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電力・ガス・エネルギー業界

業界の現状と展望

電気を安定的に生産して、届ける

安定供給を第一に、環境にやさしい次世代エネルギーの開発にも取り組んでいる電力業界。電力事業は、主に国から認可を受けた電気事業者によって行われ、規制緩和が段階的に進んだ1990年代後半以降も、新規参入者のシェアは低いままだった。

安定供給を理由に既存の電力会社の独占が続いていたが、福島第一原発事故をきっかけに、電力供給の多様化や、自由競争による電気料金引き下げへの関心が高まり、電力業界は大きく様変わりした。2016年4月には電力小売りの全面自由化がスタート。これをきっかけに、東京電力や関西電力といった従来の大手電力会社だけでなく、原則として誰もが発電事業者になったり、小売電気事業者として電力販売を行えたりするようになった。

大手電力会社同士の競争に加えて、携帯電話会社やガス会社、総合商社などさまざまな業種の会社が小売電気事業者として参入し、携帯電話やガスとのセット割引やポイントサービスなど、昨今の多彩な暮らし方に合わせた多様な料金プランが登場している。また、2020年4月には大手電力会社の発電部門と送配電部門を分ける発送電分離もスタート。送電線や配電網を電力大手以外にも使いやすくすることで新規参入が促進され、サービスの多様化、競争による価格の抑制、風力や太陽光など新エネルギーの普及につながると期待されており、電力会社は大きな変容を迫られている。

燃料価格の高騰で経営環境は厳しい。原発の再稼動や次世代型原子炉も検討へ

2016年4月に始まった電力小売の全面自由化から6年目となった大手電力会社10社の2023年3月期の4月から12月までの決算では、10社のうち保有株の売却益を計上した四国電力を除き9社が最終赤字となった。また、通期では中部電力を除く9社が最終赤字としており、過去最大の赤字額を想定している電力会社もある。そのため、電力10社の7社が、規制料金と呼ばれる家庭向けで契約者が多い料金プランで3割から4割程度の値上げを国に申請している。

原因は、火力発電の燃料に使用するLNGや石炭価格の高騰。加えて円安が追い討ちをかけ、各社とも収益が大幅に悪化したことによる。売上高自体は、燃料費調整額の増加もあり、増加しているが、売上増に燃料費増が追いつかない状況になっている。原子力の再稼動が進まず、脱炭素の観点から老朽化した火力発電所の休廃止もあり、2022年の夏には電力の需給が逼迫する事態も起こった。政府は、電力需給の状況やエネルギー安全保障の観点からも、2023年の夏以降に原子力発電7基の再稼動を目指す方針を確認。また、次世代型原子炉の開発や建設を検討するよう指示している。ただし、使用済核燃料(いわゆる核のゴミ)をどのように処理するかは、日本のみならず世界的な課題として残っている。
資源エネルギー庁の「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」によれば、2022年3月時点で、全販売電力用に占める新電力のシェアは約21.3%、うち家庭用等を含む低圧分野では約23.4%となっている。電力販売には、低圧・高圧・特別高圧の3種類があり、家庭や商店向けの低圧を中心にシェアが拡大している。一方で、大型な商業施設や工場、オフィスビル向けの特別高圧では、やや頭打ちの傾向が見える。
市場には、小売電気事業者が新規参入している一方で、厳しい競争によって撤退、倒産する事業者も増えている。夏季や冬季などの電力逼迫時は、一時的に卸電力価格が高騰するため、各社には適切なリスク評価・管理が求められている。しかも、近年はエネルギー価格の上昇や円安を受けて、電力逼迫時に想定以上に電力価格が上昇することもあり、厳しさが増している。これまで増加傾向にあった小売事業だが、足元では減少しており、2022年6月末時点で小売電気事業者の登録数は738者。一方で事業継承は113件、事業廃止や法人の解散は69件(前年同時期は38件)と増加傾向にある。

