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「個」の芽磨く!
インタビュー
女子卓球選手 早田 ひなさん
2026年卒の新卒採用は広報活動解禁となるきょう3月1日、本番を迎えた。「ワークライフバランス」重視など昭和・平成とは確実に異なる就労観が広がる中、就職活動の最新風景を追い、新しい「働く」のあり方を考える。会社とともに自分の個性の芽を磨き、成長していくためのカギは何か―。巻頭では24年のパリ大会で2 個のメダルを獲得した女子卓球の早田ひな選手が取材に答え、若い世代には「壁」を成長の好機とする強さ、企業には「若手に合わせた目線」を探る努力を訴えた。
「壁」こそ成長の証し
卓球は頭脳戦だという。高速ラリーの最中にも敵を観察し、攻守を考える。
パリ大会の3位決定戦は、幾多の試合経験とその学びで、〝読み合い〟を制した。
「左手を負傷して、3位決定戦では直前練習も痛みでほとんど打てなかった。当然、対戦相手にもそれを見られていて、これまで対戦して負けたことがない選手でしたが、今回自信を持って準備してきているのが表情に見て取れました」
「でも2打目で私の良いショットが決まった時に相手の表情に緊張が出てきたように感じました。麻酔のおかげで、練習より動けている私に動揺したんじゃないかな。1ゲーム目は取られましたが『いける』と。2ゲーム目を取り返す頃に、それは確信になりました」

「卓球は2メートル先の相手との読み合い。表情やしぐさから、どう攻めるべきか常に考えています。同じ対戦相手でも環境、ボール、台、互いの体調など一つでも変われば『同じ』ではなくなります。試合後は脳が一番疲れていますね。『読む』は、試合を振り返って分析するだけじゃ足りない。試合中リアルタイムで変化に気づき、対応する。その経験が必要だと思っています」
日本代表に漏れた時代もあったが、今や日本の中軸選手に。
その過程には、失敗からの学びがあった。
「失敗すると、あれもやらな、これもやらな、と課題を実感します。世界一で居続けられる選手でない限り、いかに課題を見つけられるかにかかっています。成功は成長を実感させますが、そこで学べることは、もうある程度わかっていることで、自分の可能性を広げる発見は失敗の中にある気がしますね。だから、毎日どこかに成長の可能性を探しています。成功しても、その中の失敗に目を向けていくタイプでしょうかね」
「目標に向かっていると、壁にぶつかるときもありますよね。アスリートでない就活生も同じでしょう。ただ、壁に直面するのは、成長してきたからだと思うんです。壁って、やりたい仕事や目標があるから生まれるんじゃないかな。と考えれば、壁は成長の証し。『ここまで進んできたんだな』と実感して、次のステップに進める合図といえます。成長はその先にしかないから諦めず、楽しみながら乗り越えられたらいいですよね。失敗しても、チャレンジしたこと自体が成長につながります」
「成功している人は、その10倍は失敗していると思うんです。就活生のみなさんも、周りに何と言われようと失敗を恐れず、挑戦を続けてほしいと思います」
「何かある?」で育つ
少子高齢化や働き方の多様化で、業界を問わず人手不足が続く。若い世代が長い目で組織と〝共育〞できるための環境づくりが、会社と社員の双方に求められている。コーチから指導を受ける一方で、後輩にアドバイスする立場にもある早田選手はその点にも答え、相手と目線を合わせた「何かある?」の声かけと、互いの心を大事にする気持ちの大切さを唱えた。
厳しさは8割
座右の銘は「今を生きる」。
過去を忘れろ、とも受け取れる言葉だが、真意は異なる。
「同じ対戦相手に同じ内容で何度も負けて、成長していないと感じる時期がありました。『できるようになったこと』を一つでも試せれば、負けても得るものがあるのに、逃げていました。そこで当時のコーチから『今を生きる』という言葉を教えられました。決して過去を忘れろ、じゃない。弱気になるのは、未来の結果を考えるから。起こってもいない未来にとらわれず、過去を生かして『今』に集中することで未来がつくれる、と思えてから変われました」
4年に1度の大会初出場で銅メダル。
次のロサンゼルス大会へ「無敵の選手」を目指す。
「常にどうしたら卓球がうまくなるかを第一に考えています。始めた頃からの夢だった大会に出てメダルを2個獲得できたことで、『新生・早田ひな』として新たな目標を立てています。目指すは、『ドラゴンボールのスーパーサイヤ人』(笑)。誰も手が付けられない最強無敵な選手になりたい。相手がいる競技だから計画通りとはいかないでしょうが、プランは浮かんでいます」
「プラン実行のためにも自分に厳しくありたいですね。ある程度は甘やかさないと頑張れないので、甘さも大切なんですが……。ただ、基本的に褒められて伸びる実感はありません。礼儀や人としてあるべき姿も、厳しさから身に付いたと感じます。甘さ2割、厳しさ8割くらいが、私にちょうど良いバランスかな、と」

〝新人チャンネル〟を
厳しさ8割のバランスは、自分が指導される時だけでなく、
後輩へのアドバイスでも意識している。
「厳しさにも種類があって、パワハラでは成長につながりません。『愛』が必要なんですが、小中学生にアドバイスする時には、悩みに寄り添い、自信をつけられるような声かけを意識します。かつて、私が〝伸びしろ〞を感じていた子がきつい練習をやめたいと言ったことがありました。その時『あと1回だけやってみよう』『この1回で、取れなかったボールが取れるようになるかもしれないよ』と励ましたら、その子は『1回なら』と挑戦してくれた。1回でも頑張れたことが自信、やる気につながります」
「教える立場では、目的を言葉にするのも大切です。なぜ練習をするの? 勝ちたいからだよね?と。そこから『この練習が勝ちにつながる』と思えるはずです」
上司と部下、先輩と後輩などの関係で、上の者が新人や下の人、
若い人と目線を合わせる〝新人チャンネル開設〟も提唱する。
「アドバイスする立場でも、年下から自由に話しかけられて友達のように関われたらうれしいですね。卓球のダブルスでは、先輩後輩の立場がはっきり分かれているチームより、友達のようなチームのほうが爆発力があるように思います。社会でも肩書の上下なく一人の人間として向き合えれば、新人でも意見を発言しやすくなるはずです」
「上司に『頑張ってるか?』と聞かれれば『はい』としか答えられないでしょう。『何かある?』と目線を合わせて話しかけられれば、思いを言いやすいですよね。『新人とのチャンネル合わせ』みたいなことができれば、アイデアも生まれやすいように思います。私はタメ口でお願いしたいくらいです(笑)」
「逆に、自分がコーチや周囲の人に意見を伝える時は伝え方や言葉選びに気をつけます。相手がどう捉えるか、です。人同士の関係なので、互いの心を大事にすることも大切です。人として社会に適応できる存在でありたいですね」
「自分の根底には誰かを喜ばせたい気持ちがあると思っています。今の私は卓球という勝負の世界で作り上げてきた部分が多いですが、卓球をやっていなかったとしても、何か社会に貢献できる仕事に就いたんじゃないかな。食が細い時代があった経験で、フードマイスターが気になっていますが、選手生活の後も考えて、社会に役立つ資格に挑戦してみたいな、とも思っているんです」

PROFILE
はやた・ひな
2000年7月生まれ、福岡県北九州市出身。日本生命所属。4歳の時に姉の影響で卓球を始める。全日本卓球選手権大会女子シングルス優勝4回、パリで行われた世界大会で女子団体銀メダル・女子シングルス銅メダル獲得。
企画・制作=日本経済新聞社Nブランドスタジオ
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