
テーマ解説
インタビュー

地元じゃなくても移住したくなるような新しいスマートシティの形を提案してください
日本マイクロソフト株式会社
宮崎 翔太 さん/
政策渉外・法務本部
(働き方改革・地方創生・医療・教育政策担当)
Word、Excel、PowerPoint。大学生なら誰もが知っている製品や人工知能のエンジンを含むクラウドサービスなど多くのITサービスを提供する日本マイクロソフト株式会社 。今回は、同社にて普段から自治体の課題解決に関わっていらっしゃる宮崎さんに、出題テーマの意図やそこに込めた想いについて語っていただきました。「地元じゃなくても移住したくなる」ってどういうこと?「スマートシティ」って?など、素朴な疑問にも丁寧に答えてくださっています。企画の参考に、ぜひご覧ください。
ITソリューションを通じて日本社会の活性化に貢献するマイクロソフト。
─── 今回のテーマについてお伺いする前に、まずは日本マイクロソフト株式会社(以下、マイクロソフト)という会社について教えてください。
宮崎さん マイクロソフトは、大学生の皆さんとさまざまな接点がある会社だと思います。たとえば、WordやExcel、PowerPoint。WindowsやSurfaceなど、学校や職場で一度は使ったことがあるのではないでしょうか。最近ではチームでコラボレーションするツールや人工知能を含むクラウドサービスが主力となっており、さまざまな作業の生産性の向上とデジタル化に貢献しています。
またマイクロソフトの企業ミッションは、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」こと。さまざまなサービスの提供を通じて、日本経済の再生や、デジタル田園都市国家構想の実現を目指しています。

─── 「デジタル田園都市国家構想」とは、どのようなものなのでしょうか?
宮崎さん 簡単に言うと、デジタル化によって、特に地方の課題解決を進めることで、地方の魅力を維持しながら大都市のような利便性も提供し、心豊かな暮らしが日本全体に広がることを目指す政府主導の構想のことです。コロナ禍でテレワークやオンライン化が普及したことで、日常的なデジタル化は加速度的に進んでいます。一方で、どれだけデジタル化が進んで便利になっても、より良い暮らしを実現できなければデジタル化した意味がないですよね。つまり、デジタル化はあくまでも手段。「デジタル田園都市」という言葉には、デジタルを手段として誰一人取り残されず、人々の心地よさを兼ね備えた地域活性を行い、日本全体だけではなく世界にも貢献していく、という政府の決意が込められているのではないかと私は考えています。
─── デジタル化を進めながら、いかに人々の心地よさを追求するか。これは、今回の企画アイデアを考えるうえでも重要になりそうですね。
スマートシティとは、デジタル技術でより良い都市をつくること。

