最終更新日:2025/6/23

(株)エイブル

業種

  • 環境・リサイクル
  • プラント・エンジニアリング
  • 設備工事・設備設計

基本情報

本社
埼玉県

取材情報

記事で読む社会科見学

排水処理を通して脱炭素社会の実現に貢献。新たなメタン発酵排水処理のインパクト

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巨大な設備を主体的に創り上げ、社会的課題の解決に寄与する喜び

排水処理設備の設計・施工・管理を一気通貫で手掛ける「株式会社エイブル」。メタン発酵排水処理が脱炭素社会の実現につながる理由や同社の実験室での研究内容、今後の展望などについて小林社長に話を伺った。

代表取締役社長
小林信彦さん

メタン発酵排水処理の省エネ・創エネ効果とは。工場排水は“コスト”から“利益”の源泉に

「株式会社エイブル」は、主に食品工場に対して、排水処理設備を提供しているプラントエンジニアリング会社です。排水処理の本来の目的は、河川などの環境を守るために、汚水に含まれる有害物質を除去して、規制値以下の水準に浄化する点にあります。企業の持続的成長にとって欠かせないプロセスなのですが、利益を生む設備ではないため、これまで大きく注目されることはありませんでした。しかし、当社が開発したメタン発酵排水処理の新技術「とくとくーぶぶぶ」には、排水からエネルギーを取り出すことができ、さらには、消費電力や廃棄物を大幅に削減できるといった様々なメリットがあります。こうした点が「脱炭素社会」の潮流にマッチするということで、大きな注目を集めているのです。

「とくとくーぶぶぶ」の革新性は、メタン発酵排水処理の適用範囲を大幅に広げた点にあります。従来、メタン発酵排水処理の適用範囲はビール工場や精糖工場から出る排水に限定。油分やタンパク質、デンプンなど、分解性の悪い成分を含んだ食品排水への適用は困難とされてきました。この点、「とくとくーぶぶぶ」では、前処理工程でタンパク質や脂質、デンプンといった、分子量が大きく分解性の悪い物質を分離し、凝縮固形化。「可溶化槽」で数週間かけて低分子化し、糖類やアミノ酸、高級脂肪酸に転換した上で、「UASB-TLP(高負荷メタン発酵リアクター)」でメタンガスに転換する仕組みを確立しました。これにより、ほとんど全ての食品工場の排水処理にメタン発酵技術を適用できるようになったのです。

メタン発酵排水処理には、ブロワーと呼ばれる装置を使って空気を送り込む必要がないため、従来に比べて消費電力を最大80%近く削減することができる点など、「省エネルギー」の面で大きなメリットがあります。また、発生したメタンガスは都市ガスの主成分なので、ボイラーや発電機の燃料として利用可能。「創エネルギー」につながります。さらには、食品排水のメタン発酵によって得られるバイオガスは、動植物などの天然物に由来。このバイオガスを燃料にして得られる電力は、再生可能エネルギーとして固定価格買取制度(FIT)の対象となり、売電収入を得ることができるのも大きなメリット。「脱炭素社会」の実現に大きく寄与することができるのはもちろん、排水処理によって利益を生み出す可能性を秘めています。

社長の思い。現場のこだわり。

「排水処理が脱炭素に結びつくことは、まだまだ知られていません。私たちの取り組みを通して、“世の中はもっと良くなる”という希望を与えたいですね」(小林さん)

本社・実験室でのトライアル・アンド・エラーにより最適な処理方法を発見

メタン発酵排水処理の基礎理論やキー技術は古くから確立されているものの、最適な処理を行うためには、個々の排水に含まれる物質・成分の違いに合わせて、処理の仕方をきめ細かに調整することが欠かせません。理論的な計算を行うだけでなく、実験を繰り返しながら最適な条件を探索していく作業が求められるのです。

極端な話、同じ排水は一つとしてありません。納豆や豆腐を製造している工場からは大豆のタンパク質を含んだ排水が出てきます。あるいは、洋菓子やデザートをつくっている工場からは乳脂肪分を多く含んだ排水が出てくるといった具合に、生産品目によって工場排水の特徴はある程度決まりますが、各工場が採用している工程の違いによって排水の成分に違いが生じるからです。例えば、同じインスタントラーメンでも、麺を揚げるか否かで、排水の成分が変わってくることは容易に想像できますよね。こうした違いを正確に把握し、個々の排水に適した処理方法を見つけるために、お客さま企業へのきめ細かなヒアリングを実施するとともに、本社に設置している実験室の検査機器を活用したり、外部機関に検査を委託したりして、排水に含まれる成分を緻密に分析。実験を通してトライアル・アンド・エラーを積み重ねることで、最適な処理方法を探索する仕組みを構築しています。

具体的には、プラスチック容器をつなぎ合わせて、1リットル程度の排水を処理する装置を構築。小規模な装置を使って、分子量が大きく、分解性の悪い物質をいかにして分離していくか、排水中の有機物をいかに効率よく有機酸に転換し、メタンガスを発生させていくかといったテーマについて検討を進めていきます。処理方法が決まったら、スケールアップに伴う機械・電気的な問題やメンテナンス性も考慮しながら設計を進め、その内容を図面に落とし込んでいきます。ほかにも実験室では、メタン発酵排水処理の新たな技術を開発するための基礎研究も実施しています。

