ヤバくて滑稽な自分に出会う。

私は没頭することが好きだ。それは、何事にも没頭することで自分が磨かれ夢が近づくから――とかそういう話ではなく、何かに没頭していると、大抵、謎の行動力からくる変なエピソードが発生してくれるからだ。

たとえばポイ活。ある年、私はふいに「この一年、某お買い物サイトのポイントを本気で貯めてみよう」と思い至った。大事なのは“本気で”という部分である。それ以来私は、日常のあらゆる買い物をそのサイトに集約することはもちろん、ポイント還元率が上がる日程を毎月確認し、特別なキャンペーンがあればその内容ごとに何店舗でいくら購入すれば最も還元率が高まるのかを割り出し、翌日になればポイント還元率が上がるというタイミングであればどれだけ急を要する買い物でも日付が変わるまで待つようになった。街中でお買い物サイトの全景と似た色合いの物体を見かけてはハッと振り返る等の奇行を繰り返しつつ、年末にはそのサイトから「あなたは上位10%のポイント保持者です!」と讃えられるまでになった。大変な誉れである。

この間美容師に「最近はどんな感じですか〜?」と話しかけられたとき、この話を熱弁した。途中、シャンプー離脱を挟みながらも一時間近くかけて私がポイント富豪に成り上がるまでの奮闘を語った。遂にはポイントをより掻き集めるべく私のアカウントで家族の買い物の代行を試み一悶着あった(その試みは失敗しました)、という辺りから美容師は若干引いていたけれど、「最近ですか〜そうですね〜いつもと変わりないですね〜」等とボンヤリ返すよりはアツい時間をお届けできたと自負している。

好きなことに没頭しよう的なスローガンは多いが、私は没頭する対象は何だっていいと思っている。好きなことに没頭しようと言われると、まず好きなことを見つけなきゃ、自分の好きなことって何だろう、見つかったとしてもそれに没頭することは有意義なのかな――そんなふうに、正解や不正解が存在する気がしてしまう。没頭のいいところは、正解や不正解はもちろん、成功や生産性等といったものからも離れたところで、普段ならばやらないようなことをやってしまうヤバイ自分が顔を出すところだ。それは人間の持つ滑稽さと言ってもいい。今思ったら何であんなことしたんだろう――そんな顔が真っ赤になるようなエピソードこそ没頭がくれるお土産だし、実は人生における最も味わい深い部分なのではないかと、私は思う。

朝井リョウ署名

朝井リョウ(あさい りょう)

朝井リョウ(あさい りょう)

岐阜県生まれ。小説家。『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。『何者』で第148回直木賞、『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞、『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞。最新刊『生殖記』でキノベス!2025第1位、第22回本屋大賞ノミネート。

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