<後編>人との「違い」を怖いと思わず、おもしろがる。投資家・藤野英人さんに聞く、「同時代人」としての心の在り方

まわりの人に「ありがとう」と伝えることの他にもうひとつ、いまの時代を生きるための武器となる考えがあるそうです。

それは、私たちは「いま」という同じ時代を生きる「同時代人」であるという心の在り方。「同世代・同年代」なんて言葉はよく聞きますが、同時代人…? 今回も藤野さんに、くわしく聞いてみましょう。
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プロフィール

藤野 英人(ふじの・ひでと)さん

レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役会長兼社長・最高投資責任者。1966年富山県生まれ。国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。著書に 『投資家が「お金」よりも大切にしていること』『投資家がパパとママに伝えたい たいせつなお金のはなし』など。

Q3.いまの時代を生きるために、必要だと思う価値観を教えてください。

A.「同時代人」という感覚を持ってみましょう。いまを生きる私たちは、長い歴史の中で同じ時代に生まれた、仲間のような存在なんですよ。

藤野 英人さん

 私はここ数年、「同時代人」という感覚を大切にしながら生きています。これは、「いまこの時代を同じくして生きている人は、全員同じ船に乗った仲間だ」とする考え方です。

 いま、私たちは、コロナウイルス感染症、ウクライナ戦争、異常気象など、さまざまな問題を「等しく」経験しています。そこに優劣も上下もない。起きている社会課題に対して、力を合わせ、どう乗り越えていくのか。ここに世代は関係ありません。だから私には、「年上でいろんな経験をしてきたから、その経験を君たちに教えてあげよう」なんて考えはまったくありません。

藤野 英人さん

 いまこの時代に生きている人は、きっと100年後にはほとんど全員が死んでいますよね。私たちは、何十万、何百万年という長い人類の歴史の中で、100年という極めて誤差のような短い時間のあいだに、たまたま生まれ落ちた人間同士。「同時代人」です。
 そういう面で見れば、私たちは今日生まれた人から100歳の人まで、すごくフェアでフラットな立場なのだと思えます。

 もちろん、だからといって目上の人を呼び捨てにしていい、といった話ではありません。誠意を持ちながら、人としてフラットに付き合うことが大事だという話です。そうした方が学びも多く、お互いに話しやすいですよね。

 実際に、今年の2月に発売した私の新刊『投資家がパパとママに伝えたい たいせつなお金のはなし』では、私が子どもたちにお金について教えてもらったんですよ。子どもから学ぶことは本当にたくさんある。

 だから大学生のみなさんも、「同世代人」という感覚を持って、異なる世代の人と会ってみてください。
 今どきSNSを通じて、さまざまな人に出会えます。たとえば本を読んで「素敵だな」と思う著者がいたら、「会いたいです」とダイレクトメッセージを送ってみるのはおすすめです。大学生から本の感想が届き、会いたいと言ってくれることに対してうれしいと思わない著者は少ないと思います。大学生の特権を生かして、さまざまな人に会ってみてほしい。

藤野 英人さん

 そして、「同時代人」の感覚を持って人と接するときに私が大切にしているのは「違い」をおもしろがる力です。「違い」を怖いと思わないこと。

 もちろん、違いを怖いと感じるのはおかしなことではありません。もともと恐怖とは、身の安全を守るために必要な感覚です。でも、違いをおもしろがることができないと、異なる世代の人と接するのは難しいこともあります。

 人との差異が怖いな、傷つけられたらどうしよう、と思うとき、私の場合はよく「自分は着ぐるみを着ているんだ」と思うようにしています。そうすると、客観的に物事を捉えられるようになるので、いつもよりもスッと異なるものをおもしろいと思えるんです。
 そうやって、自分なりに「安全に人を客観視できる方法」を持っていると、結果的にメンタルの安定にも繋がります。もちろん着ぐるみを着るのは自己拡張にすぎないので、やりすぎは禁物です。

 「同時代人」の感覚を大切にする。そして、自分の安全を守りながら、他者との「違い」をおもしろがる。その在り方は、いまを生きるためにきっと役に立つはずです。

藤野 英人さん

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スタッフクレジット:

取材・執筆:あかしゆか
漫画:水縞アヤ
撮影:菊田 香太郎

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