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食品業界

業界の現状と展望

豊かな国民生活の実現に貢献する食品産業

調味料・油・小麦粉などの食品原料(食材)、パン・菓子・冷凍食品などの加工食品、ビール・清涼飲料水・コーヒーなどの酒類飲料などを開発・製造し、消費者に提供する食品業界。消費者のニーズに応じた、安心・安全でおいしい食品を提供することで、豊かな国民生活の実現に貢献している。
農林水産省の「農業・食料関連産業の経済計算」によれば、2020年における農業・食料関連産業(農林漁業・食品製造業・関連流通業・外食産業など)の国内生産額は、前年比7.9%減の109.0兆円となったが、全経済活動の11.1%を占めており、依然として大きな規模だ。部門別では、農林漁業が12.4兆円(全体比11.4%)、食品製造業が36.6兆円(同33.6%)、関連流通業は34.9兆円(同32.0%)、外食産業は20.6兆円(同18.9%)となった。コロナ禍にあって、外食産業部門の支出が前年比29.0%の大幅に減少、加えて清涼飲料や酒類が伸び悩み、食品製造業が同2.8%減となったことが影響した。その後は、ウイズコロナの意識も高まり、回復傾向にあるが、ロシアのウクライナ侵攻で穀物類が高騰、さらに円安の影響で輸入コストがアップしていることが懸念される。

変化の兆しがうかがえる食品産業。一方で値上げも待ったなし

「食」は人間にとって欠くことができないだけに不況に強い産業とされているが、少子高齢化が進む国内食品市場については決して楽観できる状況とは言い切れない。
さらに、コロナ禍での経済活動の自粛は、生産・製造・加工・流通・販売など食に関わる業界に大きな影響をもたらした。
電子レンジを使わないなどの節電・エコを意識した食品市場、健康食品市場、高齢者向けの介護食市場、食事の宅配といった成長が見込まれる分野への期待が高い。また、コロナ禍で、冷凍食品への重要が高まるなど、消費行動は大きく変化。商品開発や流通・販売などのあり方も模索していかなければならない。特に、コロナ禍で見直された冷凍食品。これまでは、業務用としてのニーズが高かったが、近年は家庭用冷凍食品へのニーズが高まっている。コンビニやスーパーなどの小売店では、冷凍食品専用スペースを拡大するなど、新製品の開発と販売に力を入れている。
ただし、最も大きな課題は、原材料費の高騰だ。異常気象や需要増などの影響で食用油や小麦などの価格に加え、包装資材物流費用も上昇傾向にある。
さらに、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響も加わり、原材料費増は加速。穀物輸入価格上昇を背景に、食品企業の一部は、2022年頃から食品価格の値上げに踏み切った。一度の値上げでは原材料費の高騰をカバーできず、2度目、3度目の値上げを実施する企業もある。
一方で、大手スーパーは、メーカーと共同で生産するいわゆるPB(プライベートブランド)を展開。価格面で、メーカーのブランドであるNB(ナショナルブランド)と競合している。コスト削減に加えて、差別化がしづらいと言われる商材が多い食品業界においても、価格が上がっても訴求できる魅力的な商品開発はますます重要な要素となっている。

求められる「食の安全」への高レベルでの意識と対応

徹底した衛生管理が求められる食品業界。「食の安全」については高い意識が必要不可欠だ。近年、食品に金属片やプラスチック片、虫、カビなどの異物が混入していたとして、メーカーが自主回収するケースが増えている。
数千万個単位の個数で自主回収するケースもあり、異物混入による自主回収は、企業経営においても大きな影響を与えることになりかねない。SNSなどを通じて異物が混入している写真やメーカーとのやりとりを録音した会話などの情報が拡散する可能性もあり、対応を誤ると、これまで築き上げたブランドイメージや信頼を一瞬にして失ってしまうことになる。食品メーカーには、製造の質だけでなく、その後の対応も高いレベルが求められている。

業界関連⽤語

植物肉と培養肉

植物肉とは、大豆などの植物性の材料を使って作られた人工肉で、ハンバーグやハム、ソーセージなどがある。世界各国で研究・開発がすすんでおり、見た目や味わい、食感は、肉とあまり変わらない商品も登場している。国内でも研究開発は進められており、山形大学の渡辺昌規教授らは、脱脂米ぬかから抽出したタンパク質を原料にした植物肉の製造に成功したことを発表。
大豆や小麦などを主原料とした植物肉が多い中、米油を抽出する際に大量発生する副産物が原料であることや、米ぬかタンパク質は食物アレルギーの原因となるアレルゲンを含まないことにも注目が集まっている。
健康志向動物保護の高まりもあって、植物肉への関心は強く、世界的にも需要が急増している。市場調査会社グローバルインフォメーションによれば、植物性代替肉の市場規模は、2022年の79億米ドル(1米ドル135円の場合、1兆67億円)から年平均成長率(CAGR)14.7%で成長し、2027年には157億米ドル(同2兆1,195億円)に達すると予測している。
一方、動物から採取した細胞を培養して作られるのが培養肉。イスラエルでは鶏肉の培養肉が製造可能な工場が稼動。シンガポールでは政府が培養鶏肉の販売を承認、実際に培養肉を食べることができる。日本でも政府が培養肉の研究を後押ししており、赤身と脂肪の割合を自由に変えられるステーキ肉の培養に成功している研究チームもある。安全基準や既存の畜産業との競合といった論点も多いが、今後、培養肉は世界的に広がり、「2040年までに食肉のうち、20%を培養肉が占める」と予測している大手金融機関もある。

