日本経済新聞 連動特集 新卒採用広告特集 企業から学生へのメッセージ

育て、育つの時代 インタビュー 
俳優 伊原六花さん

持続可能な成長の実現へ、企業の多くは社員と共に育て、育つ道を探るが、若者はその中で「働く」をどう選べばいいのか。「自分で考え、決断し、そのあとは焦らずしなやかに生きて」―。高校時代、進学後の就職を考えていた俳優の伊原六花さんがインタビューに答え、自らの経験を振り返りながら語った言葉を糸口にして〝共育の時代〟の就活を考える。

決断はあくまで自分
あとはしなやかに生きる

ダンス部を率いて踊った「バブリーダンス」が注目を浴び、
高校卒業前にスカウトされた六花さんだが、元々別の道を志していた。

「高校の頃には舞台にも出演していましたが、親が見に来る発表会のような、あくまで〝習い事〟という感覚。芸能界は遠い存在で、俳優になるなんて思いもせずに進学するつもりでした」

 「ダンスに関連するお仕事ができたらと思い、入試の準備を進めていました。でもそんな中で、部活の顧問の先生に芸能事務所からお話が来ていると聞いて『せっかくのチャンス、できるところまでやってみよう』と」

俳優となって自分の本当の「好き」、自分の〝核〟に気づいた。
それは就活生の「就活軸」に通じるものかもしれない。

「本を読むのが好きで、ダンスも登場人物になりきって表現をしていましたが、それは台本を読んで自分を役に重ねる芝居も同じ。俳優の仕事を楽しく続けるうちに、自分はその『共通部分』が好きなんだと実感したんです」

 「表現で人を楽しませたい。皆に元気になってもらうのが好き。その気持ちが私の核なんです。大学生の皆さんの就活軸みたいなものでしょうか。ダンサーや俳優は『業種』。どの仕事をしてもそれは変わらない。私は進学していても、結構充実してダンスの道を極めていたんじゃないかと思うんです。今悩んでいる皆さんも、そこに気づくことができれば、人生の選択肢はぐっと広がるはずです」

 「もちろん、選択は絶対に自分がすべきです。つらい時は必ずあるので、判断を他人に委ねると、そんな時に人のせいにしてしまいがちですよね。でも自分を追い詰めないでください。私は結構『お天気のせい』にしちゃうんですけど(笑)。決断は自分がして、その後は立ち止まったり流されたりしてもいい。そんなふうにしなやかに生きていければいいですよね」

「育つ」の心に寄り添い
「育てる」の期待伝えて

〝握手〟に涙

ダンス部キャプテン時代は後輩を厳しく指導した。
今、俳優になって指導される機会が増え「育てる」と「育つ」を考えるようになった。

「ダンス部時代は動きを間違ったり、リズムに合わなかったりする後輩に、キャプテンとして厳しく注意することがありました。練習後までLINEで連絡したりして(笑)。それが自分の役目だと思っていました」

 「お芝居の仕事に就いて、周りから教えを受ける機会が多くなりました。私のために言ってくださっていると分かっていても、どうしても萎縮してしまうことがあります。ある時に、尊敬する人に指摘されたことがありました。一瞬、頭がいっぱいいっぱいになってしまいましたが、その人は最後に『頑張って』と握手してくれたんです。それだけのことなんですが、色々なことが伝わってきて、思わず泣いてしまいました」

 「普段から本当に自分を見ていてくれる人の言葉は素直に納得できますよね。すぐには受け入れにくくても、後でその人の気持ちを考えた時に、自分への思いや期待が分かってくると思います。指導する側が相手の心に寄り添い、教えられる側も心を開いてそれに応える。育てる期待と成長しようとする心を伝え合える。それが大事なことだと思います」

 「コロナ禍が明けて、仕事の人と食事に行く機会も増えました。あまりお酒は飲めませんが、人が集まる場所にたくさん参加するのが2024年の目標です」

 「若い世代は飲み会に誘いづらいと思われているかもしれません。でも、自分からは切り出しにくいが、上の世代の意見を聞きたいという若者は多いはずです。今の時代、若者も断る時ははっきり言いますから、変に遠慮せず気軽に声をかけてもらえるとうれしいんです」

逃げてもいい

芸能界入りの背中を押してくれたのは両親だった。
自分の選択を応援してくれる人の存在は頑張れる力になっている。

「スカウトされたとはいえ、果たして芸能界でやっていけるのかどうか、正直とても不安がありました。『働く』とはどういうことか、よく分かっていなかったし、家族や友達から離れるのも怖い気がしましたが、家族は自分よりももっと前向きに考えていたんです。特に母が『辞めたくなったら帰ってくればええよ。とりあえず飛び込んでみれば?』と言った時はちょっと驚きました」

 「自分には元々あまのじゃくな面もあるので、反対されたとしても逆に『やってやろう』と思ったかもしれません(笑)。でも私を信じてくれている人たちの言葉は、間違いなく決断を後押ししてくれたと感じています」

デビュー6年。パフォーマンスへの限界も感じた。
それを乗り越えた今、同世代の若者に、焦らず考え、柔軟に決断する大切さを訴える。

「ここ1、2年、自分が思うように結果を出せていない感覚がありました。表現のひきだしがこれ以上ない、そんな気がして、俳優を続ける自信をなくしかけたのですが、最近、また一歩を踏み出せた気がしています。全ての悩みをうまく言葉にできませんでしたが、マネージャーや事務所は答えをせかさず静かに寄り添ってくれました。その時間があってはじめて私も落ち着いて考えることができました。今の仕事が好きで、6年間の経験は人生を豊かにしてくれた。自分にはまだやれること、やるべきことがある、と再認識できたんです」

 「社会に出ると本当にしんどくなる時が誰にもあります。続けたからこそ報われることもあるでしょう。でも、きっと逃げてもいいです。私は結果的に踏みとどまる選択をしましたが、どうしても自分がその場でキラキラできないと感じたら、離れるのも手だと考えています。会社で働く場合も、その環境が全てと思い込まず、焦らず、柔軟に決断することが大切なのではないでしょうか」

撮影:中村嘉昭

PROFILE

いはら・りっか

俳優。2018(平成30)年大阪府立登美丘高校卒。日本高校ダンス部選手権で発表したバブリーダンスが注目され18年4月芸能界へ。映画「明治東亰恋伽」主演などを経て23年10月からNHK連続テレビ小説「ブギウギ」出演(秋山美月役)。
大阪府出身。24歳

企画・制作=日本経済新聞社Nブランドスタジオ

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