電気を安定的に生産して、届ける

脱炭素が加速。実現には多くの課題が

2050年までにカーボンニュートラル脱炭素社会の実現を目指す日本。電力会社においては、太陽光や風力などを利用した再生可能エネルギー比率を伸長させ、石炭火力発電への依存度を減らすことが求められている。しかし、原子力発電所の再稼動や、次世代型原子炉の建設・発電開始に時間がかかりそうな環境下で、火力発電に多くを依存している電力会社にとっては、困難な課題だ。具体的には、石油、石炭、天然ガスなどを取り扱う業界と一体となり、発生した二酸化炭素を回収・貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術の推進のほか、分離・貯留した二酸化炭素を再利用するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)。水素アンモニアといった二酸化炭素を排出しない脱炭素燃料を活用するなどの方向性が示されている。
もちろん、需要サイドにおいてもエネルギー転換への受容性を高めるなどの意識や取り組みも必要だ。

ガス自由化で電力会社とガス会社の戦いは新たなステージに突入

家庭用、工業用に使われるガスには、天然ガス(LNG)を原料とする都市ガスと液化石油ガス(LPG)を原料とするLPガス(プロパンガス)がある。

電力の固定価格買取制度開始後は、大手、中小を問わず多くのガス会社が電力小売事業に参入、デュアル・フューエルと呼ばれるガスと電気のセット販売も登場した。他方、都市ガス市場もかつての電力市場同様に、大手のガス会社が独占的に都市ガスの供給を行ってきた。都市ガス市場でも、大口需要家を中心に徐々に市場が開放されてきたが、2017年4月1日からは小売りが全面的に自由化。ガス事業に新規参入する電力会社もあり、電力会社とガス会社の戦いは新しいステージに入ったといえそうだ。
また、ガス管網を管理する部門を完全に独立した別会社にして、すべての会社が同じ条件でガス管網を共用できるようにする導管分離も2022年に実施された。

資源エネルギー庁の「電力・ガス小売全面自由化の進捗状況について」によれば、2022年7月20日時点で、ガス小売事業者として登録されているのは95者で、このうち41者が新たに一般家庭へ供給(予定を含む)している。
小売全面自由化後、家庭用の契約で他社へ契約変更するケースも増えており、2022年9月時点での累積スイッチング率は33.5%となっている。

脱炭素への積極的な取組が求められるガス業界

ガス業界は、クリーンエネルギーとしての都市ガス需要が伸びてきたが、2050年を目標とする脱炭素社会への移行の影響も大きい。電力会社同様に、CCSCCUS技術の進展と導入が課題となっている。その一例として、メタネーションの検証や実施を行っているガス会社も多い。
メタネーションとは、水素と二酸化炭素から都市ガス原料(天然ガス)の主成分であるメタンを合成する技術で、水素と回収した二酸化炭素からできる合成メタンであれば、燃焼時に排出される二酸化炭素は回収されたものと相殺されるので、追加的に二酸化炭素が排出されるわけではない。そのため、カーボンニュートラルの有望技術の1つと位置づけられている。

業界関連⽤語

スイッチング

投資信託を買い換える場合によく使われている言葉だが、自由化された電力やガス市場で、現在契約している電力会社やガス会社から、別の会社に乗り換える場合にもスイッチングという言葉が使われる。全契約者のうち、スイッチングした件数の比率がスイッチング率。

デマンドレスポンス

供給側(電力会社)の能力増強だけに頼らず、需要側(ユーザー)の消費量をコントロールして、需給バランスを一致させようという政策が「デマンドレスポンス」。具体的には、電気を使えば使うほど料金が高くなるような設定にしたり、電気使用量の多い昼間の電気料金は高く、深夜は安くしたりするといった時間帯別料金を設定するなどの方法がある。
供給側の対策よりも需要側の工夫の方が効果が高いとされ、世界的に広がっている。

メタンハイドレート

メタンガスと水の分子が混ざって固まったシャーベット状(氷状)の物質で、火をつけると燃え上がることから「燃える氷」ともいわれており、燃えた後には水が残るだけとなる。また、メタンは燃焼時の二酸化炭素排出量が少ないため、化石燃料としての期待も大きい。

日本近海には、日本で消費される天然ガスの100年分に匹敵する量のメタンハイドレートがあるともいわれている。現状では採掘コストが高く安定生産には課題も多いが、純国産エネルギーとしての活用が期待されている。

ガスコジェネレーション

天然ガスから電力と熱を作り出すシステム。ガスエンジン方式、ガスタービン方式、燃料電池方式がある。
発電所と違い、電気が必要な場所に設置して発電するため送電ロスが発生しない、発電で発生した排熱を回収し、給湯、空調などに再利用できエネルギー節約につながるなど多くのメリットがある。
家庭用、産業用ともに普及が広まっており、エコウィル(ECO WILL)は家庭用のガスコジェネレーションシステムのこと。

