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薬品・化粧品業界

業界の現状と展望

化学原料・生物原料から薬品や化粧品をつくる

化学原料・生物原料から薬品や化粧品をつくる

薬品業界では、医療機関で使われる「医療用医薬品」、処方せんなしで利用できる「一般用医薬品」などの開発・製造・販売を行う。さらに「医療用医薬品」では、主に新薬の研究開発を手がける企業と、特許が切れたジェネリック医薬品(特許切れにより安価で販売される同成分の医薬品)に注力する企業がある。
製薬会社は、化学原料または生物から取り出した原料を組み合わせて薬品をつくり、医療品卸業者を通して病院や薬局に販売している。2009年の薬事法(現在は薬機法)改正により、風邪薬やビタミン剤などの限られた薬においては、一定基準をクリアした店舗で登録販売者がいればコンビニエンスストアでも売ることが可能になった。
化粧品業界では、乳液や化粧水などの「基礎化粧品」、ファンデーションやルージュ、香水といった「メーキャップ化粧品」などを開発・製造・販売している。化学原料または生物から取り出した原料を組み合わせて化粧品をつくり、百貨店やドラッグストアなどに販売している。国内だけではなく、海外への輸出も盛んだ。

規模の拡大は一段落し創薬ベンチャーとの提携が加速

新薬の開発には長い時間と莫大な研究開発費が必要とされる。また、自社開発した薬でも特許による独占期間は限定されており、特許が切れると売上が急減するリスクもある。こうした理由により製薬業界は世界的にM&A(企業合併・買収)を繰り返してきた。ここ数年では2019年1月の米ブリストル・マイヤーズ スクイブによる米セルジーン買収(約8兆円)発表に始まり、2020年5月には米アッヴィがアイルランドのアラガンを約6兆5,000億円で買収手続きを完了するなど、大型買収が相次いだ。国内においても、武田薬品工業が日本企業による過去最大のM&Aとなる、アイルランドの製薬大手シャイアーを6兆円規模の金額で買収、売上高で世界トップ10入りするメガファーマとなった。
ただし近年は買収による規模拡大ではなく、創薬ベンチャー企業や国内外の製薬企業との間で、共同研究や開発、提携、出資といった動きが加速しており、今後は、遺伝子組換えや細胞培養技術を駆使したバイオ医薬品の市場規模が大きく拡大すると見られている。
mRNA型ワクチンをファイザーと開発したビオンテックは、ドイツのバイオ医薬ベンチャーであり、モデルナ社もアメリカのバイオ医療ベンチャーだ。国内の製薬企業やバイオ医療ベンチャーも国産ワクチンや治療薬の開発に取り組んでおり、新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ(エンシトレルビル フマル酸)」をはじめ、その成果が待たれる。また、コロナ関連だけでなく、国内製薬会社による世界的新薬として期待される薬の開発も進んでいる。その中でも注目の薬が、エーザイとスウェーデンのバイオアークティックが共同開発したレカネマブ。臨床試験で、早期アルツハイマー病患者の認知機能低下を遅らせる効果が確認されており、アメリカでは2023年1月に、条件つきながら承認されている。

普及がすすむジェネリック薬。一方で課題も

国内では社会保障給付における医療費が年々増加傾向にあり、2021年度からは「毎年薬価改定」がスタート。製薬業界は、薬剤費を抑制するための薬価引き下げや、ジェネリック医薬品の普及といった課題に直面している。そのジェネリック医薬品も、日本ジェネリック製薬協会の発表によれば、2022年7月~9月の普及率が80.3%と、政府目標の80%に到達した。ただし、相次いだジェネリック薬業界の不祥事(行政処分)で、ジェネリック薬への信頼性の低下や供給不足が発生、混乱の収拾には時間がかかると見られている。
各メーカーは、日本市場だけに頼らない収益構造の改善が課題で、成長戦略に応じた様々なM&Aの模索や、世界市場の4割を占めるといわれる米国や中国、アジア諸国、南米などの新興国へも展開するグローバル化も進めている。

化粧品業界は海外市場、ネット市場への販路参入が進む

大手に限らず、中堅・中小にもブランド力と存在感を持つメーカーが多い化粧品業界。近年は、製薬会社やフィルム会社、飲料メーカー、食品会社などがスキンケアブランドを生み出したり、他業界の企業がナノテクノロジーを応用した美容液を発売したりと、さまざまな業界から参入するライバルも多く競争が激化している。
販売面においては、専門店や百貨店などでの販売を中心とした高級化粧品から、コンビニやスーパー、通信販売などに向けた中・低価格帯化粧品へ需要がシフトしており、国内市場は人口の減少もあって成長力を維持するのが難しくなっている。そのため各社は、新分野の強化や、アジア地域やインドなどの新興国で市場開拓を進めている。