特定保健用食品(トクホ)と機能性表示食品

双方とも、健康への働きを表示できる保健機能食品だが、2つの食品の大きな違いは国(消費者庁)の審査の有無。特定保健用食品は、事業者が最終製品によるヒトでの試験を実施、科学的に根拠を示した上で申請し、食品ごとに許可を取得する。一方で、機能性表示食品は、最終製品による試験は必要なく、文献や論文の引用によって科学的根拠を示せる。製品開発にコストと時間がかかる特定保健用食品に対し、機能性表示食品は既存の文献や論文を引用でき、消費者庁への届出が受理されれば商品を販売できる。

賞味期限と消費期限

農林水産省の定義によれば、お弁当や洋生菓子など、長く保存が利かない食品に表示されているのが消費期限。開封していない状態で、表示されている保存方法に従って保存したときに、食べても安全な期限を示している。 一方、スナック菓子・缶詰・ソーセージなど、主に常温や冷凍で、比較的長期間保存が利く食品に表示されているのが賞味期限。開封していない状態で、表示されている保存方法に従って保存したときに、おいしく食べられる期限を示したもので、賞味期限を過ぎると食べられなくなるわけではない。

昆虫食

将来的な食糧不足に対する有益な対策の1つとして考えられているのが昆虫食だ。国内でもイナゴやハチの子が食べられていることは知られているが、アジアや南北アメリカ、アフリカなどの国々でも古くから昆虫が食されており歴史は意外と古い。たんぱく質やミネラルなどの栄養価が高く、牛や豚などの家畜と比べて小規模な土地で養殖できるなどメリットも大きいため、グローバル規模の大手食品企業も昆虫食に注目している。

ラベルレス飲料

商品名や成分などの法定表示はダンボールに記載し、フィルム状のラベルをなくしたペットボトル飲料。数年前からEC(ネット通販)専用の商品として発売されていたが、自宅で過ごす人が増えたことや、廃棄時にラベルをはがす手間が省けることなどがあり、人気が高まっている。各社とも、差異化を図ろうと、ボトルの形状やデザイン、配送用ダンボールなどにこだわった商品開発に力を入れている。

遺伝子組換え食品とゲノム編集食品

遺伝子組換えでは既存の遺伝子に別の遺伝子を挿入することで、新たな特徴を持つ食品を作り出しており、厳格な国の安全性審査を受けることが義務付けられている。他方、ゲノム編集では、食品の遺伝子の一部を切り取ることで、これまでと異なる新たな特徴を持つ食品を作り出している。もともとある遺伝子を切るだけなので、これまでの品種改良や自然界で起こる突然変異と同じような仕組みと考えられており、企業にはどのようなゲノム編集をしたのかといった内容の届出は求めるが、遺伝子組換え食品のような安全性審査は不要とされている。
ゲノム編集食品には、アレルギー物資が少ない卵や血圧を下げる成分が多いトマト、肉厚のマダイなどがある。ただし、安全性や表示方法などに関しては様々な議論があり、アメリカとEUでも対応が異なるなど、課題もある。

空気からタンパク質を作る

文字どおり、微生物と空気内の二酸化炭素や水などを原料にタンパク質を作り出すことに成功している企業がある。フィンランドのソーラーフーズ社は、独特の手法で「ソレイン(Solein)」と呼ばれる、粉末状のタンパク質を開発。成分の多くがタンパク質で、必須アミノ酸のすべてを含んでいる。一方、アメリカのエア・プロテイン社も、空気中に含まれる炭素などの成分をもとに「エアミート(Air Meat)」と名付けられた代替肉(タンパク質)を作り出すことに成功している。

どんな仕事があるの︖

食品業界の主な仕事

・マーケティング
市場をリサーチ・分析し、新商品の開発や既存商品のリニューアルを考案する。商品の魅力を消費者に伝え、購買意欲をかき立てるようキャンペーンの企画・立案なども行う。

・商品開発
原料の選定から、調合、賞味期限の設定など、工場での生産システムの検討を行い、商品を作る。

・営業
スーパーやコンビニエンスストアなどの小売店に自社商品を売り込む。売上をアップさせるため、キャンペーンなどの企画も行う。

・広報
マスコミや消費者からの問い合わせに対応する。消費者との接点が多く、近年の食の安全に対する関心の高さから、誠実かつ迅速な対応が求められる重要なポジションといえる。

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※原稿作成期間は2022年12⽉28⽇〜2023年2⽉28⽇です。

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