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通信業界

業界の現状と展望

新しいメディアを上手に取り込むことが成長のカギ

「固定通信」・「移動体通信」・「ISP」などで構成される通信業界

通信業界には、従来の固定電話やPCにおける通信サービスを行う「固定通信」、携帯電話やスマートフォン、PHSなどのモバイルにおける通信サービスを行う「移動体通信」、インターネット接続サービスを提供する「ISP(インターネットサービスプロバイダー)」などがある。通信を行うための回線や設備を全国に整備し通信サービスを提供、重要な通信インフラを支えている。

個人のスマートフォンの普及率は9割超。企業ではテレワークやクラウドサービス市場が拡大

一般用の情報通信端末にはさまざまなものがある中で、いまではスマートフォンが中心になっている。

総務省の「令和4年通信利用動向調査」によれば、2022年8月末時点のスマートフォンの世帯保有率は90.1%、個人の保有率も77.3%と堅調に伸びている。また、インターネット利用者の割合は、13~59歳の各年齢で9割を超え、インターネット利用機器もスマートフォンが中心となっている。
また、コロナ禍をきっかけに企業におけるテレワークの導入が進み、その割合は51.7%と半数を超えているが、前年からは減少しており、今後導入を予定していると回答した企業も減少した。業種別では、やはり、情報通信業が97.6%と圧倒的に高く、次いで前年大きく伸びた金融・保険業は84.3%だった。前年は75.1%あった不動産業は64.9%に減少した。
また、企業によるクラウドサービスの利用率も増加傾向にあり、利用している(一部利用含む)のは72.2%となった。利用の効果については、「非常に効果があった」(33.8%)、「ある程度効果があった」(55.3%)と、合わせて89.0%(合計数字が異なるのは端数処理のため)の企業が肯定的な回答をしている。
IDC Japanの市場予測によれば、2022年の国内クラウド市場規模は、前年比37.8%増の5兆8,142億円(売上額ベース)。2023年については、前年との比較では成長率は落ちるものの市場規模は7兆円を超えるとしている。
また、2022年~2027年の年間平均成長率は17.9%で推移し、2027年の市場規模は2022年比約2.3倍の13兆2,571億円になると予測している。

減少傾向にある固定電話加入者。移動通信ではMVNOが健闘

一方で固定電話(有線式加入電話)の加入者数は減少傾向にある。
総務省の「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表 (令和5年度第2四半期)」によると、2023年9月末時点での固定電話(音声系)の契約数は前年同期比2.1%減の5,029万となった。その中でのNTT東西加入電話は同8.0%減の1,290万と減少した。一方で、IP電話(従来のアナログ回線ではなくインターネットを経由して音声をやりとりする)の利用番号数は、同0.3%増の4,572万となり、固定電話におけるIP電話の比率が年々高まっている。なお、NTTはアナログ回線とISDN回線を廃止し、IP網へ移行することを決定しているが、自宅やオフィスに設置している固定電話が利用できなくなるわけでない。また利用者側からの手続きや工事などの必要もない。

移動系通信(携帯電話・PHS・BWA)の普及率は、1993年にはわずか1%台だったが、2000年には携帯電話の加入者数が固定電話の加入者数を上回り、2023年9月末時点の移動系通信の契約数は前年同期比5.0%増の2億1,567万。携帯電話の契約数は同5.1%増の2億1,552万。2024年1月1日現在の日本の人口は1億2,409万人とされているので、「1人が2台近く」の携帯電話を保有していることになる。

移動系通信契約数における事業者別シェア(グループ別)は、NTTドコモが35.2%(前年同期比1.1ポイント減、MVNOへの提供にかかるものを含めると41.0%)、KDDIグループが26.9%(同0.1ポイント減、同30.6%)、ソフトバンクが20.6%(同0.4ポイント減、同26.0%)となった。第4の携帯キャリア会社として注目の楽天モバイルは2.4%(同0.2ポイント増*)だった。
*楽天モバイルについてはMVNOを含まないMNO(Mobile Network Operatorの略で、移動体通信事業者のこと)としてのシェア

