理系就活の全体像
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就職活動は学生によって、進め方はさまざまです。理系と文系に加え、最近は文理融合的な学部・研究科も加わる中、ここでは広い意味で「理系的」学問をする分野の学生に共通する就職活動について「理系就活」として解説します。
なぜ「理系就活」として独自に考える必要があるのでしょうか。
それは理系と文系では、採用する企業が期待するものが異なるからです。文系には当てはまっても理系には適さないことや、逆に文系では意味がなくても、理系ならアピールになることがあります。企業の採用情報を見ても、理系と文系を分けて募集をしている会社も多くあり、この違いを無視して、理系学生が文系学生と同じようにエントリーシート(ES)を書いたり面接で受け答えをしても、企業側の「期待に応えていない」ことになります。さて、ビジネスの世界では、目的に沿って手段を選ぶ考え方を戦略思考と呼びますが、就職活動でも企業の思考方法と同じ考え方で「理系学生に求められること」をしっかりと認識して、無駄なく就職活動を進めていきましょう。まずは理系就活の全体像を理解していただき、後に続く各コーナーで具体的な対策を把握してください。
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就職活動の本質とは?
就職活動の本質とは?
就活は企業と学生のマッチング
これから就活を始める人にとっては、「就活」というものが得体の知れない存在に感じられるかも知れません。ただ、企業の人材採用の視点で考えると、就活とはつまりマッチングといえます。
「仕事をしたい」学生と「働いてもらいたい」企業の、需要と供給というバランスなのです。そのマッチングさえうまくいけば、実際の就活でも話がトントン拍子に進んで、ESを提出してただちに面接を受けたり、短期間で何回も面接を行い、あっという間に内定が出るというようなケースもあります。
一般的な就活のスケジュールは、日本経済団体連合会(以下、経団連)がその加盟企業に向けて定めていて、経団連加盟「以外」の企業もそれに準じることが多いのです。もちろん未加盟企業、外資系企業など、一般的なスケジュールにとらわれずに自由にスケジュールを設定するところもあるので、具体的な志望先が決まったら必ずその企業の情報を確認することが大切です。
戦略的な取り組みのために
戦略的な取り組みのために
理系学生の場合、大学での勉強時間とそれに伴う拘束時間が文系学生より圧倒的に多いのが普通です。文系学生のようにサークルやアルバイトに時間をかけられることはまれで、結果的にESでよく出題される「学生時代に打ち込んだこと」というテーマでも、サークルネタ、バイトネタは使いづらいでしょう。しかし、そうした「鉄板ネタ」が使えなくても嘆く必要はありません。迷わずに、理系学生ならではの強みをPRすればいいのです。
ESも面接も、「正解を当てる」試験ではありません。過去に採用された学生のESをそのままコピーしたようなものが通ったとしても、面接では確実に見抜かれてしまうでしょう。
この「理系就活の進め方」では、就職活動の本質を各コーナー【就活準備編(自己分析+α)編/企業研究編/エントリーシート編/面接編/博士の就活編】に分けて解説していきます。「運よく通過できた」だけの成功談ではなく、多くの方が共有できる就活の手法です。
まずは、理系就活の全体像を4つの視点で説明します。
理系学生の進路
理系学生の進路
理系と文系は就職において選択肢が異なります(「就活準備編(自己分析+α)」で、文系就活との違いはくわしく説明します)。今勉強している学科や専攻などの専門分野を職業に生かしやすいのは、理系の大きな特長であり、この専門という軸を使って就職先の選択が分類できます。また文系にはない選択肢に「専門分野」就職があります。文系においては、その専門分野である法学、経済、文学などを仕事にできる人はほんの一部の人だけです。法学部を出て司法試験に受かる率を考えれば、文系の専門分野就職がいかに例外的なケースか想像できるでしょう。つまり、文系学生は専門外就職が圧倒的な多数となります。
対して、理系は機電情(機械/電気電子/情報)に代表されるように、専門に勉強した分野の延長上にある仕事に就くのは王道ともいえるキャリア選択です。
しかし機電情の学生であっても、勉強した専門分野とは別の領域で仕事をする人は少なくありません。また一旦は配属された先が入社後に異動で変わることなどいくらでもあります。理系の専門外就職は、実は誰にも可能性のある選択肢なのです。
専門分野就職
