<前編>実は、いまの時代、「数学」って社会で大活躍してるんです。数学者・千葉逸人さんに聞く、数学の最前線

数学、あなたは得意ですか? それとも苦手意識がありますか? 苦手だなあ、と思った方、必須授業から数学がなくなって安心したのも束の間、意外と「数学」って使う機会があるんだな… と思ったりもしませんか。そうなんです、数学って、実は日常にも社会にもたくさん溶け込んでいて、年々、その度合いは増すばかり。
千葉逸人さんは、しばしば「天才」と称される数学界の先鋭。そんな千葉さんに、数学の「いま」を聞いてみましょう。

プロフィール

千葉 逸人さん

2009年、京都大学 数理工学専攻 博士課程卒業。九州大学 数理学研究院 などを歴任したあと、現在では東北大学 理学研究科数学専攻 / 材料科学高等研究所の教授に就いており、数学やその医学、材料への応用について研究しています。
著書:「工学部で学ぶ数学」(プレアデス出版)「ベクトル解析から学ぶ幾何学入門」(現代数学社)「解くための微分方程式と力学系理論」(現代数学社)

Q1.社会に出ると、数学ってあまり使わないでしょうか?

A.いえいえ、いまの時代、数学ってあらゆる仕事の最前線で活用されています。

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 あなたは、数学者にどんなイメージを持っていますか? 「変な人」というイメージが浮かんだ人、正直に手を挙げませんか。
 僕が数学を研究している、と告げると、人はいろんな反応を返してくれます。

千葉 逸人さん

 「浮世離れした、変わった人なんだろう」という目で見られることは、よくあります。
 そう言われても僕自身は気にならないし、これは言い換えると特殊能力があるということだから、むしろうれしいです。実際に変わっているかどうかは、自分ではわからない。客観的な他人の判断にゆだねるしかありません。

 また、「数学なんかやっていて、仕事になるの?」「社会との接点はあるの?」そう思われたり、訊かれたりすることも多い。私は東北大学で研究・教育に携わっていますが、日ごろ接している学生たちだって、自分の将来にどんな道があり得るのか、殆どの学生は探しきれていません。すぐ思いつくのは、塾や学校の先生くらいでしょうか。

 でも、本当はあるんです。学生がたどり着けていない、知らないだけ。

千葉 逸人さん

 実際のところは、豊富に幅広く、進路や社会との接点があります。IT業界はもちろんインフラ系、通信、メーカーといった業種の大企業は、どこも自社で研究開発機関を持っていて、そうした現場では数学の需要が高まっています。

 たとえば昨今話題のAIの分野でも、数学の知見はもちろん必須です。AIは機械が自動学習をして発展していくわけですが、元となるプログラムの効率化や最適化をし、それが最もよい道だと証明するのは数学者です。

 以前、私が九州大学に在籍していた頃、IT企業のインターンシップへ行った学生がいました。その会社では、かなり効率の悪いプログラミングによるシステムで業務が行われていたようで、その学生はそこにすぐ気づいた。
 そして、プログラムを書き直したところ、計算速度が100倍ほど上がり、業務効率が著しくアップしたんですよ。結果として、彼はその企業へ就職しました。

 この例のように、今、数学ができる人は各分野ですごく重宝されているし、その傾向は今後ますます加速していくと思います。

千葉 逸人さん

 実は、僕も学生時代に、数学を研究するか、数学を武器に宇宙工学に関わる仕事に就くか迷っていて、企業のインターンシップに行ったことがあります。でも、そこで、「数学なんて役に立たないから、自分の趣味でやったらいい」と言われてしまった。
 僕はそういう上司のもとでは働けないと思って、数学者になることを選びました。当時の時代や、上司の年代も背景にあったのかもしれない。

 だから、時代の流れとともに、数学の立ち位置も変わってきているんですよね。数学の経験者を優先的に採用する海外の企業も出てきています。
 数学が役に立つ、そういった共通認識が、社会、そして世界に生まれてきたのが「いま」です。

千葉 逸人さん

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スタッフクレジット:

取材・執筆:山内 宏泰
漫画:秋野ひろ
撮影:黑田 菜月

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