低料金プランで競争激化の通信業界。本格活用へ5Gの基地局整備も進む

通信各社の収益源は、通話料データ通信料。従来とは異なる課金モデルの検討を含めて、既存ユーザーの囲い込みと新たな収益源の開拓が課題となっている。国内においては、オリジナルコンテンツの配信や通信販売の拡大などさまざまな施策を打ち出している。成熟期に入りつつある国内市場だけでなく、高い伸び率が見込まれる北米やアジア・太平洋地域を中心に海外展開も進めている。また、それぞれ独自の経済圏を確立し、金融やECなどの非通信分野での収益確保にも力を注いでいる。
さらに、大容量の通信が可能になる5G(業界関連用語参照)もスタート。5G対応の端末機も各社から発売され、通信業界は新たなステージに突入している。先のデータ発表によると、2023年9月末時点での5G携帯電話の契約数は前年同期比40.1%増の8,054万と大幅増。一方で、3.9-4世代携帯(LTE)は同7.3%減の1億2,292万となっている。5G対応機器の普及で個人向けはもちろん、IoTサービスなど法人向けへの展開もあり、通信業界はもとより関連業界からの期待も大きい。

典型的なストック型ビジネス(仕組みやインフラを構築し、定額や従量で課金しサービスを提供、収益を確保するビジネス)といわれる通信業界だが、いわゆる官製値下げにより、各社は20GBのデータ通信をベースとした月額2,000円台(税抜)の新料金プランを市場に投入。自社顧客の囲い込みと他社からの取り込みを図ったためARPU(1ユーザーあたりの平均収益・売上で、通信会社の収益動向を左右する重要指標)が下落し、収益への影響も大きかった。
近年、値下げ競争は一段落し、今後はARPUの上昇による収益動向が注目される。
加えて、通信各社は、それぞれの経済圏を構築し、非通信サービスを充実させることでユーザーの囲い込みにも注力している。中でも、通信と金融をからめた巨大経済圏確保競争が注目だ。ソフトバンクグループはグループ内にPayPay銀行やPayPay証券などを、楽天グループは楽天銀行や楽天証券などを、KDDIグループはauじぶん銀行やauカブコム証券などを有している。そうした中で、通信大手で唯一傘下に銀行と証券会社がなかったNTTドコモは、マネックス証券を子会社化し巻き返しを図っている。他にも、KDDIがローソンのTOBに参画し、三菱商事とともに共同経営することを表明し、通信業界のみならず大きな話題となった。
さらに、時期は通信会社によって異なるが、いわゆるガラケーで利用されていた3G通信のサービス終了が決定しており、買い替え需要も期待できるので、早晩激しい顧客獲得競争が始まりそうだ。

本格的なeSIMの普及なるか

総務省は、これまでの物理的なSIMカードから、スマートフォンに内蔵された本体一体型のeSIMへの普及も進めている。eSIMであれば、店舗に行ってSIMカードを差し替えるなど、新しいSIMカードの到着を待つことなく、通信会社の変更がオンラインで可能になる。同時にSIMロック禁止を普及させることで、消費者は通信会社の変更が容易になり、会社間で競争が促される。料金の引き下げも進むとの期待もあり、2021年10月以降に販売される端末はSIMロックが解除された状態であることが原則として義務付けられている。
ただし、eSIMに関する認知が消費者へ広まっているとはいえず、普及率はそれほど高くない。先の新料金プランともども、販売店のあり方自体を見直すきっかけになりかねないため、こちらも注目される。なおeSIMは、Embedded SIMの略で、Embeddedは「埋め込まれた」などの意味がある。

業界関連⽤語

ローカル5G

通信事業者が提供する全国的に広範囲な5G通信サービスに対し、地域の企業、自治体などが個別に利用できる5Gネットワークのこと。例えば企業の社屋・工場内や自治体の施設といった限られたエリアで自営の5Gネットワークを構築、利用できる。ただし、国で指定された無線局免許の取得が必要となる。

MVNO

Mobile Virtual Network Operatorの略で、自社では通信網を持たず、他の事業者から借り受けて通信サービスを提供する事業者。仮想移動体通信事業者ともいわれる。
1年定額のSIMフリーカードや低価格のデータ通信サービスなど、大手通信事業者にはないオリジナルサービスの提供が特徴で、多くの企業が参入している。データ通信量や通信速度に制限がある場合もあるが、ユーザーニーズに即したサービスを提供している事業者が多い。