専門に取り組んでいる勉強と直結する分野の業界への就職は、機械、電気、情報、建築、薬学など、業界とのつながりが強く、また求人ニーズも多数あります。
大学で勉強した分野を生かして、技術、生産、研究、開発といった職業に就く場合が多いため、理系就職の特徴の1つ「学校推薦」もこの専門分野でつながる企業に対して行われることが多いのです。
専門外理系就職
専門外理系就職は、理系であっても自分の専門とする学問領域と必ずしも直結しない就職です。しかし、企業に入り、10年、20年、30年と時が経つうちに、今現在は想像もつかないイノベーションによって仕事内容がガラリと変わることがあります。インターネット出現前と後では新・産業革命といわれるほどに、さまざまな業界の構造が変わりました。理系の勉強で培った知性は、企業が求める成果が変わっても通用することでしょう。基礎系(理学、数学ほか)や生命科学など、直結する業界が少ない分野を勉強する学生は、専門そのものを仕事とするのではなくても、その勉強で培った知性や判断力、分析力などを生かすように考えることで、業界すべてが就職対象になり得ます。その中でも生産、研究、ITなどの技術系職種に就く理系学生は多数います。「理系なら専門を問わない」という企業も、製造業やIT企業を中心に多くあります。
とくにIT関連企業は大きく成長が続いています。理系学生はITとの親和性が高いことから、いかなる専門分野の学生でも歓迎されることが多く、大きな可能性があるといえます。専門にこだわらずに、理系としての知性と能力を柔軟に生かして活躍できる道を探すのは、選択肢が増えることになります。
文系就職
商社、金融(銀行・保険・証券他)、コンサルティング、マスコミなど、文系が多く就職する職種での就職。事務や営業職に就く人もいます。
映画やドラマに出てくることも多いので、仕事内容についてはある程度イメージしやすいのではないでしょうか。しかしその分、文系学生をはじめとするたくさんのライバルとの競争になります。文系にも負けないだけのアピールをして人材としての魅力を伝えなければなりません。しっかりと仕事研究をしていなければ「こんなはずではなかった」という後悔が生まれやすい選択でもあります。厳しい環境を覚悟して進めば、チャンスをつかむことは可能です。
理系の就活スケジュール
理系の就活スケジュール
理系と文系の違いの1つに、学内での時間の使い方の違いがあります。実験や研究、長時間の観察など、理系学生は課題に費やす時間も長く、とくに修士以上に進めばほとんど毎日研究室にこもりっぱなしというような人も珍しくありません。
多忙な理系学生にとって、スケジュール管理は何よりも重要です。授業についていくだけでも大変な上、就職活動は学生の都合を考えてくれません。大学との両立は大変なことだろうと思いますが、それを乗り切る力こそ、企業が理系学生に期待しているものともいえます。
会社に入れば、1つの仕事や自分の専門の仕事だけをするという人はまずいません。1つのタスクをこなしながら、別の新たなタスクが入り、さらには専門外の業務も追加される「マルチタスク」を処理できることが求められます。 授業を受けつつ実験をし、その準備や片付けをしながらゼミ発表も行い、さらにサークルやアルバイトそして就活も行わなければならない理系学生は、日ごろからマルチタスク処理能力を訓練されています。だからこそ理系学生は企業にとって欲しい人材なのです。
2024年3月卒業の学生であれば、上記のスケジュールを参考にして、活動計画を立てるようにしましょう。ここで大切なのは、
3月1日の企業エントリー開始と、6月1日の選考開始という、2つのポイントの意味を理解することです。
就活は3月1日に始めるのではありません。「よーい、ドン!」でスタートし、よいパフォーマンスを発揮するためには、その前にトレーニングや準備をする必要があります。つまり、3月1日にエントリーが開始されるのであれば、その前に自己分析と仕事研究、そしてインターンシップといった就活準備を、学業と両立しながら進めておくことが重要です。
毎年のように就活で苦戦する人が出るのは、このタイミングを間違って理解し、スタートのタイミングを過ぎてから準備を始めるからです。
ただし、早い準備が大切だからといって、日ごろの勉強そっちのけで就活だけに奔走するのは本末転倒です。実際、6月1日から選考が始まった時に、しっかり勉強しておかないとどこかで見たような自己PRや、中身のないアピールしかできなくなります。プロの面接官はこの辺りを一発で見抜いてしまいます。ゼミや研究室、学会発表などで忙しい理系学生ではありますが、理系の就活スケジュールを頭に入れつつ、時間管理とスケジュール管理を意識して学生生活を送りましょう。
採用選考のプロセス
採用選考のプロセス