社長の思い。現場のこだわり。

本社2階の実験室。実験用の小規模な装置を組み上げた上で、顧客から受け取った工場排水を使って、分解性の悪い物質の分離方法や処理方法についての検討を進める。

巨大な設備をほぼ一人で造り上げ、社会に貢献する仕事。認知度を拡大し、太陽光発電に匹敵する存在へ

社員10人余の少数精鋭の会社ということもありますが、当社の社員は営業から、実験室での成分検査や実験、設計、各種機器の調達、製作、現場での施工管理、メンテナンスに至るすべてのプロセスを、基本的には一人で担当しています。化学や電気、土木など幅広い分野の知識はもちろん、お客さま企業へのヒアリングを通して、ご要望やお悩みをきめ細かに汲み取るスキル、外注先のエンジニアと技術的な打ち合わせをしたり、装置の仕様に関する判断を行ったりするための知識、スキルが欠かせない仕事です。あらゆる面で一人前の仕事ができるようになるまでには膨大な経験を積み重ねる必要がありますが、当社は若手社員の育成に注力。最初のうちは先輩社員のアシスタントを務めることで、OJTで着実に仕事を覚えながら、協力会社の社員との人間関係を創り上げていける仕組みを構築しています。新たな知識やスキルを柔軟に吸収し、仕事の間口をどんどん広げていける社員。幅広い分野に興味を持って、挑戦を続けられる社員が活躍しています。若手社員には、地図アプリではっきりと認識できるくらい、巨大な設備をほぼ一人で造り上げることができる点や、お客さま企業の利益拡大のみならず、脱炭素社会の実現という社会的課題の解決に貢献できることに誇りと気概を持って、成長を続けてもらいたいですね。

今後は、展示会への出展や専門誌への投稿、販売代理店への働き掛けなどを通して、メタン発酵技術に対する認知度拡大を推し進めていく方針です。メタン発酵技術の可能性は、まだまだ十分に認知されているとはいえません。“食品工場の排水処理は、メタン発酵を活用するのが当たり前”というくらいの認知度を獲得し、再生可能エネルギーの新たなエネルギー源として、太陽光発電と同じような存在感を獲得できるようにしたいですね。また、将来的には、アルコールなどを排出している化学工場や製薬工場など、食品工場よりも大規模な施設の排水処理にもメタン発酵処理を導入していきたいと考えています。食品工場よりも多くの電力を消費している化学工場にメタン発酵技術を導入すれば、これまで以上に大きなインパクトを発揮できるはずです。プラントエンジニアリング会社などとの連携を深めながら、新たな挑戦を続けていきます。

社長の思い。現場のこだわり。

部品一つとっても、コスト重視で鉄製にするか、耐久性重視でステンレス製にするかなど工夫の余地は大きい。ヒアリングを通して顧客のニーズをつかむことが求められる。

企業研究のポイント

企業研究にあたっては、企業セミナーやインターンシップだけでなく、「展示会」を積極的に活用することをおすすめします。当社も食品関連の展示会に積極的に参加していますが、展示会場には食品メーカーからロボットメーカー、当社のような食品工場の排水処理装置を扱う企業まで、想像以上に多様な企業が集まっています。会社選びの視野を広げるという意味でも有効なので、できるだけ早い段階で、さまざまな分野の展示会に参加するといいですね。

また、中堅・中小企業であれば、役職者がブースで対応しているケースも少なくありません。役員や先輩社員に積極的に話しかけ、直接話をすることで、ホームページを見たり、企業セミナーに参加したりするだけでは得ることのできない、志望企業の生の情報を得る努力を重ねていただきたいと思います。各企業の担当者に自分から声をかけるような学生を歓迎しない会社はほとんどないと思いますが、比較的余裕のある初日の午前中に展示会場を訪れるのがおすすめです。

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メタン発酵排水処理設備。一般的には受注が決まってから数カ月~半年程度で、実験や設計、現場での施工を完了させることが多いという。

マイナビ編集部から

埼玉県川越市を拠点に、排水処理設備の設計・施工・管理を一気通貫で手掛けるプラントエンジニアリング会社「株式会社エイブル」。今回、代表取締役社長の小林さんにお話を伺って感銘を受けたのは、社員数10名余という少数精鋭の会社ながら、メタン発酵排水処理技術「とくとくーぶぶぶ」をはじめとする最先端の排水処理技術を開発し、企業のみならず、人類、地球環境のすべてが“得をする”、“皆が喜ぶ”ビジネスモデルを構築していること。そして何よりも、社員一人ひとりが営業からメンテナンスに至る、すべてのプロセスを手掛けていることだった。少数精鋭の会社だからこそ、多種多様な課題を主体的に解決しながら、幅広い分野の知識やスキルを身に付けることができる。自分の技術に誇りを持って仕事に取り組むことができる。筆者はここに、1989年の創業以来、30年以上にわたって進化を続ける同社の強さ、そして、同社の仕事の魅力を垣間見たのである。

環境技術や産業機械に興味をお持ちの方のなかでも、営業からメンテナンスまで、排水処理設備に関わるビジネスをまるごとカタチにできるエンジニアとして飛躍的に成長したいという志をお持ちの方。自らの技術力を最大限に発揮することで「脱炭素社会」の実現に貢献したいという思いをお持ちの方に企業研究をおすすめしたい会社である。

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本社オフィスは埼玉県川越市。一つの分野に特化するというよりも、化学や電気、土木など、幅広い分野の知識、スキルを柔軟に学んでいける社員が活躍しているという。

会社概要に記載されている内容はマイナビ2026に掲載されている内容を一部抜粋しているものであり、2027年卒向けの採用情報ではありません。企業研究や業界研究にお役立てください。

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