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通信業界

業界の現状と展望

新しいメディアを上手に取り込むことが成長のカギ

「固定通信」・「移動体通信」・「IPS」などで構成される通信業界

通信業界には、従来の固定電話やPCにおける通信サービスを行う「固定通信」、携帯電話やスマートフォン、PHSなどのモバイルにおける通信サービスを行う「移動体通信」、インターネット接続サービスを提供する「ISP(インターネットサービスプロバイダー)」などがある。通信を行うための回線や設備を全国に整備し通信サービスを提供、重要な通信インフラを支えている。

個人のスマートフォンの普及率は9割弱。企業ではテレワークやクラウドサービス市場が拡大

一般用の情報通信端末には様々なものがある中で、いまではスマートフォンが中心になっている。総務省の「令和3年通信利用動向調査」によれば、2021年8月末時点のスマートフォンの世帯普及率は88.6%。また、インターネット利用者の割合は、13~59歳の各年齢で9割を超えている。また、インターネット利用機器もスマートフォンが中心となっているが、6~12歳の年齢層のみがタブレット型端末となっている。
また、コロナ禍をきっかけに企業におけるテレワークの導入が進み、その割合は51.9%と半数を超え、今後導入を予定していると回答した企業を加えると6割近くに達している。業種別では、やはり、情報通信業が97.7%と圧倒的に高く、次いで金融・保険業が82.4%と前年の67.6%から大きく伸びた。昨年は68.1%で2位だった不動産業は75.1%となった。導入目的としては、90.5%の企業が「新型コロナウイルス感染症への対応」と回答している。
また、企業によるクラウドサービスの利用率も増加傾向にあり、利用している(一部利用含む)のは70.4%となった。利用の効果については、「非常に効果があった」(30.4%)、「ある程度効果があった」(57.7%)と、合わせて88.2%(合計数字が異なるのは端数処理のため)の企業が肯定的な回答をしている。
IDC Japanの市場予測によれば、2022年の国内パブリッククラウドサービス市場規模は、前年比29.8%増の2兆1,594億円と見込んでいる。また、2021年~2026年の年間平均成長率は20.8%で推移し、2026年の市場規模は2021年比約2.6倍の4兆2,795億円になるとしている。

減少傾向にある固定電話加入者。移動通信ではMVNOが健闘

一方で固定電話(有線式加入電話)の加入者数は減少傾向にある。
総務省の「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表 (令和4年度第2四半期)」によると、2022年9月末時点での固定電話の契約数は前年同期比1.9%減の5,139万となった。その中でのNTT東西加入電話は同7.6%減の1,402万と減少した。一方で、IP電話の利用番号数は、微増の3,607万となり、固定電話におけるIP電話の比率が年々高まっている。

移動系通信(携帯電話・PHS・BWA)の普及率は、1993年にはわずか1%台だったが、2000年には携帯電話の加入者数が固定電話の加入者数を上回り、2022年9月末時点の移動体通信の契約数は前年同期比3.6%増の2億555万。携帯電話の契約数は同3.7%増の2億515万と、2億件を突破。いまでは単純計算で1人が1台以上の携帯電話を所有していることになる。

移動系通信契約数における事業者別シェア(グループ別)は、NTTドコモが36.3%(前年同期比0.5ポイント減、MVNOへの提供にかかるものを含めると41.8%)、KDDIグループが27.0%(同±0ポイント、同30.3%)、ソフトバンクが21.0%(同±0ポイント、同25.6%)となった。第4の携帯キャリア会社として注目の楽天モバイルは2.2%(同0.1ポイント増、同13.4%)だった。

低料金プランで競争激化の通信業界。本格活用へ5Gの基地局整備も進む

通信各社の収益源は、通話料データ通信料。従来とは異なる課金モデルの検討を含めて、既存ユーザーの囲い込みと新たな収益源の開拓が課題となっている。国内においては、オリジナルコンテンツの配信や通信販売の拡大などさまざまな施策を打ち出している。成熟期に入りつつある国内市場だけでなく、高い伸び率が見込まれる北米やアジア・太平洋地域を中心に海外展開も進めている。
また、大容量の通信が可能になる5Gもスタート。5G対応の端末機も各社から発売され、通信業界は新たなステージに突入している。先のデータ発表によると、2022年9月末時点での5G携帯電話の契約数は5,736万と前年同期(2,922万)から大幅増。一方で、3.9-4世代携帯(LTE)は前年同期比9.3%マイナスの1億3,273万と、2021年3月の1億5,437万から減少している。5Gは、個人向けはもちろん、IoTサービスなど法人向けへの展開もあり、通信業界はもとより関連業界からの期待も大きい。

