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精密・医療機器業界

業界の現状と展望

精密・医療機器業界を理解するポイント

  • 微細で高度な技術が求められる精密・医療機器は日本の得意分野
  • スマホと厳しく競争していたレンズ一体型カメラの需要が国内外で拡大
  • 市場規模は大きくないが、モノづくり日本を支える精密測定器
  • AIを活用した先進医療機器

身近なものから産業用まで幅広い製品を提供

精密機器業界は、ソフトウエアや電子制御によって精密な精度で動作させる機器をつくり、国内外に販売している。身近な存在の時計やデジタルカメラなどの光学機器から、産業用の計測機器検査機器まで、精密機器業界がカバーする範囲は広く、医療機器も含まれる。精密機器は日本がこれまで得意としてきた分野で、国内外でさまざまな産業の発展を支えてきた。

厳しい状況のデジカメ市場で、ミラーレスカメラが健闘

引き続き堅調なミラーレスカメラ。レンズ一体型カメラは前年比大幅増に

高画質の高機能・高性能カメラには底堅いニーズはあるものの、スマートフォンのカメラ機能やレンズ性能も向上しており、厳しい状況が続いているデジタルカメラ市場。コロナ禍もあって、カメラ需要自体が大きく減少した。
一般社団法人カメラ映像機器工業会のデジタルカメラ統計によると、2024年のデジタルカメラの総出荷数は前年比10.0%増の849万台と増加。金額でも同15.5%増の8,247億5,404万円と前年を上回った。総出荷数のうち、日本向けの出荷数は同11.0%増の101.2万台で、金額は同15.8%増の724億9,480万円。日本向け以外の出荷数は同9.8%増の747.8万台で、金額は同15.4%増の7,522億5,924万円となり、国内外とも好調だった。高額のミラーレスカメラだけでなく、レンズ一体型のデジタルカメラの売り上げも好調だった。日本以外では、中国向けが台数(前年比24.5%増)、金額(同27.7%増)ともに20%を超える伸びとなった。

スマホとの競合で厳しい状況にあったレンズ一体型カメラの総出荷数は前年比9.2%増の188万台、金額ベースでは同31.6%増の1,016億8,706万円と大幅に増加した。旅行やレジャー需要が拡大し、国内外で前年を上回った。特にアメリカ 向けが台数で同29.6%増、金額で同49.6%増と絶好調。
レンズ交換式では、ミラーレスカメラの販売が引き続き好調で、総出荷数は16.1%増の561.2万台、金額は16.4%増の6,757億8,259万円だった。中国向けが台数で同36.4%増、金額で同32.5%増となり、ミラーレスカメラ全体売り上げ・台数の約3割が中国向けだった。ミラーレスカメラの総出荷数は全体の66.1%だが、平均単価が高いため出荷金額では81.9%を占めており、ますます存在感が高まっている。

ポイント

かつて一眼レフと呼ばれていたレンズ交換式カメラは、レンズから入った光を鏡(レフ)で反射し、ペンタプリズムを経てファインダーで画像を確認します。ミラーレスでは、この鏡とペンタプリズムがなく、画像をモニターで確認します。軽量化や小型化につながり、レンズ設計の自由度が上がる、AIなどのデジタル技術を搭載しやすいといった利点があります。

時計市場と測定機器市場は、新型コロナウイルス感染症の影響から回復基調へ

時計業界には世界的にさまざまなブランドが存在するが、多くはLVMHリシュモンスウォッチの3大グループの傘下にある。完全に独立した自社の生産ラインを持つ会社はそれほど多くないのが実情で、海外ではロレックスやパテックフィリップなどが、国内ではセイコーやシチズン、カシオといった企業が、独立を保つ会社として知られている。
一般社団法人日本時計協会によれば、2024年の完成品総出荷(輸出と国内出荷の合計)見込みは、ウオッチ(どんな姿勢でも作動し、かつ携帯することを目的とした時計)は前年比3%増の5,160万個で、金額は同8%増の3,031億円と前年を上回った。クロック(置き時計や掛け時計など、一定の姿勢で使用する時計)の完成品出荷数は同9%減の530万個と減少、金額も同6%減の146億円としている。

