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総合商社業界

業界の現状と展望

多岐に渡る事業展開で規模の拡大を図る総合商社

多岐に渡る事業展開で規模の拡大を図る総合商社

「ラーメンから航空機まで」という言葉で表されるように、総合商社は、身近な食料品から産業の根幹をなす石油や天然ガスなどの資源、さらには金融から宇宙開発まで、あらゆる事業を手掛けている。欧米には存在しない日本独特の業態であり、海外においても「Sogo Shosha」と呼ばれている。

総合商社の主な役割は、流通(貿易・販売・物流)、金融、情報の3つ。これまでメインにしてきた流通(仲立ち事業トレーディング事業)は減少しており、金融の比率が高まっている。金融では貿易金融といわれる代金決済ファイナンス投資などを行っている。投資の対象は食品・鉱物・エネルギー資源などを中心に、不動産、物流、環境、インフラ、メディア、医療などさまざまだ。また、それぞれに数多くの子会社を持ち、巨大企業グループを形成している。

特筆すべきは、総合商社の生命線といわれる「情報」。世界各国に幅広く展開する総合商社が築き上げてきた有力政治家・実業家とのネットワークや現地情報の蓄積は、インターネットで情報検索ができる時代においても、貴重な財産である。

時代に沿った柔軟性が特徴の総合商社

企業によって数値は異なるが、総合商社の収益で資源分野が占める割合は高い。資源の輸出入といったトレードビジネスによる収益もあるが、全体的に投資権益から得られる収益の比率が高まっている。石油・石炭などのエネルギー資源、鉄鉱石や銅鉱山など鉱物資源の開発に投資することで、投資比率に応じた権益を確保し、その収益が権益に応じて分配されるのが資源権益によるビジネスモデルだ。

しかし、権益確保による資源ビジネスの比率が高まれば高まるほど、短期的な資源の価格変動によって収益は大きな影響を受ける。2016年3月期の大手5社の決算はそうしたリスクが一気に噴出。三菱商事と三井物産の大手2社は、資源価格の大幅下落により創業以来初となる赤字に転落した。その後は資源価格の持ち直しや、近年注力してきた非資源分野(繊維、食品、小売、医療など)での貢献などもあり、各社とも高収益を計上している。

国境を越えてサービスやモノを動かす事業を手がける総合商社には、コロナ禍が大きな痛手となった。2021年3月期は、原油や原料炭、金属など資源価格も一時的に下落し、収益を直撃したが、2022年3月期は、世界的な景気回復もあり資源価格が上昇。さらに非資源分野からの収益も好調で、これまで行ってきた幅広く稼ぐ力の向上が功を奏している。2023年3月期は、資源価格高に加えて、諸外国のインフレ円安による海外事業の収益上昇も見込める。業界大手の三菱商事は、中間決算時に上方修正し、2023年3月期の純利益で、総合商社初の1兆円突破を予想している。
また、2020年8月に、世界的に有名な投資家であるウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが、5大総合商社に約5%ずつ出資したことを表明。最大で9.9%まで買い増す可能性を示唆しており、株価の面でも注目されていた。2022年11月には、5大総合商社の株式をさらに1.19~1.69%買い増ししていたことが明らかとなり、いずれの商社も株式保有率は6%超となった。
今までに何度も「冬の時代」を経験しながらも、柔軟に事業内容を変えて生き残ってきた体質こそが、「Sogo Shosha」の特徴だ。
資源価格の上昇は一段落した感があるが、為替は大きく円安や円高も上下するなど、安定しているとは言えない。さらに、終わりが見通せないロシアによるウクライナ侵攻、アメリカやEU諸国の金利上昇インフレもあり、景気後退の懸念を示す声が多いことは不安材料だ。
今後は、AIIoTの普及に伴うビジネスモデルや事業環境の大変換が控え、太陽光や風力、水素、アンモニアなどの脱炭素の流れに沿った新エネルギーの時代は目の前に来ている。こうした世界情勢の中で、総合商社がどのようにバランスよく事業構造を構築し収益に結びつけるか、その手腕が問われている。