しかし、コロナ禍で、対面販売の自粛や、マスク着用や在宅勤務の浸透などにより国内市場は大きな影響を受けた。そのため、各社はオンラインによるカウンセリングや、販売員と接することなく商品を試せる店舗を設置、さらには、拡張現実(AR)人工知能(AI)技術を使ったバーチャルメイクなど、これまでにない非接触型販売手法の確立などの対策を行っている。一方で、いち早く経済活動を再開した中国市場は化粧品市場の規模も大きく、各社は中国での販売拡大をもくろんでいる。特に、中国のハワイと呼ばれる海南島で、離島免税の新政策が施行。一人当たりの年間免税額が3万元から10万元に拡大されたことに加えて、商品1点あたり8千元だった免税限度額や1回あたりの購入数量の制限も撤廃され、免税売上高が急増している。2020年7月1日に新政策がスタートし、2年目となる2022年6月末までの海南離島免税の売上は、906億元(1元20円と換算すると1兆8,120億円)を記録した。化粧品業界にとっては、海南島への進出はもちろん、いかに中国市場を取り込めるかが業績回復への鍵となりそうだ。

業界関連⽤語

原薬

原薬とは薬の中に含まれる有効成分のことで、医薬品原料を化学合成することで製造している。原薬をさまざまな医薬品添加物と混ぜて、錠剤や顆粒剤、カプセル剤に仕上げることを製剤という。こうした原薬製造から製剤までを自社工場で行っている製薬会社もあれば、原薬を他社から購入して製剤を行う製薬会社もある。2019年に、一部の製薬会社の薬の原薬に、発ガン性物質が混入するという事件が発生し、各社は自主回収を行うなど世界的な大問題となった。

ミューズ細胞(Muse細胞)

再生医療の研究で、iPS細胞ES細胞に続き、注目されるミューズ(Muse)細胞。もともと骨髄や皮膚などの体内に存在し、東北大学の出澤真理教授らの研究チームによって発見された。体を構成するさまざまな細胞に分化できるため、体内にミューズ細胞が注入されると傷ついた臓器に集まり組織を修復する。身体への負担が少ない、多くの疾患に適用可能、といった特徴があり、臨床試験もスタートしている。

がん免疫療法

免疫力とは、体内に細菌やウイルスなどが侵入することを防いだり、排除したりすることで身体を守る力のこと。こうした免疫力を利用してがん細胞を攻撃し排除する治療法が、がん免疫療法。がん免疫療法で使われるのは、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つために服用される薬で、「免疫チェックポイント阻害薬」と言われるもの。非常に高額な薬価で話題になった、小野薬品のオプジーボがその代表例だ。世界で最も開発競争が激しい分野とも言われており、各社が開発に鎬を削っている。

ゲノム創薬とバイオ医薬品

ゲノム創薬とは、遺伝子塩基配列情報を利用することによって、新しい薬やより効果が高く副作用の少ない薬を開発する手法のこと。この手法を取入れることで医薬品開発の期間短縮が可能になると考えられている。ファイザーやモデルナが開発した新型コロナウイルス用mRNAワクチンは、こうしたゲノム関連技術を活用している。なお、タンパク質を有効成分とし、遺伝子組換え技術細胞培養技術を用いて製造した薬はバイオ医薬品と呼ばれている。

ドラッグラグ(drug lag)

新薬を患者の治療に使用できるまでの時間差、または海外の新薬を国内承認できるまでの時間差のことをいう。日本は諸外国より新薬認可が遅く、新薬開発から承認まで平均4年と長いことが指摘されている。しかし、最近では、治験に対する医師の理解が進みつつあることや、治験コーディネーター(CRC)と呼ばれる職種の活躍などにより改善が期待されている。

CRO

CROとは、Contract Research Organizationの略で、開発業務受託機関と呼ばれている。製薬会社から医薬品開発における臨床試験製造販売後調査の業務を受託し、新薬開発の一端を担っている。近年は、新薬開発業務の多くをCROが担うケースもあり、その重要性はますます上がっており、今や医薬品開発に欠かせない存在となっている。

どんな仕事があるの︖

薬品・化粧品業界の主な仕事

・MR
医療情報担当者。薬の販売先である病院や卸会社に薬の正しい情報を伝える。また、販売先からの薬への要望や意見を取りまとめる。

・新薬開発
新しい薬を生み出す。

・臨床開発
医師や医療機関などと協力し合い、臨床試験がスムーズに進むように調整する。

・生産技術開発
新薬を開発するための製造方法や包装形態などを研究開発する。

・治験コーディネーター
医療機関において、治験責任医師・分担医師の指示の下に、医学的判断を伴わない業務や、治験にかかわる事務的業務、業務を行うチーム内の調整など、治験業務全般をサポートする。

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薬品・化粧品業界の企業情報

※原稿作成期間は2022年12⽉28⽇〜2023年2⽉28⽇です。

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