5G(第5世代移動通信システム)

NTTドコモでは、あらゆるものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)化が急速に進むと、2020年代の情報社会では、移動通信のトラフィック量は2010年と比較して1,000倍以上に増大すると予測している。そのため、世界中の通信会社が5Gの研究開発に取り組んでいる。実効スピードは現行の100倍、10Gbpsを超える超高速通信を実現。超高解像度動画のストリーミングも快適に楽しめ、自動運転にも寄与するとされる。
世界経済だけでなく国家安全保障に与えるインパクトも大きいといわれ、米中貿易摩擦の焦点の一つと目されている。

BYOD(ビーワイオーディー)

Bring your own deviceの略で、「自分の機器を持ち込む」こと。個人所有のパソコンやスマートフォンを職場に持ち込むだけでなく、アクセス制限された企業の機密情報にアクセスし業務を行うことも想定している。業務に必要なファイルやデータをクラウドに保管し、職場だけでなく出張先や自宅などでも情報にアクセスして仕事ができる。

企業側でコンピューターなどを用意する必要がない、情報をクラウドで一元管理できるというメリットがあるが、情報流出ウイルス感染のリスクや、セキュリティー管理が複雑になるなどの課題もある。

量子暗号通信

インターネット上ではさまざまなデータが暗号化されてやり取りされているが、コンピューターの性能が向上するにつれて、ハッキングによってデータが盗まれたり、暗号が解読されたりするといったリスクが高まっている。量子暗号通信とは、量子力学の原理を応用し、暗号を解くために必要な鍵を分割、光の最小単位である光子に一つ一つ乗せて送ることで、データ通信の安全性を担保できる技術。

光電融合技術

これまで別々だった、光通信の技術と電子回路の技術を融合すること。コンピューターなどで使われる半導体チップ集積化が進んでおり、チップ内の配線の発熱が性能を制限しつつある。そこで、チップ内の配線に光通信技術を導入し、低消費電力化を行うと同時に高速演算技術も組み込むことで、これまでにない光と電子が融合したチップの開発を目指している。NTTは以前から光電融合技術の研究開発を続けており、これらのチップを搭載した機器で構築された「オールフォトニクス・ネットワーク」によって、情報通信技術インフラの性能向上を目指している。

IOWN(アイオン)構想

Innovative Optical and Wireless Networkの略で、直訳すると「革新的な光とワイヤレスネットワーク」。最先端の光技術を使って、豊かな社会を創るための構想で、NTTが提唱している。これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想で、2024年の仕様確定、2030年の実現を目指している。2020年1月にNTT、米Intel Corporation、ソニー株式会社の3社がIOWN Global Forum, Inc.を設立。現在は国内外の有名企業や研究機関などそうそうたる顔ぶれが参画メンバーに加わっている。
NTTのサイトによれば、IOWNは、ネットワークだけでなく端末処理まで光化する「オールフォトニクス・ネットワーク」、サイバー空間上でモノやヒト同士の高度かつリアルタイムなインタラクションを可能とする「デジタル・ツイン・コンピューティング」、それらを含むさまざまなICTリソースを効率的に配備する「コグニティブ・ファウンデーション」の3つで構成されている。従来と比べて、伝送容量は125倍、遅延時間は200分の1、消費電力は100分の1を目標としている。

空飛ぶ通信基地局

災害などで、携帯電話の基地局が使えなくなった場合などに備えるために、各社が開発を本格化しているのが、「空飛ぶ通信基地局」といわれるもの。High Altitude Platform Stationの頭文字を取って、HAPSとも呼ばれている。成層圏まで無人の航空機を飛ばし電波の送受信を行い、上空から広い通信エリアをつくることで、高度の高い場所や通信エリアの穴をなくすといったメリットもある。上空の基地局が動くことで、カバーできる通信エリアが変動するなどの課題もあるが、災害時だけでなく、通信インフラが整っていない途上国での活用も期待されており、実用化が待たれる。

Starlink(スターリンク)