日本精密測定機器工業会 の生産販売統計によると、2023年の精密測定器(光学測定器を含む)の生産・出荷とも、年間ベースで前年を上回った。生産は前年同期比6.9%増の1,145億3,700万円、出荷は同4.1%増の1,120億2,300万円となった。ただし、2023年9月から生産が前年同月比を下回っており、2024年に入ってもこの傾向が継続していた(2024年10月にようやく前年同月比を上回った)。なお、出荷については増加している月もあれば減少している月もある。

ポイント

(精密)測定器とは、ノギスやマイクロメーター、(ダイヤル)ゲージなどのことで、製品によっては1ミクロン(1/1000ミリ)単位で測定できる非常に精密な「ものさし」のことです。なお、測定機とはモーターでセンサーを動かすなど、機械的運動を用いて測定する装置のことをいいます。

新興国への拡大が期待できる医療機器市場

カメラで培った日本の光学技術が医療機器開発を支える

医療機器メーカーは、内視鏡などの診療機器や手術などに使われる治療機器などをつくり、国内外の医療機関に販売している。医療機器には、CT内視鏡のような「診療機器」、カテーテルやレーザー治療、手術などに使用されるメスなどの「治療機器」、ペースメーカーや人工骨などの「生体機能補助・代行機器」、ウイルスや血液などの検査を行う「検査用機器」、眼科用品や家庭用医療機器など「その他の機器」がある。中でも、日本のメーカーは「診療機器」に強いといわれており、キヤノンやオリンパス、富士フイルム、コニカミノルタ、ニコンなど、カメラで培った映像・光学技術や画像処理技術を生かして医療機器市場で活躍する企業は多い。

医療機器は、高齢化に伴う需要増もあり、緩やかな拡大が見込まれるが、国内では医療費抑制政策が実施され、経営が悪化する医療機関が増えている。国内市場だけで医療機器業界が金額ベースの大きな拡大を遂げるのは簡単ではない。
もともと医療機器の市場はアメリカやEU、日本などの先進国に偏っていた。今後は、さらなる医療の高度化を進める先進国だけでなく、急成長を続ける中国やインド、医療水準の向上が期待できる新興国などへの輸出が事業拡大のカギとなりそうだ。
また近年は、AIを活用し医療の効率性や正確性の向上を目指すAI医療機器の開発が進んでおり、MRI画像内視鏡映像から病変の検出や識別をサポートする医療機器が登場している。

ポイント

中国医療機器市場は、アメリカに次いで世界第2位の規模です。ただし、中国市場では、帯量購買や集中購買と呼ばれる大量調達方式が採用されており、入札が成功すれば大きな売り上げになりますが、落札できなければ一気に販売機会を失います。加えて、これまで高度医療機器の多くを輸入に頼ってきた中国ですが、以前から国産医療機器企業の技術向上を追求しており、質と量の両面で海外企業に迫っています。

手術支援ロボットに成長の可能性

医療の高度化に伴い、さらなる市場拡大が期待されているのが手術支援ロボット市場だ。2030年には医療用ロボット市場は約11兆円にまで拡大するという調査報告もある。これまでは、アメリカのインテュイティブ・サージカル社の「ダヴィンチ」が世界市場を席巻していたが、2019年までに諸特許の期限が切れたことから、国内外のスタートアップ企業から大手医療機器メーカーまで、さまざまな企業による開発競争が熱を帯びている。中でも注目は、国産初の手術支援ロボットhinotoriTM サージカルロボットシステム」(以下ヒノトリ)。川崎重工業とシスメックスが折半出資するメディカロイドが開発した手術支援ロボットで、すでにヒノトリを使った手術も多数実施されており、遠隔手術の実証実験にも成功している。

業界関連⽤語

N-NOSE

嗅覚に優れた線虫という生物が、がんのにおいに引き寄せられることを利用した検査で、わずか1滴の尿からがんのリスクを86.3%もの高精度で判定することができるといわれている。ただし、がんであるかどうかは判定できるが、がんの種類までは特定できない。そのため、発見後は別途精密な検査が必要となるが、ステージ0や1の早期がんも検知、簡便で身体的負担も少ない。さらに、安価で全身を網羅的に調べられるとあって、期待が高まっている。