次世代型原子炉

既存の原子炉よりも安全性が高く、効率よく発電できるとされる次世代型原子炉。様々な発電方法があり、革新軽水炉小型原子炉高温ガス炉高速炉核融合炉マイクロ炉などがある。政府では、エネルギーの安定供給と脱炭素社会の実現を目指して、次世代型原子炉の開発や建設を検討している。脱炭素の流れの中で、地球温暖化ガスを排出しない原子力発電を見直す機運も高まっており、各国の様々な企業が開発に力を入れている。

小型原子炉

100万キロワット級が多い従来の原子炉よりも規模が小さく、国際原子力機関の定義では出力が30万キロワット以下の原子炉とされている。既存の原子炉よりも比較的構造がシンプルで、炉心を冷やしやすいとされている。実際の運用では複数の原子炉を設置して大きな出力を得る。脱炭素の流れの中で、地球温暖化ガスを排出しない原子力発電を見直す機運も高まっており、各国の様々な企業が開発に力を入れている。

超伝導送電

超伝導とは、特定の条件下で電気抵抗がゼロになる現象で、リニア中央新幹線では超伝導技術による磁石が採用されている。電気を発電所から自宅や会社に送電する間に、電気抵抗で5%程度のロスがあると言われおり、超伝導技術を使って送電できれば大幅に送電ロスをなくすことできる。5%のロス分でも、1年間では、100万キロワット級の発電所がフルに稼動して5年以上かかる電力量に相当し、長距離の超伝導送電が可能になれば、世界的な電気革命が起こせると考えられている。国内でも商用化に向けた実証実験が行われている。

給電道路

特殊な装置を高速道路などに実装し、EVがその上を走行するだけで連続して無線で電力をEVに供給することができる道路。給電道路が実用化されれば、EV化において課題とされる充電器の設置や、走行距離の問題解決にも道筋が見えてくる。EVの長距離・連続走行を可能とするシステムの確立を目指して、国内でも実証実験が進んでいる。

GX(グリーントランスフォーメーション)

二酸化炭素などの温室効果ガスを排出する化石燃料などを、脱炭素の太陽光や風力などの再生可能エネルギーに転換する、社会・経済・産業構造システム全体の変革を目指す概念。岸田首相が「新しい資本主義」の実行計画案を公表する中で、投資分野の1つとしてGXを取り上げたことで注目された。

どんな仕事があるの︖

電力業界の主な仕事

・営業
家庭や企業に対して、電気を利用する際の契約手続き、電気料金計算のほか、さまざまな問い合わせに答える。新しい電気設備を設置するための説明や提案を行うことも多い。文系学部出身者の多くは、営業職を経て、企画職や管理部門など他部門へ異動するケースが多い。

・燃料調達
世界のエネルギー需要や為替動向などを見ながら、燃料を安定的に仕入れるための手配をする。

・技術・運転設備の管理保守
電力を生み出す発電所(火力、原子力、水力など)が安全に動いているかどうか、設備が異常なく動いているかなどを点検し、将来的にも安全に動くための計画を立てたり、設備の修理や交換などを担当したりする。理系学部出身者の多くは、この部門を経て、他部署に異動するケースが多い。

・送電/変電/配電管理
電力を送る「送電所」、送られてきた電力の変換をする「変電所」、変電所と顧客を結ぶ「配電設備」の安全を守るため、技術的な立場で点検やチェックをする。

ガス・エネルギー業界の主な仕事

・営業
家庭や企業に対して、ガス利用のメリットやおすすめの設備などを提案するとともに、顧客からのさまざまな問い合わせに答える。

・営業支援
ガス供給の協力会社を支援する仕事。サービスの質を高めるための資料を作ったり、営業戦略を企画したり、イベントを支援するなど、営業を全面的にサポートする。

・研究開発
ガスの原料や発電の仕組み、ガス機器やシステムなど、ガスを安定的に届けるための研究や開発をする。

・設計
ガスが安全にかつ安定的に届くように、古くなったガス管を取り替えるため、また新しく増やすガス管の設計をする。

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電力・ガス・エネルギー業界の企業情報

※原稿作成期間は2022年12⽉28⽇〜2023年2⽉28⽇です。

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