北里大学病院の森安恵実氏は、病院内の人工呼吸管理とケアを行う「RST(Respiratory Support Team:呼吸療法サポートチーム)」でチーム医療に携わっている。大学病院という医療の現場でもありながら、スタッフを育成する役割を持つ環境で活躍する森安氏に、チーム医療のスタッフが何を意識すべきかを聞いた。
チーム医療の環境は「あって当然」
北里大学では、チーム医療に携わるスタッフ育成のために「医療衛生学部」が開設されています。私が看護部に在籍したのは、PT(理学療法士)やRT(放射線技師)のための専門学科ができ、チーム医療のスタッフ育成環境が整いつつあった時期でした。また、北里大学がもともと医学に関して総合的な大学であり、チームで医療に取り組むという土壌があったことから、私にとってチーム医療の環境は「あって当然」という意識を持っています。
チーム医療の基本は、医療現場で、医師にすべての責任や判断が集中するのではなく、各スタッフが与えられた領域で“頼られる存在”になることです。
そのためには、他の職域のスタッフからも貪欲に知識やスキルを吸収する、高い意識を持たなければなりません。これは、実際のチーム医療現場でもそうですし、学生の実習でもそうです。他の分野のスタッフからも何かを吸収しようという意識を持つことが、将来的なスキルアップにつながると思います。
私は所属としては看護部なのですが、実際には、診療部において人工呼吸管理とケアを行うRSTの専従という特殊な立場におります。チーム医療において、組織の枠を越えた先進的な取り組みだけに「試されている」「期待を背負っている」という意識があり、プレッシャーもある反面、モチベーションアップにもつながっています。
役割をはっきりと認識することが、チーム医療では重要
海外では10年以上前から、RRS(Rapid Response System: 院内迅速対応組織)により、いち早く原因検索や的確な対応を行い、院内心肺停止を予防するという概念がありました。現在、私の所属するRSTの活動を、まさに実践しているのがオーストラリアのオースティン病院でした。そこで、2011年に約3週間の日程で、同施設への研修に参加しました。
もともと北里大学病院も「医師が専門領域のスタッフの知識・判断を頼る」という意識が高い環境でしたが、オースティン病院も、早くから「自分の役割の分野は自分の責任」「他者に委ねるべき分野は他者へ」という役割の認識がはっきりしていました。
アメリカでは、さらにライセンスなどにより、職域も細分化されているようですが、オーストラリアの施設は日本のチーム医療に近いという印象を持ちました。
ただ、「欧米の」「日本の」というくくりで違いがあるというよりも、病院の風土に左右されるという側面が強いという実感もあります。チーム医療が浸透して、多くの病院で体制が整えられるようになるのが理想かと思います。
普通の感覚を持ち続けられることが一番重要
これから医療現場を目指している方には、意識的に医療系以外の分野の人と交流することをおすすめします。これは“普通の感覚を失わない”ために役立つからです。
実際の医療現場では、症状が悪化したり、場合によってはお亡くなりになる方に接することも珍しくありません。客観的に冷静な判断をすることも必要ですが、やはり悲しいときには悲しいと思う感性を持ち続けることが必要です。患者さんや家族に対して“普通の感覚”で接するためにも、新人スタッフには「楽しいときには楽しい、悲しいときには悲しいと、同僚に伝えなさい」とアドバイスしています。
こうした“普通の感覚”を維持し、世界を狭めないためにも、医療現場以外の方と交流することは重要だと思うのです。
また、あまり気負わずに医療の現場に飛び込んできてくれれば大丈夫だと思います。理想を持つことは悪くはありませんが、その理想に自分を縛りつけてしまうと、どうしても現実とのギャップを感じてしまいます。国家試験に受かっているからといって、それは一人前ということとは違います。私自身、「看護師って何ができたら一人前なのか」ということは、看護師になってからもずっと考え続けてきたほどです。
受け手であるチーム医療の現場でも、新たなスタッフがすぐに全部ができるとは思っていませんから、決して気負う必要はありません。開き直るというのとは違いますが、現場で着実に身に付けていけばいいのです。もちろん、そこには自分を向上させたいモチベーションは必要になりますけれどね。
PROFILE
- 森安 恵実(Megumi Moriyasu)
- 北里大学病院 看護部 集中ケア認定看護師
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1996年 北里大学看護学部看護学科卒業
同年北里大学病院入職、脳神経外科病棟へ配属
1999年 ICU/CCU病棟へ異動
2004年 集中ケア認定看護師取得
2010年 救命救急センターへ異動
2011年 RST/RRT室 設立 専従として配属
現在に至る。
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