そもそも新卒学生の採用とはどのように行われるのでしょう。学生側から見ればエントリーやWebテストなどが選考で、面接で確定するという学校のテストと似ているように見えるかも知れません。大事なことは就職活動は企業からすれば採用活動という立派な事業活動であるということです。学生を試したり、説教するために採用をしているのではなく、事業活動の一環として取り組んでいるのです。人材確保という成果を会社に求められているのを忘れずに、企業の人はみな仕事として接しているという大原則を忘れないでください。
OB・OG訪問などをする場合も、そこにいるのは単に同じ大学の卒業生である以上に、その企業の社員の方です。仕事上マイナスになるようなことは絶対に避けたいのが社員である以上当然なのです。
つまり、先輩だからというだけでろくに企業研究もせずに話をしたり、礼儀をわきまえない態度だったりすれば、「ダメな学生」という報告が社内に届けられる恐れもあります。ダメな後輩を自分が招き入れたように会社に思われたら損するのはその先輩です。会社員として評価をされるべく行動するのが会社員の当然の行動規範。どれだけ親しく接してもらえても、社員の方は全員面接官だと思って接しましょう。
- STEP 1
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1)準備期(自分の中で完結できる活動中心の時期):いつでも
この時期には、学部3年や修士1年になり、まだ就活は本格的には始まらないものの、インターンシップに参加することもあれば、OB・OGの方が大学に来て交流会なども開かれることもあるでしょう。 交流会などでは、一方的に企業の人が説明するだけでなく、座談会やお茶を飲みながら歓談することもあります。こうした直接的なコミュニケーションの機会も「企業の人は誰でも面接官」という心づもりで臨んでください。アポをドタキャンしたり無礼な態度を取れば、ひっそりとその記録は残る可能性があります。
チェックポイント
- 自分の進路、キャリア、それを実現するための企業選びなどを考える。
- 「学内業界セミナー」「OB・OG訪問」「就職ガイダンス」などで情報収集する。
- リアルな情報収集の場として、インターンシップを活用する。
- どの方向に進みたいか分からない場合は、自己分析で自分自身を探ってみる。専門分野の生かし方などについても気付きがある。
- 次の「活動期」に入って即座に行動できるよう、しっかりと考えをまとめ、必要な情報を得ておく。
- STEP 2
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2)活動期(具体的な行動、いわゆる「就活」が本格化する時期)
:3月1日~3月1日は就職活動が始まる日ではなく、具体的な行動開始の日です。
企業は広報活動として直接学生と接して説明会を開くことができますので、面接ではなくとも好感触を感じる学生には目星をつけておき、面接へ誘導していきます。3月1日から行動できなければ、そうした流れにも乗り遅れます。チェックポイント
- 「準備期」に収集した情報に基づき、具体的に動き出す。「企業セミナー」「個別企業説明会」「合同会社説明会」などの名称で催される説明会に出ればより具体的な企業情報や採用情報を得ることができる。「準備期」に活動を怠ると、ここでマイナススタートになるので要注意。
- 中にはセミナー出席者だけにエントリーを認める企業もある。
- 多忙な理系学生は何十社もの説明会・セミナーに出席するのは不可能なので、準備期にしっかりと情報を得て企業理解を深め、少ない回数でも効率的に説明会・セミナーを利用するよう努める。
- 説明会・セミナーに申し込むため、ESを求められることが多い。
- エントリーには段階があり、氏名などの基本的な情報入力だけで済むところもあるが、志望動機から将来展望など、より詳細な記述が必要なところまでさまざま。
- 「説明会」「社員との懇談」「意見交換」「先輩の体験談を聞く」など、いろいろな呼称で集まりが催されるが、企業の方との接点は、たとえOB・OGであっても「すべて面接」という認識で油断せずに臨む。
- 「情報の提供」という形で、企業は既に選考の準備をしている。メールや電話、説明会でのコミュニケーションなどはすべて選考につながっているつもりで対応する。
- 経団連加盟企業以外では、この時期に内定(内々定)が出ることも珍しくない。
- STEP 3
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3)決定期(面接などを行い、採用が確定する時期):6月1日~
