就職活動では、履歴書やエントリーシートなど、今までの自分のこと、これからの自分のことを書く機会が増えます。面接になれば、書く機会から、話す機会に。これは、障がいのある学生にとっても同じです。
ただ、障がいがあると、自分がどのような障がいなのか、どのようなサポートが必要なのか、どのような仕事はできそうか、難しそうかといった説明をする必要があります。学生の皆さんが企業を選ぶように、企業も皆さんのことを選びます。障がい者雇用では「自分の障がいを分かりやすく説明できているかどうか」は採用基準の一つとなっています。
就職活動を始める前に、自分自身の障がいを一度振り返ってみて、説明できるか確認してみましょう。自分の障がいについてのマニュアルを作ることができれば、志望企業への内定に一歩近づくかもしれません。
今回は、就職活動前に答えられるようにしておきたい４つの質問をご紹介します。

「質問1 あなたの障がいについて教えてください」
これは就職活動で絶対に聞かれる質問です。まずは「障がい者手帳に記載されている障がい名と等級」を答えられるようにしましょう。
また、車いすを使っている、義足を履いている、白杖を使っているといった日常生活で使っている補助具などの説明を加えられることが望ましいです。障がい名と等級だけでは、どの程度の障がいなのか具体的にイメージできません。
「障がい者手帳に記載されている障がい名と等級」に一言付け加えることを目標にしてみましょう。

「質問2 障がいを負った経緯や理由を教えてください」
これも就職活動で必ず聞かれる質問です。生まれつき障がいがある、事故や病気によって障がいを負ったなどさまざまな経緯、理由があるでしょう。回答は長くても20秒ほどで説明できるよう準備しておきましょう。
例えば、精神障がいや内部障がいなど、障がいの種類によっては、回答できない、回答しづらい場合があります。その際は、診断を受けて何年経ちますといった障がいを負ってからの期間を伝えられるように準備することから始めてください。これは、障がいを負った経緯や理由と向き合うことがつらいという学生にも活用できます。

「質問3 障がいに関して配慮が必要なことはありますか」
この質問は「障がいが原因でできないこと、難しいことはありますか」と同じ意味を持ちます。 障がいがある人の多くは日常生活での困りごとを抱えています。これは仕事現場、職場に置き換えても同様です。その困りごとに対する手助けやサポートを「配慮」といい、障がい者雇用では、内定が出れば、企業側ができうる範囲内で配慮を準備してくれます。
就職活動中の学生は、たとえアルバイトやインターンシップなどの経験があったとしても、企業の一員として働いた経験はほとんどないでしょう。経験がない中で、働く上で必要な配慮を挙げることは難しいかもしれません。
したがって、就職活動前には「日常生活での困りごと」と「その困りごとへの対策・予防策」を答えられるように準備しておくだけで十分です。「日常生活での困りごと」の数は多ければ多いほどいいです。細かくても構いません。
そのうえで、エントリーした企業の業種や職種を分析して、困りそうなこと、サポートが必要そうなことを挙げられるようにしましょう。障がい者雇用の面接官に、直接質問してみるというのも有効です。

「質問4 障がいがあってもできることはなんですか」
これは、障がいが原因でできないだろうと思われていることに対して、実はできると訴えられるように、補足説明を考えるための質問です。自分自身への問いかけです。
例えば、下肢障がい（足が不自由）という言葉だけをみると、車いすに乗っている・歩けないというイメージをもたれやすいですが、実際は車いすに乗っていない人の方が多いですし、歩ける人もたくさんいます。
「障がい」という言葉を聞くと、「◯◯できない」というようにすぐに頭の中で変換されがちです。これは、障がい者本人にも言えることです。「◯◯できない」というネガティブなイメージではなく、「障がいが理由で◯◯はできませんが、それ以外はできます」とアピールできるように準備しておきましょう。

　　

就職活動本番。興味のある企業にエントリーし、説明会に参加した後は、いよいよ選考が始まります。履歴書やエントリーシートなどの書類選考もあれば、役員や人事担当者との面接による選考もあります。
障がいがある学生の場合、書類選考では文章で、面接では口頭で自分の障がいを伝えなくてはならない場面が訪れます。自分の障がいを前向きな言葉で、分かりやすく伝えることによって、企業側は「この学生となら一緒に働くことができる」と自信を持って判断を下せるようになります。
今回は、選考の過程で自分の障がいを伝えるために気をつけておきたいポイントを書類選考編・面接選考編としてご紹介します。