─── さて、今回の出題テーマは「地元じゃなくても移住したくなるような、新しいスマートシティの形を提案してください。」ということですが、そもそも「スマートシティ」とは、どういうものなのでしょうか?
宮崎さん はい。スマートシティとは、デジタル技術を活用して都市機能を最適化・高度化し、人々の快適性や利便性の向上を目指す都市のことです。学校、職場ではすでにデジタル化が進められていますが、それらをまちづくりにも取り入れ、より良い暮らしを実現することに、近年関心が高まっています。
───国内のスマートシティの事例があれば、教えてください。
宮崎さん
例えば、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」では、街全体の電力使用状況を管理し、災害時に電力の融通を行うシステムを整備しています。スマートシティによって目指しているのは、人と地球にやさしく災害にも強い街にすること。そのために、公・民・学連携の横断的なデータプラットフォームづくりを進めています。
ほかにも、スペインのバルセロナでは2000年頃から街のスマート化に取り組み、街中にセンサーを設置し、例えば効率的なゴミ収集や街灯の点灯など、環境配慮や治安の改善、交通事故の減少、そして行政のコストダウンも実現している先進都市と言われています。また、市民の方向けに政策を分かりやすくダッシュボードで見える化していることも特徴です。
他にも会津若松市など、国内外のさまざまな地域が現在進行形でスマートシティに取り組んでいるという状況です。スマートシティと聞くと、ドラえもんの世界のような、近未来的な印象を持つ方もいるかもしれませんが必ずもそうではありません。明確な答えがまだ存在していない今だからこそ、学生の皆さんにはワクワクしながら、未来の都市や地域の形を考えてみてほしいと思っています。
───なるほど。新しいスマートシティの形を提案するにあたり、活用するデジタル技術も審査にあたり重要なのでしょうか?
宮崎さん
必ずしも、高度な技術、最先端の技術である必要はありません。自動化やリモート化、そして人工知能などを活用したシンプルなアイデアを想定していただければ問題ありません。先ほどもお話ししたように、デジタル技術はあくまでも手段。どのような課題を、テクノロジーでどう解決できるかも重要ですが、なぜその課題を解決したらその街に住みたくなるのかに、重きを置いて取り組んでみてほしいと思います。
まずは、「どんな街に住みたいか?」から考えてみて。
─── 出題テーマに「地元じゃなくても移住したくなる」という一文を加えたのは、どうしてなのでしょうか?
宮崎さん
そうですね。まず、長引くコロナウイルスの影響により地方移住の関心が高まり、全国の自治体も移住希望者を惹きつけるためにスマートシティに積極的に取り組み始めています。ただスマートシティの普及のためには、人々がそこで心地よく暮らしていけるかどうかが大切です。だからこそ今回の提案でも、できるだけ自分ごととして捉えてみてほしいと思います。皆さんが地元じゃなくても思わず移住したくなる「要素」は全国の自治体にとって大きなヒントとなります。
突然ですが、皆さんはどんな街に住みたいでしょうか?地元や今住んでいる場所、旅行に行ったことのある場所…。それぞれの街を思い浮かべながら、「どんなところが好きか」「どうして好きなのか」考えてみてください。同じチームのメンバーや身近な人とも話してみると面白いと思います。例えば、将来的に地元に帰りたい人、東京にずっと住み続けたい人…。さまざまな考え方が出てくるはずです。そうやって考えていくと逆に、「こんなものがあったら住みたくなるかも」というような、住みたい街の輪郭が浮かび上がってくると思います。例えば、「本屋のある街に住みたい」「海外の方と交流できる街がいい」など、具体的であればあるほど、良いと思います。
あるいは、自分自身にとっての日常的な課題を洗い出すことから始めてもいいかもしれませんね。例えば、「病院の待ち時間をもっと短くできたらいいのに」などの課題をきっかけに、その課題を街へと広げて、「バスや役所での待ち時間も解消できるような共通のシステムをつくれないか」と考えていくこともできると思います。長い待ち時間や非効率な移動手段など、皆さんが無意識に「これはこういうものだよね」と諦めてしまっているものがあれば、今こそ「ICTで解決できるんじゃないか」と意識変革する練習の機会にしていただきたいと思います。
待ち時間の話であれば「短縮、もしくはゼロにする」というアプローチもあると思いますし、「その時間を有効活用する」というアイデアもあるかもしれません。また、スマートシティと聞くと「街全体」を提案しなければいけないと思われるかもしれませんが、例えば日常生活の中の移動、物流、支払い、行政サービス、教育、医療・介護、防犯、防災、環境など、皆さんが住みたい街の中で重視する分野、身近な分野に絞って提案いただいた方がより具体的なイメージが描けると思います。
─── 自分や周りの人と対話しながら、街への記憶をたどっていくと良いアイデアが出てきそうですね。ほかにも、おすすめの取り組み方があれば教えてください。
宮崎さん
はい。より多くの人に納得してもらえるような根拠を示すことも意識してみてください。例えば、ヒアリングを実施したり、統計情報や自治体のデータを参照したり。つまり、自分の考えと社会との接点を見つける、ということですね。自分が感じている課題を持つ方が他にも潜在的にどれくらいいる、など。思いついたアイデアが他の方からも支持されることを確かめられると、より自信を持って提案ができると思います。
また、まずはチームでたくさんのアイデアを出し合ってください。他の人と違う意見が出ることは多様性の観点からも本当に価値があるので、恥ずかしがらずに勇気を持ってお互いの意見を建設的に楽しくぶつけ合ってください。そしてチームで話し合いを進めていくと、もともと抱いていた自分自身の課題がぼやけてしまうこともあると思います。そういうときには、ターゲットやペルソナを明確にするのがおすすめです。解決したいのは、誰のいつどんな課題なのか。具体的であればあるほど、鋭い提案になるはずです。
最後に人を動かすのは、強い想い。
───本日はお話しいただき、ありがとうございました!課題解決プロジェクトに取り組む学生の皆さんへ、メッセージをお願いします。
宮崎さん
今後、国をあげてスマートシティの実現を目指すうえでは、自治体や政府に届きにくい声に耳を傾けることが重要なテーマになってきます。皆さんが自分ごととして主体的に考え、実体験を伴う課題や本気のアイデアは日本の未来のためにとても価値のあるものです。ぜひ、皆さんの素直な想いを聞かせてください。また良いアイデアは政府や自治体の方にも積極的に紹介させていただきます。
いろいろとお話しさせてもらいましたが、模範解答をねらう必要はありません。ニッチな課題は大歓迎。正解は皆さんのアイデアの数だけありますし、全チームのアイデアを結集すれば一つの街の素晴らしいイメージが完成すると思います。最終的には、企画を考える皆さん自身が「このアイデア、好きなんです!」と言えるような提案を目指してみてください。人の心を動かせるのは、やはり人の心。とことん考えることができたら、自信を持って大丈夫です。皆さんのアイデアを、楽しみにしています。
─── 本日はお話ありがとうございました!

宮崎 翔太 さん
日本マイクロソフト株式会社
政策渉外・法務本部 地方創生担当部長
クウェートに生まれ、小学校2年生から日本で過ごす。2006年、新卒で日本マイクロソフトに入社。入社後は営業やマーケティングを担当。数年前から現部署に異動し、海外法人と連携して日本政府や自治体に対するデジタル政策の提言を担当している。