進化に伴って、将来的には希望した時間になれば玄関先に自動車が到着し、希望の場所まで自動的に運転してくれるというサービスも可能になる。

イプシロンロケット

高性能と低コストの両方を目指し、JAXAが開発した新しい個体燃料ロケット。「モバイル管制」と呼ばれる革新的な打ち上げシステムを導入。ロケットが自身に知能があるかのように自ら点検する仕組みを持っており、特定の場所にしばられることなく、世界中のどこからでもネットワークにパソコンをつなぎさえすれば、ロケットのコントロールができるようになった。小型の人工衛星を小回りよく高頻度で打ち上げることが期待されている。

全固体電池

EVはもちろんスマホやPCなど、幅広く利用されているリチウムイオン電池。ポストリチウムイオン電池の1つとして、高い期待が寄せられているのが全固体電池。電池は正極と負極の間に電解質があり、電気を貯めたり放出したりしている。これまでのリチウムイオン電池では、電解質が液体のため液漏れや蒸発といった課題があったが、文字通り全てが固体となった全固体電池ではこうした課題から解放される。従来よりも安全性が高く劣化しにくいほか、エネルギー密度を高めることができるので、充電時間も大幅に短縮でき、設計の自由度も高まるというメリットがある。液体の電解質と同等以上の固体電解物質の研究開発が課題とされており、実用化に向けて自動車業界だけでなく、様々な業界の企業、研究機関、大学などが研究開発に取組んでいる。

ファイバー電池

豊田中央研究所が独自開発したファイバー電池。学会で発表したところ、これまで2次元的であった電池の電極構造を3次元化する構造に、多くの参加者から注目をあびた。形状は、一本の糸のようだが、中心に負極となる炭素繊維があり、その炭素繊維をセパレーターと正極で包む3層構造になっている。現在主流のリチウムイオン電池では、2次元的なため、出力と容量を同時に増やすことができず、一方を上げると一方が下がるというジレンマがあった。3次元的なファイバー電池であればこの難題を解決できると言われており、早期の実用化が待たれる。

アンモニア、二酸化炭素運搬船

温室効果ガス削減を実現する手段には、クリーンエネルギーとして期待の高いアンモニアの利用や、回収した二酸化炭素を再利用する「CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」など様々な方法がある。その際の輸送には、専用船による海上輸送が中心になると見込まれている。今後は、これまでに無かった専用船の開発や造船需要も期待できそうだ。また、例えば往路ではアンモニア、復路では二酸化炭素を輸送できれば、帰路は空荷となる専用船よりも輸送効率が向上する。将来的に増加が見込まれる、アンモニアと二酸化炭素兼用の専用船への期待は高い。

どんな仕事があるの︖

自動車業界の主な仕事

・営業
自動車販売店(ディーラー)への営業活動を行う。マーケティングを基に、販売店をサポートする。

・車両開発
新車両の設計や開発などを行う。部品ごとに専門特化した技術が求められる。

・デザイナー
自動車のインテリアやエクステリア、色、ファブリック類などをデザインする。

・商品企画
マーケティングを基にトレンドを予測し、商品戦略や新型車の企画立案を行う。

その他輸送用機器業界の主な仕事

・研究開発
先端技術や、他部署から挙げられる市場動向調査を研究し、製品の改良や新製品の開発を行う。

・設計
新技術を導入し、コスト削減、機能強化、信頼性の向上などを図り、製品の設計を行う。

・資源調達
原材料・部品を最も有利な条件で購入する。材料費は製造コストに大きく影響するため、利益に直結する仕事。

・営業
製品の受注から納入までを担当。顧客からの受注を受け、顧客と工場の間に立ち、さまざまな折衝や調整を行う。

自動車・輸送用機器業界の企業情報

※原稿作成期間は2022年12⽉28⽇〜2023年2⽉28⽇です。

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