6月1日は選考開始の日です。活動前期からコミュニケーションをしていた学生の中には、ぜひ入社して欲しいとのメッセージを受け取る人も出てくるでしょう。内々定の打診を承諾するかどうかは、じっくり考える必要がありますが、自分が入りたい会社とこうした関係性が活動前期に築けていれば、就活の成功はもう見えています。いずれにしても、この時期は早め早めの行動が有利です。6月1日から選考活動が始まると、残る枠はどんどん減っていきます。
チェックポイント
- 「活動期」にESを提出し、「懇談会」などの名称で社員とのコミュニケーションも済ませている場合など、6月1日に面接をして即座に内定(内々定)が出ることもある。
- 内定は書面、メールなど証拠をもって確定する。口頭、電話では不十分。
- きちんと準備をしていてもなかなか内定が得られないことも特別ではない。
- 学校推薦はこの時期に実施されることも多いので、事前に応募締切などは確認しておく。
- STEP 4
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確定期:10月以降
10月1日に内定式を行う企業は多いのですが、学生はすでに「内々定」を得ているので、これはほぼセレモニーです。
しかし、まだこの時点でも内定を持たない学生もいます。一方、企業側も予定していた採用枠が充足していないこともあります。こうした学生と企業間で就職活動はまだ続くのです。一部の企業は留学生や海外大生を対象とした秋採用という枠を設けている場合があります。
しかし、周りの友人はみんな内定先企業が決まっている中で、就活を続けるのは大変です。順当に3月1日スタートダッシュできるよう、しっかり準備をするのが結局、成功への一番の近道であり、有利な進め方といえるでしょう。
科学的思考、論理的思考で取り組もう
科学を勉強する皆さんですから、就職活動にも科学的に取り組むのがオススメです。就職活動に関しては、噂や都市伝説を含む、いろいろな情報が飛び交います。しかし個人の経験や伝聞を元にした情報はほとんど信頼に足りません。理系の先輩のブログや情報であっても、その人の環境と全く同じ人はいません。
何より就活は正解を当てるテストではありません。数値化の難しい「生きた人間」という存在と、日々、環境が変化する中で生きている「企業の職務」というこれまた非線形な存在のマッチングです。内定者の話を参考にするのはよいですが、そのESをまねたところで採用されるものではありません。
内定をたくさん取った人の話も本当かどうか確かめようがなく、仮に真実だったとしても、その情報はその時のその学生だけにあてはまる条件で、大学も学部も(学部と院も違う)、何より別人格の人と同じ行動を取るなど、正に非科学的だといえます。
就活に取り組むには、まず、仕事について、
・自分は何をしたいのか?
・自分のしたいことはどこで実現できるのか?
・自分が雇われる(給料を払ってもらう)には何ができればいいのか?
・それらを実現するにはどのタイミングで動けばよいか?
といったキャリアの方向性を考えることから始めてください。
将来にわたって長く携わる仕事ですから、「自分のやりたいこと、入りたい会社」を考えるのは重要です。ただしそこで止まらずに、自分が志望する会社や仕事に就くには何が必要なのかまで考えましょう。それは採用基準のような明確な指標などではなく、その会社のビジネスがどのようにして成り立っているのかというビジネスモデルを理解することです。自分が入社したことで、そのビジネスモデルに貢献できそうなら可能性は高まりますし、あまり具体的に役立つ姿が浮かばないなら、可能性は乏しいことになります。
マイナビ2024や業界研究本など、内容が精査された信頼できる情報源は、噂や都市伝説とは全く違います。また、企業情報は直接、企業や業界団体のウェブサイトを見ることで、正確な情報が得られます。実験や研究が忙しくとも、1日10分でも20分でもよいので、日ごろから取り組む習慣がつくと、後に大きな差ができます。
実験結果についての分析力や情報ソースの読み取り能力は理系学生に企業が期待するものの1つです。噂や情報を聞いても鵜呑みにせず、それが信頼に足らない程度のものであれば、無意味な情報だと考えて無視できるよう、科学的就活を心掛けましょう。しっかり情報を吟味する、「科学の眼」を忘れないでください。攻略すべきポイントは「企業に採用したい」と思われるため、説得力ある志望動機と自己アピールを準備すること。そのために理系の勉強を通じて身に付けている専門性は大きな武器です。科学的思考、論理的思考は理系の優位点なのです。
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