コロナ禍の初期においては、新規投資の抑制や規模の縮小といった懸念もあったが、外出自粛によるテレワークWEB会議オンライン学習、また定額動画配信サービス(サブスクリプション)といったホームエンターテインメントなどによってデータ通信需要は増大。さらに、各企業によるDX戦略のより一層の進展が見込まれるなど、通信業界にとってはプラス材料も多かった。

一方で、大きなマイナス材料となったのは、携帯電話料金の値下げで、各社は20GBのデータ通信をベースとした月額2,000円台(税抜)の新料金プランを市場に投入。自社顧客の囲い込みと他社からの取込みをはかった。今後は、本格的に5Gの普及が進むことが想定され、いかに魅力あるコンテンツを消費者に提供できるかがポイントになりそうだ。値下げ競争は、一旦は一段落したとの声もあるが、5Gの普及により、データ利用量が増加することも予想されるので、5Gに適した料金プランも必要となる。加えて、いわゆるガラケーで利用されていた3G通信のサービス終了が決定している。時期については、通信会社によって異なるが、買換え需要も期待できるので、早晩厳しい顧客獲得競争が始まりそうだ。

本格的なeSIMの普及なるか

総務省は、これまでの物理的なSIMカードから、スマートフォンに内蔵された本体一体型のeSIMへの普及も進めている。eSIMであれば、店舗に行ってSIMカードを差替えるなど、新しいSIMカードの到着を待つことなく、通信会社の変更がオンラインで可能になる。同時にSIMロック禁止を普及させることで、消費者は通信会社の変更が容易になり、会社間で競争が促される。料金の引き下げも進むとの期待もあり、2021年10月以降に販売される端末はSIMロックが解除された状態であることが原則として義務付けられている。
ただし、eSIMに関する認知が消費者へ広まっているとは言えず、普及率はそれほど高くない。先の新料金プラン共々、販売店のあり方自体を見直すきっかけになりかねないため、こちらも注目される。なおeSIMは、Embedded SIMの略で、Embeddedは「埋め込まれた」などの意味がある。

業界関連⽤語

ローカル5G

通信事業者が提供する全国的に広範囲な5G通信サービスに対し、地域の企業、自治体などが個別に利用できる5Gネットワークのこと。例えば企業の社屋・工場内や自治体の施設といった限られたエリアで自営の5Gネットワークを構築、利用できる。ただし、国で指定された無線局免許の取得が必要となる。

MVNO

Mobile Virtual Network Operatorの略で、自社では通信網を持たず、他の事業者から借り受けて通信サービスを提供する事業者。仮想移動体通信事業者ともいわれる。
1年定額のSIMフリーカードや低価格のデータ通信サービスなど、大手通信事業者にはないオリジナルサービスの提供が特徴で、多くの企業が参入している。データ通信量や通信速度に制限がある場合もあるが、ユーザーニーズに即したサービスを提供している事業者が多い。

5G(第5世代移動通信システム)

NTTドコモでは、あらゆるものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)化が急速に進むと、2020年代の情報社会では、移動通信のトラフィック量は2010年と比較して1,000倍以上に増大すると予測している。そのため、世界中の通信会社が5Gの研究開発に取り組んでいる。実効スピードは現行の100倍、10Gbpsを超える超高速通信を実現。超高解像度動画のストリーミングも快適に楽しめ、自動運転にも寄与するとされる。
世界経済だけでなく国家安全保障に与えるインパクトも大きいといわれ、米中貿易摩擦の焦点の1つと目されている。

BYOD(ビーワイオーディー)

Bring your own deviceの略で、「自分の機器を持ち込む」こと。個人所有のパソコンやスマートフォンを職場に持ち込むだけでなく、アクセス制限された企業の機密情報にアクセスし業務を行うことも想定している。業務に必要なファイルやデータをクラウドに保管し、職場だけでなく出張先や自宅などでも情報にアクセスして仕事ができる。

企業側でコンピューターなどを用意する必要がない、情報をクラウドで一元管理できるというメリットがあるが、情報流出ウイルス感染のリスクや、セキュリティ管理が複雑になるなどの課題もある。