業界関連⽤語

5大商社と7大商社

国内で総合商社と呼べる会社はそれほど多くない。かつては9大商社という呼び方が定着していた時代もあったが、現在は、三菱商事、伊藤忠商事、丸紅、三井物産、住友商事の5社を5大商社、豊田通商と双日を加えた7社を7大商社と呼んでいる。それぞれに特徴があり、得意分野や強みはもちろん、社風も大きく異なるといわれている。

ESG投資

環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資のこと。欧米を中心に広く浸透し、カルパースGPIFといった大規模な公的年金基金もESG評価が高い企業への投資にシフトしている。そのため、総合商社においても、火力発電用燃料となる燃料炭の権益を売却するなど、ESG投資を意識した動きを見せている。

社内カンパニー制

もともと総合商社は、事業本部が独立した企業体の機能を有する「事業本部制」を敷いていた。これをさらに推し進めたのが「社内カンパニー制」。従来の事業本部になかった人事権や人材採用、査定の権限が加わる。これにより各カンパニーの自主・自律性が高まり、競争力の強化が図られるが、一方で採算の合わないカンパニーは完全分社化という形で整理されることもある。

資源メジャー

資源分野で、他の企業の追随を許さないほどの生産量と埋蔵量を持ち、採掘・流通・販売・製品化などの権益を有する世界的大企業のことを指す。需要側の企業に対して、強い価格交渉力や供給量の調整力を持つ。かつて資源メジャーといえば、石油生産をほぼ独占したセブン・シスターズと呼ばれた石油メジャーが有名だったが、今ではさまざまな分野で資源メジャーが存在している。BHP Billiton(ビー・エイチ・ピー・ビリトン)、Rio Tinto(リオ・ティント)、Anglo American(アングロ・アメリカン)、Vale(ヴァーレ)といった企業がよく知られている。

グリーンアンモニアとブルーアンモニア

脱炭素の新エネルギーとして注目を集めているアンモニア。燃やしても二酸化炭素を排出しないため、新たな発電方法の切り札になり得るとの期待も高い。経済産業省資源エネルギー庁の試算では、石炭にアンモニアを20%混ぜて発電すると、電力部門の二酸化炭素排出量を1割、100%アンモニア発電になると5割削減できると試算している。
一方で、アンモニアの製造過程で二酸化炭素を排出してしまうという課題もある。そのため、発電で使うアンモニアには、太陽光などの再生可能エネルギー由来の電気を活用して得られる「グリーンアンモニア」か、アンモニアの製造過程で排出された二酸化炭素を回収・貯留(CCS)する「ブルーアンモニア」が必要となる。総合商社では、主に海外の大手エネルギー会社と組んで、ブルーアンモニア製造を活発化している。

サハリンプロジェクト

サハリン島を取り巻く、9つのエリアで石油や天然ガスを開発するプロジェクトで、世界の石油メジャーをはじめ、日本からも総合商社などが参加している。9つのエリアのうち、実際に稼動しているのは、サハリン1サハリン2の2つだけで、サハリン1は石油中心のプロジェクトで、サハリン2は天然ガス中心のプロジェクトだ。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、大手石油会社のエクソンモービルサハリン1からの撤退を表明。世界的にロシアへの経済制裁の流れが加速する中で日本の対応も注目されたが、日本は、「自国で権益を有し、長期的な資源の引き取り権が確保されているもの。エネルギー安全保障上極めて重要なプロジェクト」との判断を示した。サハリン1、2ともにロシアが事業を新会社に移管したが、新会社への参画を選択。ロシア側も新会社への参画を承認した。

どんな仕事があるの︖

総合商社業界の主な仕事

・営業
よい製品を売りたい企業と買いたい企業を開拓して結びつけ、適正な価格設定や仕入れ数量の調整、流通経路の確保などを調整する。グローバルに活躍するため、語学力も必要。

・営業事務
営業の仕事をサポートし、スムーズな取引を支える。

・システムエンジニア(SE)
商社の物流、輸出入、経理などのシステムを構築、管理・運営する。

・商品管理
商品の仕入れ、在庫管理、潤滑な出荷など、商社の機能の1つである物流システムを管理する。

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総合商社業界の企業情報

※原稿作成期間は2022年12⽉28⽇〜2023年2⽉28⽇です。

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