面白いアイデアが続々と。さがデザインとは? “政策にクリエイティビティを”という思想とその仕組みを指す「さがデザイン」はいま、佐賀県政の軸にまでなっているとのこと。「行政にありがちな予算ありきの前例踏襲や形式主義への問題意識が、さがデザインの始まりです」と近野さん。5人の職員が在籍し「佐賀にゆかりのあるクリエイターと一緒に、事業に取り組みます。オフィスは県庁2階のODORIBA。文字通り踊り場にテーブルやソファを置いたガラス張りの入りやすいスペースなので、ふらりと相談に来る方も多いんです」 近野さんをはじめとする職員は、県庁内外からやって来る相談者とクリエイターのハブ的な役割を担い、案件に伴走します。「通常の行政組織だと、せっかく職員が出した良いアイデアも上にあげていくにつれて平坦なものになりがちですが、そこにさがデザインが加わることでクリエイティブなアイデアを活かした事業を展開できます。今はチーム内の若手を中心に庁内の様々な案件に関わっています」 「さがデザイン」という考え方のもと伴走しているプロジェクト数は、年間100件以上。これまでまちづくり、交通政策、農業支援など、あらゆる領域で地域の課題を解決してきました。これまでコラボしたクリエイターの数も100名以上。佐賀ゆかりの方だけでなく、東京から移住して来た方もいるそうです。 さがデザインの概念と仕組み。近野さんたちがハブ(つなぐ役割)になっていることがわかります
コロナ禍で国を動かす!飲食店の屋外利用に貢献。 「さがデザインがきっかけで全国に広がった事例もあります。SAGAナイトテラスチャレンジです。コロナ禍で売り上げが激減した飲食店を救うために何ができるか考えたとき、3密を避けられる店舗の外で飲食ができるように、通常は各店舗ごとに申請が大変で時間もかかる店舗前の道路使用許可を、県が駅前の通り1kmにわたって一括で手続きしよう!と動きました。わずか2週間で実施にこぎつけ、街の飲食店が活気を取り戻した事例です。実はこの取組みを参考に、国土交通省が道路占用の規制緩和を全国に向け通達し、一気に全国に広がりました」 たしかに、コロナ前に比べて、最近、飲食店の屋外席が増えた印象を持っていましたが、なんと、「さがデザイン」のおかげだったんですね! 「県庁自体を変えた事例もあります。何の変哲もない職員食堂をリノベーションし、一般の方も利用できるひらかれたスペースにしました。来客対応や打ち合わせに利用する職員も増えたほか、イベントも行える場所になり、さらには中高生が勉強やくつろぎに来ている姿も見られる面白い空間です」とうれしそうに話す近野さん。 打ち合わせの横で学生が勉強したり、地域の方がお茶を楽しんだり。開かれた県庁を体現する場になっている
地域になかった多目的空間、SAGAサンライズパーク誕生。 「さがデザイン」の成功事例がもう一つ、佐賀県の公共事業「SAGAサンライズパーク整備」です。2024年に佐賀で開催された国体改め国スポのメイン会場となるエリア。「国スポはあくまでも大きな通過点。特に多目的施設『SAGAアリーナ』はスポーツのためだけでなく、エンターテインメント、イベント、講演会といったMICE※等の開催が可能。あわせて設置したカフェやショップが入るパークテラスの日常的な利用など、県民みんなが集まれる場所を目指しました」そう話してくれたのはSAGAサンライズパーク担当の田中さん。※Meeting, Incentive Travel, Convention, Exhibition/Eventの略 多目的な利用が可能なSAGAアリーナは、スポーツ施設としても、もちろん秀逸。アリーナの客席は約8,400席、バスケットボールなど国際的なプロスポーツの予選大会を開催できる基準を満たします。「1階から4階までの客席は最大勾配35度のすり鉢状で、どこからでも迫力のプレイを体感できます。センター、リボン、壁面と3つのビジョンを設置し、映像、音、光の演出が可能となり、多彩なイベントを盛り上げます」 「着任当初は正直、アリーナの知識がなく、全国の様々な施設を視察しました。アメリカで本場のスポーツ、エンタメも体感し、関係者へのヒアリングも実施。データを蓄積して、チームで徹底的に話し合い、SAGAアリーナへノウハウを注ぎ込みました」と田中さん。「最終的にSAGAアリーナは土間床を採用しました。当初は木板の体育館形式も候補にありましたが、トラックの搬入ができないと分かったんです。イベントなどは機材も多く、外で荷を下ろしフォークリフトで搬入ではあまりに不便です。単なるスポーツ施設にとどまらない場所として、必然の決断でした」 フレキシブルに活用できる土間床。スポーツ開催時は、ポータブルフロアという仮設の板を敷き詰める。アイススケートリンクにも対応できるそう 「このアリーナには、SAGA久光スプリングスというバレーボールV1女子に所属するチームと、佐賀バルーナーズというプロバスケットB1に所属する2つのホームチームがあります。アリーナができ『土日が楽しみ』という方が増えたんです。注目の試合では会場が埋まるほどの熱狂ぶりです。田中調べですが、近所でバスケのゴールを設置する家庭が増えています。これもアリーナが出来たことによるひとつの効果だと思います」 アリーナの話の節々に田中さんの地元愛があふれます。 「7〜8,000人の観客が地元チームの活躍を見守り、ドラマが生まれる。その場づくりに自分が携われたことに感動しています」と田中さん
公務員という職種はない。 「さがデザイン」の概念や発想方法を浸透させるセミナーを、職員向けに定期的に開催しているという近野さん。「管理職を含め職員のマインドも変わりつつあります。良いデザインにはどうしてもコストがかかりますが、たとえば、農業経営をサポートするさがアグリヒーローズという事業では、5つの農家がクリエイターと共同で広報計画や商品開発を行い、4年間で売り上げが各農家1,000万円以上増加するなど、さがデザインを取り入れた事業の効果が目に見え、予算をかける意味への理解が深まっています」 「アリーナの実現に携わる中で、クリエイターからの提案をただ受け入れるだけではなく、意見を交わせるよう、知識を得るために全力で動いた7年でした。私たちは公務員という職種はないと思っています。佐賀をより良くしたい、その思いで自分らしさを活かしながら、職務に当たっています。同じような熱い思いを持った若い方に、どんどん来てもらいたいですね」そう話してくれた田中さん。 従来の行政のイメージとはまるでちがう姿勢と考え方の行政機関。そしてそんな行政機関とともに発展している地方都市が、佐賀に確かにありました。