量子暗号通信

インターネット上では様々なデータが暗号化されてやり取りされているが、コンピューターの性能が向上するにつれて、ハッキングによってデータが盗まれたり、暗号が解読されるといったリスクが高まっている。量子暗号通信とは、量子力学の原理を応用し、暗号を解くために必要な鍵を分割、光の最小単位である光子にひとつひとつ乗せて送ることで、データ通信の安全性を担保できる技術。国内でも開発が進んでおり、2022年1月14日には、野村HD、野村證券、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、東芝、NECの5者が共同で、「理論上いかなる計算能力を持つ第三者(盗聴者)でも解読できないことが保証されている唯一の暗号通信方式」である量子暗号通信の金融分野への適用可能性について、国内で初めての検証を実施したことを発表した。

光電融合技術

これまで別々だった、光通信の技術と電子回路の技術を融合すること。コンピューターなどで使われる半導体チップ集積化が進んでおり、チップ内の配線の発熱が性能を制限しつつある。そこで、チップ内の配線に光通信技術を導入し、低消費電力化を行うと同時に高速演算技術も組込むことで、これまでにない光と電子が融合したチップの開発を目指している。NTTは以前から光電融合技術の研究開発を続けており、これらのチップを搭載した機器で構築された「オールフォトニクス・ネットワーク」によって、情報通信技術インフラの性能向上を目指している。

空飛ぶ通信基地局

災害などで、携帯電話の基地局が使えなくなった場合などに備えるために、各社が開発を本格化しているのが、「空飛ぶ通信基地局」と言われるもの。High Altitude Platform Stationの頭文字を取って、HAPSとも呼ばれている。成層圏まで無人の航空機を飛ばし電波の送受信を行い、上空から広い通信エリアを作ることで、高度の高い場所や通信エリアの穴をなくすと言ったメリットもある。上空の基地局が動くことで、カバーできる通信エリアが変動するなどの課題もあるが、災害時だけでなく、通信インフラが整っていない途上国での活用も期待されており、実用化が待たれる。

Starlink(スターリンク)

アメリカの航空宇宙メーカー「Space Exploration TechnologiesスペースX)」が運営するインターネット接続サービス。ロシアによるウクライナ侵攻時に、ウクライナからの要望に応じ、インターネット接続サービスを提供したことでも知られている。ちなみに、スペースXは、テスラやPayPalの共同創業者で、近年ではTwitterのオーナーとしても知られるイーロン・マスク氏が率いている会社の1つ。独自開発のロケットを用いて、宇宙空間に多数の衛星を打ち上げ、スターリンクと呼ばれる通信衛星網を構築。スペースX社は、そのスターリンクを利用して、インターネット接続ができるサービスを提供しており、電波が届きにくい離島や山間部でもインターネット利用が可能になる。2022年10月に、アジアでは初めてとなる日本でのサービスを開始した。すでに3,400基を超える衛星を打ち上げており、当初東日本中心だったエリアは、いまでは日本の大部分をカバーしている。

OSINT(Open Source Intelligence:オシント)

OSINTとは、一般に公開されている情報源からアクセスが可能なデータを収集、分析、決定する諜報活動の1つ。主に軍事分野で用いられていた手法で、テレビやラジオ、新聞、雑誌などに掲載された様々な情報を丹念に収集し、分析していた。
いまでは、スマホとソーシャルメディアの普及、さらに分析ツールも登場し、誰もがその担い手になれる時代になった。投稿された動画や画像の撮影場所や、影の長さから撮影時間を特定することもできる。また、事件の容疑者や投稿者の身元、アイドルの自宅などを特定してソーシャルメディアで公開する、いわゆる「特定屋」もオシントの一種と言える。オシント自体には問題はなくても、得た分析結果の使い方を誤ると、大問題になる可能性もあり、常に目的や妥当性が問われる行為と言えよう。

どんな仕事があるの︖

通信業界の主な仕事

・セールスエンジニア
営業担当と協力してクライアントのニーズを正確に酌み取り、ソリューションの提案から、開発、納品に至るまでを管理する。

・商品企画
自社の技術をどのようにサービスに生かすのかということを念頭に、新しい商品を企画し、実現させる。

・ネットワークエンジニア
ネットワークシステム構築の全般(機器開発、システムの提案、設計、保守、運用・サーバ管理など)を担う。

・カスタマーサービス
ユーザーからの製品やサービスに関する問い合わせに直接対応する。ユーザーにとってはその企業の顔ともなる。

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※原稿作成期間は2022年12⽉28⽇〜2023年2⽉28⽇です。

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