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Column
〝石の上〟の価値観
共有できれば・・・・・・
Z世代の君へ―。
就活中の人は今、学生時代を総括し「選ばれる」自分像を確立しようと急いでいることだろう。そこでは「働く自分」のイメージも大切なはずだ。「石の上にも3年」というけれど、1つの会社で何年働くか。若者の高離職率には多くの企業が悩むが「石の上」を辛抱でなく、自分の「個」を磨く場だと思えたら、それを会社と共有できたらどうだろう。新しい「働く」が、見えてはこないか。
大学新卒採用者は内定率95%超、「3年内離職率3割」が続くが・・・

昨春からある大学で学生とまとまった時間を過ごす縁があり、2人の4年生と1月の一夜「メシ食おうか」となった。4月から営業職に就く男子と、全国紙の記者になるという女子は、就活経験や今の気持ち、これからのことなどこもごもを話してくれた。
「ゆとり」じゃない
期待と自信、緊張や不安がない交ぜになった2人の冗舌はすてきで、こちらも酒食を忘れて聞き入ったのだが、彼らが語った〝当世学生気質〞は、自分達を取り巻く時代や社会に向けた〝自己紹介〞であり、願いではなかったか。情けないことに後から気づき、それを伝えようと思い立った。そう。まずは、
社会の先輩諸氏に――。
社員が会社に誇りを持つ「エンゲージメント」の重要性が叫ばれ、企業は長い目で人材を育てようと心を砕く。「打たれ弱い」ともいわれた「ゆとり世代」は若手層の中軸となり、働き方改革が進んで社員教育も「褒めて育てる」が常識となった。それでも大学新卒採用の3人に1人が3年以内に辞める現象が続く。
その日、学校近くの居酒屋で2人の口が滑らかになったころ、オジサンは質問を我慢できなくなった。「やっぱり2人とも褒められて伸びるタイプかな」
返ってきたのは「自分は『ゆとり』じゃないんで、厳しさへの耐性はきっとあります」「パワハラは困りますが、厳しさが嫌なら記者は選ばなかったかな」。どちらもほぼ即答だった。
意外ではないのかもしれない。本特集の巻頭に登場した女子卓球の早田ひな選手は若者が育つ環境を「厳しさ8割」と表現した。後続ページの座談会では、学生が「転職ありきじゃない」「自分は入った会社で競争力をつけたい」などと語る。
2012年度に学習指導要領が変わり、中学校途中でゆとり教育が終わった大卒生は数年前から社会に出ている。ただ小学1年生から新要領で育った生粋の「ポストゆとり」は25年卒がほぼ〝第1陣〞。新たなアイデンティティーを持っていても不思議はない。とすれば、離職率に改善希望も持ちたくなる。
でも、と先輩諸氏は問うだろう。耐性の有効期限って何年だ? そこが重要なんだが……。
Z世代の君へ。
24年、そのタイトル「ふてほど」が「新語・流行語大賞」となった民放ドラマ「不適切にもほどがある」にこんな場面がある。残業制限や今どきの若手育成策に縛られ、やりたい仕事もやるべきこともできない女性。昭和・平成世代の主人公がキレる。「働き方って何だい? 働き方くらい自分で決めさせろ!」
競争力のために
ドラマが話題になったのは、旧世代の懐古志向ばかりではあるまい。人生100年時代、終身雇用の就労観はさらに退潮し「会社に頼らずキャリアをつくる」は当然になった。「ミッション・同僚・給料・学び・将来性が全て5段階で3以下なら転職」と教える大学講義を見たこともある。若者にも〝令和流〞へのもどかしさを感じる層が生まれてきている。
企業が「褒めて育てる」などと言っている間に、君たちの中では確実に、もっとシビアで現実的な就労意識が生まれているようだ。転職したいわけじゃない。でも自分に転職できる競争力がないのは嫌。その競争力を持てるまでは入った会社で頑張る。恐らくそれが、君たちが自負する「耐性」だ。
もっとも君たちはこれから、働く中で常に考え、判断しないといけない。自分に今、競争力はあるのか?
〈石の上にも3年〉〈桃栗3年柿8年〉。一方、論語では「過則勿憚改(あやまちてはすなわちあらたむるにはばかることなかれ)」と謂(い)い、間違ったら「ご破算で願いましては」を急げと説く。辛抱か、決断か。真逆のススメは人間がそれを問い続けてきた表れだろう。
ここは一つ、社会の先輩諸氏と一緒に〝宿題〞を考えようか。
人間関係や〝配属ガチャ〞……。ミスマッチは根絶が難しいが、各社員の競争力につなげる意識を共有できれば、若者の耐性も期限が伸び、会社の人材競争力も上がる。業務の意義や応用性を常に言語化するなど工夫の余地はあるはずだ。
そして、Z世代の君たちには歌舞伎役者、故中村勘三郎さんの言葉を贈ろう。
「型があるから型破り。型がなけりゃぁ、そいつぁ単なる『形無し』なんだよ!」
ビジネスにも成功の「型」はある。それがいつ身に付くか。早田選手はやめたいと言う子に「あと1回頑張ってみよう」と声をかけた。高みの上には多分、さらに高みがあって「あと1回」を試した時、見える風景はきっと変わってくる。
「石の上」で競争力を養う。そんな価値観を、共創できるといい。
企画・制作=日本経済新聞社Nブランドスタジオ
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