アメリカの航空宇宙メーカー「Space Exploration TechnologiesスペースX)」が運営するインターネット接続サービス。ロシアによるウクライナ侵攻時に、ウクライナからの要望に応じ、インターネット接続サービスを提供したことでも知られている。ちなみに、スペースXは、テスラやPayPalの共同創業者で、近年ではX(旧Twitter)のオーナーとしても知られるイーロン・マスク氏が率いている会社の一つ。独自開発のロケットを用いて、宇宙空間に多数の衛星を打ち上げ、スターリンクと呼ばれる通信衛星網を構築。スペースX社は、そのスターリンクを利用して、インターネット接続ができるサービスを提供しており、電波が届きにくい離島や山間部でもインターネット利用が可能になる。2022年10月に、アジアでは初めてとなる日本でのサービスを開始した。すでに3,400基を超える衛星を打ち上げており、当初東日本中心だったエリアは、いまでは日本の大部分をカバーしている。

OSINT(Open Source Intelligence:オシント)

OSINTとは、一般に公開されている情報源からアクセスが可能なデータを収集、分析、決定する諜報(ちょうほう)活動の一つ。主に軍事分野で用いられていた手法で、テレビやラジオ、新聞、雑誌などに掲載されたさまざまな情報を丹念に収集し、分析していた。
いまでは、スマホとソーシャルメディアの普及、さらに分析ツールも登場し、誰もがその担い手になれる時代になった。投稿された動画や画像の撮影場所や、影の長さから撮影時間を特定することもできる。また、事件の容疑者や投稿者の身元、アイドルの自宅などを特定してソーシャルメディアで公開する、いわゆる「特定屋」もオシントの一種といえる。オシント自体には問題はなくても、得た分析結果の使い方を誤ると、大問題になる可能性もあり、常に目的や妥当性が問われる行為といえよう。

NTT法改正

NTT法とは「日本電信電話株式会社等に関する法律」のことで、NTTグループを統括する日本電信電話株式会社と、地域会社である東日本電信電話株式会社(NTT東日本)ならびに西日本電信電話株式会社(NTT西日本)3社の特殊会社としての法的地位や事業内容、国の関与や規制について定められている。旧電電公社が敷設・運用してきた電話回線網などのインフラを受け継ぐこともあり、民営化後も業務内容や経営などに関して一定の制限や国による関与が規定され、現在に至っている。
これまでも、古い規制行政を引きずることでグローバル化への対応の遅れを指摘する声はあり、NTTは法律のあり方についてさまざまな場で考えを表明している。2023年12月に自民党のNTT法案のあり方に関するプロジェクトチームが公表した提言では、2025年の通常国会をめどに電気通信事業法を改正し、NTT法3条にある「電話のあまねく提供」責務を撤廃すべきとしている。NTT法の「廃止」については、NTT側と他の通信大手3社の見解は真っ向から食い違っており、NTT以外の各社は「改正」を前提に政策議論を進めるべきとしている。
なお、NTTドコモやNTTコミュニケーションズ、NTTデータらの会社はNTT法の規制下にない。

プラチナバンド

プラチナバンドとは、700MHzから900MHzの周波数帯を指す言葉で、プレミアムバンドやゴールデンバンドともいわれる。この帯域は障害物を回り込んで届きやすいという特性から、携帯電話やテレビ放送の中継などに適しているとされている。少ない基地局で広いエリアをカバーできるというメリットもあり、すでに多くの事業者に割り当てられている。同周波数帯は利用価値が高いにもかかわらず空き容量が少ない希少性もあって、このように呼ばれている。

どんな仕事があるの︖

通信業界の主な仕事

・セールスエンジニア
営業担当と協力してクライアントのニーズを正確にくみ取り、ソリューションの提案から、開発、納品に至るまでを管理する。

・商品企画
自社の技術をどのようにサービスに生かすのかということを念頭に、新しい商品を企画し、実現させる。

・ネットワークエンジニア
ネットワークシステム構築の全般(機器開発、システムの提案、設計、保守、運用・サーバー管理など)を担う。

・カスタマーサービス
ユーザーからの製品やサービスに関する問い合わせに直接対応する。ユーザーにとってはその企業の顔ともなる。

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※原稿作成期間は2023年12⽉28⽇〜2024年2⽉29⽇です。

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