履歴書やエントリーシートなどの書類選考では、自分の障がいについて文字で書く必要があります。まずは、障がい者手帳に記載されている自分の「障がい名」と「等級」を書くようにしましょう。「障がい名」を書けば障がいの種類を、「等級」を書けば障がいの程度を、企業側に伝えることができます。
障がいを負った経緯や障がいが理由でできないことなどを説明しようとすれば、いくらでも具体的に説明できます。ただ、企業側にとって書類選考時に知りたいことは「あなたが障がい者である」ということ、そして「どこにどの程度の障がいがあるのか」ということです。障がいに関する詳しいことは、面接でのコミュニケーションの中で聞いてくれます。
障がいの種類の中には「障がい名」だけだと分かりづらいものもあります。その場合は、一言補足説明を加えることが望ましいでしょう。また、車いすや義足、補聴器などの補助具を使っている場合は「普段は車いすを使っています」といった補助具の説明を書き加えてみてください。
自分の障がいを書くときは「分かりやすく、短く、端的に」を心がけることが大事です。ぜひ、意識してみましょう。

個人面接やグループ面接などの面接選考では、自分の障がいについて口頭で伝える必要があります。口頭の場合は、書面とは違って、読み返すことができません。分かりやすさだけでなく、記憶に残りやすい言葉や表現で伝えられるようにしましょう。
面接でも、まずは自分の「障がい名」と「等級」を伝えます。そのうえで、自分の障がいを詳しく説明していきます。例えば、目や耳が不自由な場合だと、視力や視野、聞こえの程度といった「数字」で伝えられる項目は、面接官にとって覚えやすいものです。通院の必要の有無や補装具の有無、ペースメーカーを入れているといった「事実」で伝えられる項目も同様です。
また、職場で配慮が必要となることや障がいが理由でできないこと、難しいことなどを尋ねられる機会もあります。その際には「配慮が必要なことは3つあります。1つ目は…」というように、相手が情報を得やすいような言い回しを心がけてください。自分の障がいを説明する時間も選考時間。話し方や話す姿勢も大切です。
障がいに対して、どういう気持ちを抱えているかは人それぞれで、ポジティブに受け入れている人も、ネガティブに受け入れている人もいます。ただ、面接官の視点から見れば「一緒に働きたい人」を選びたくなることは当然です。自分の障がいを説明するときも、笑顔で前向きな姿勢で話すほうが、結果につながりやすいでしょう。
自分の障がいを口頭で説明する際には「覚えやすく、笑顔で、前向きに」が大事なポイントです。ぜひ、意識してみましょう。
障がいが理由でプレゼンが苦手、アドリブが利かないといったこともありますが、それは障がい名を説明した時点で、面接官は気づいています。安心して、自分の精一杯を面接で発揮してみてください。

障がいのある学生も、書類選考・面接選考を突破しなくては内定を勝ち取ることはできません。書類では「分かりやすく、短く、端的に」を心がけ、面接では「覚えやすく、笑顔で、前向きに」を意識してみてください。
また、自分の障がいを伝えることは、入社後にも必要です。配属された職場の上司や先輩、同僚に対して、自分の障がいを伝える機会は絶対に訪れます。自分の伝え方ひとつで、職場での働きやすさや配慮は大きく変わります。
就職活動では何度も自分の障がいを説明することになります。この機会を通じて、どうすれば相手にとって分かりやすく伝えられるのか、気持ちよく受け取ってもらえるのかを考えてみてほしいと願っています。

志望企業の選考が進み、最終選考を突破すると、晴れて内定通知を受け取ることができます。場合によっては1社だけでなく複数社から内定が出ることもあるでしょう。「よし、内定をもらった！ 入社しよう！」という決断を下す前に、皆さんに1つだけお願いしたいことがあります。それは「会社見学に行ってほしい」ということです。
では、なぜ、会社見学の必要があるのでしょうか。それは「通勤のしやすさ」と「職場の働きやすさ」を確認するためです。就職活動中、内定が出るまでは企業に選ばれる立場ですが、内定が出てからは就職するかどうかを選ぶ立場に変わります。
入社したいという気持ちを抱きながら、会社を見学できるようにお願いしてみてください。内定者からの頼みであれば、企業も快く応えてくれるはず。ぜひ、以下の3つのポイントを確認してみてください。