ウエアラブルカメラ

身体やヘルメットなどに取り付けてハンズフリーで撮影する小型カメラ(ビデオカメラ)で、スポーツカムアクションカメラなどともいわれている。通常のカメラと異なり小型で軽量なため、簡単に自分目線での撮影ができる。
また、自転車やバイクのハンドル、サーフボードなどに取り付けて周囲の風景などを撮影したり、動物に取り付けたりして撮影できるものもある。コンパクトデジタルカメラ市場が厳しい中、迫力映像が撮影できるとあって人気になっている。

3Dプリンターの医療への応用

コンピューターで作成した3次元の設計データを基に、樹脂などを使って立体造形物をつくることができる3Dプリンター。金型を使わなくても、複雑な構造の立体物をつくり出せることから、製造業を中心に幅広い分野での導入が期待されている。
医療機器業界でも、3Dプリンターで造形された骨格や臓器が手術のシミュレーションで活躍している。将来的には、3Dプリンターの材料として生きた細胞を使用し、皮膚や臓器を生成するバイオプリンティングという技術の構築も期待されている。成功すれば、本物の心臓と代替可能な人工心臓の製作も夢でなくなる。

医療クラウド

多くの医療機関では、セキュリティーの観点から、病院外から病院内のデータにアクセスすることができなかった。これまでと異なり、電子カルテや、レントゲンCT画像など医療情報データを、外部のクラウド上に保存し、複数の医療機関が患者データを活用しようという試み。異なる地域や病院で情報を共有することができ、救急搬送された場合にも過去の治療履歴を知ることができる。また、外部の専門医に遠隔診断を依頼することも可能になる。

ドローン

ドローンとは、航空法で、「無人であり、遠隔操作または自動操縦で飛行できる、100g以上の重量の機体」と定義されている。軍事用に使用されることもあるが、今では娯楽用、産業用などさまざまな用途でドローンが開発されている。国内では農薬散布など農業用の利用が多いが、インフラ設備の点検や測量などにも活用の場が広がっており、将来的には物流分野への導入も期待されている。インプレスの「ドローンビジネス調査報告書2024」によれば、2023年の日本国内ドローンビジネスの市場規模は、前年度比23.9%増の3,111億円で、2028年度には9,054億円まで拡大すると見込んでいる。ドローンビジネス市場は、機体、サービス、周辺サービスの3つで構成されており、市場規模が最も大きいサービス市場は同27.6%増の2,025億円、次いで機体市場が同21.2%増の1,051億円、周辺サービス市場が同18.5%増の778億円となっている。

フォトンカウンティング検出器搭載のX線CT(フォトンカウンティングCT、PCCTとも)

フォトンカウンティング検出器は、これまでの測定方法と異なり、X線の光子(フォトン)を直接電気信号に変換してX線を測定する感度の高い測定方法。次世代型CTで、この検出器を搭載した機器は、従来の装置よりも被ばく量が少なく、画像もより高精細化できるため、診断精度の向上が期待されている。ドイツのシーメンスヘルスケアや日本のキヤノンメディカルシステムズの機器は、すでに病院への導入が始まっている。

どんな仕事があるの︖

精密機器業界の主な仕事

営業
自社商品を、顧客である販売店や企業に提案・販売。顧客の要望を聞き出し、商品の改善や新商品企画に役立てる。

ハードウエア設計
機器全体の仕組みを設計する。

ソフトウエア設計
機器がうまく動くように、ソフトウエアを設計する。

システム設計
機器がうまく動くように、ソフトウエアを含むシステムを設計・開発する。

生産管理
スケジュールや計画を立てて、スムーズに生産できるよう手配をする。

医療機器業界の主な仕事

・営業
自社商品を、顧客である販売店や企業に提案・販売。顧客の要望を聞き出し、商品の改善や新商品企画に役立てる。

・開発
ハードウエア、ソフトウエアなどを使って、商品を設計開発する。

・サービスエンジニア
自社製品のメンテナンスや点検を行う。

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精密・医療機器業界の企業情報

※原稿作成期間は2024年12⽉28⽇〜2025年2⽉28⽇です。

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