「Door to Door（ドア トゥ ドア）」という言葉がありますが、通勤とは自宅玄関から職場の入口までを指します。その間、電車やバスといった公共交通機関を利用する場合もあれば、自家用車を利用する場合もあるでしょう。
自宅から会社まで通勤に何を利用し、どれだけの時間がかかるのか。また、乗り換えはスムーズに行えるか、無理なく運転できる距離かなど、会社見学への行き帰りで必ず確認してください。
公共交通機関を利用する場合でいえば、障がいの種類や程度によっては、乗車する・降車する際に時間がかかることが想定されます。また、乗り継ぎが複雑だったり、予想以上に時間がかかったりと一筋縄ではいかないかもしれません。
車を利用する場合でいえば、長時間、毎日運転することで疲労が蓄積しないか、雪や雨などの天候時に通勤が難しくならないかなど、確認項目が変わります。
また、会社見学に行く時間と実際に通勤する時間は違うことが多いでしょう。通勤は朝夕のラッシュと重なることがほとんど。実際に通勤する時間にリハーサルを行うことも重要です。

会社見学の際には、自分が配属される可能性がある職場を見学してみてください。もちろん、情報機密やセキュリティ、安全面や衛生面の観点など、さまざまな理由で見学が難しい場合もありますが、頼み込んでみましょう。
そこでやってほしいことは、入社後に自分が仕事で使う「モノ」の確認、そして一緒に働くことになるかもしれない「先輩社員」とコミュニケーションを取ることです。
目が不自由な方がパソコンを使う際には音声読み上げソフトが必要だったり、耳が不自由な方が社内でコミュニケーションを取るには筆談用のツールが必要だったりします。パソコン作業が多いのか、コミュニケーションの回数が多いのか、力仕事があるのかなど、仕事で必要なモノは何か？ を考え、自分の障がいに対して、どのような配慮や工夫が必要なのかを見つけてきてください。
また、多くの先輩社員と話してくることも大切です。障がいの種類や程度によっては、相談しやすい環境があるかどうかが長く働く上で必要な場合があります。気軽に話しかけやすい雰囲気かどうか、職場が静かなのか賑やかなのかを感じ取ってきてください。また、障がい者と働くことに対してどのような考えや意見を持っているか尋ねてみるのもいいでしょう。

就職活動を通じて、いろいろな不安や悩みを感じることがあります。障がいが背景のものもあれば、そうでないものもあるでしょう。その不安や悩みを会社見学のタイミングで人事担当者の方に正直に伝えてみることが大事です。
企業側も障がい者雇用の経験の有無に関わらず、不安を抱えていることは少なくありません。入社前にしっかりと準備ができるだろうか、入社後に職場の同僚とうまくいくだろうかなど、悩みが尽きることはありません。
皆さんから不安や悩みを話してくれれば、企業側もより具体的な準備を進めることができますし、企業側が感じている不安や悩みを伝えてくれるかもしれません。内定後であれば「会社でどのように活躍できるか」という観点からお互いに意見を出し合うことができますし、遠慮することなく意見を伝えられます。
会社見学は、人事担当者をはじめとした先輩社員に直接会って、自分の心の内を正直に話すことができる機会だととらえてみるといいでしょう。

障がい者雇用の場合、選考中に職場見学や1日体験などが含まれることがあります。ただ、就職活動中に感じたことと内定後に感じることは全然違います。入社を決める前に、一度会社見学に行って、自分の不安や悩みを解決するとともに、就職活動中には気づかなかった問題点を見つけることが大切です。
今回は「通勤のしやすさ」と「職場の働きやすさ」を確認するための3つのポイントを挙げましたが、会社見学をするときには、入社後の自分を想像しながら行ってください。納得できるまで確認したうえで、どの企業で社会人としてのスタートを切るか、決断してほしいと願っています。