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保育士と一般就職
徹底解説!

保育士と一般就職 徹底解説!

制度

ここでは、保育士のために国や自治体が創設した処遇改善制度について、
内容を分かりやすく解説します。

1.国が導入した制度「処遇改善等加算」とは

保育士不足の原因として、「平均賃金の低さ」が挙げられることは少なくありません。実際、2013年に厚生労働省が実施した調査※では、「賃金が希望と合わない」という理由で保育士の道を選ばなかった有資格者は47.5%に上っています。

こうした事態を打開するため、国は本格的な保育士の処遇改善に取り組んできました。それが、2015年度に導入された「処遇改善等加算Ⅰ」と、2017年に導入された「処遇改善等加算Ⅱ」そして、2022年からの「処遇改善等加算Ⅲ」です。さっそく、それぞれの詳細をチェックしていきましょう。

※厚生労働省職業安定局 「保育士資格を有しながら保育士として就職を希望しない求職者に対する意識調査(平成25年)」
保育士全体の賃金を底上げ!
処遇改善等加算Ⅰ
内容:

職員の平均経験年数(基礎分)、および賃金改善・キャリアアップの取り組み(賃金改善要件分)に応じた人件費

加算額:

基礎分:平均勤続年数に応じて2~12%
賃金改善要件分:6%(平均勤続年数が11年以上の場合は7%、一定の要件を満たさない場合はマイナス2%)

対象者:

非常勤職員を含む全職員

処遇改善等加算Ⅰは、保育士の賃金アップを図りつつ、その実施状況を把握することも目的としたもの。全職員が対象なので、もちろん入職1年目の方も含まれます。いわば、保育士全体の賃金を「底上げ」する施策だといえるでしょう。

保育士のキャリアアップを後押し!
処遇改善等加算Ⅱ
内容:

技能・経験を積んだ職員の賃金向上を目的とした人件費

加算額:

役職によって4万円または5,000円

対象者:

副主任保育士や職務分野別リーダーなどの条件を満たす者

一方、処遇改善等加算Ⅱは、保育士のスキルアップを促し、それに応じた賃金アップを実現するためのもの。8つの分野のキャリアアップ研修が創設され、その修了状況などを要件として「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」という3つの役職に就くことができ、「副主任保育士」「専門リーダー」では月額4万円、「職務分野別リーダー」では月額5,000円の処遇改善が図られます。新たな役職の詳細や研修の内容は、③キャリア編をチェックしてみてください。

これまで、保育園等における役職は「園長」と「主任保育士」に限られるケースが多く、キャリアアップのチャンスを得られないまま退職してしまう方も少なくありませんでした。この制度の創設により、若手のころから将来の道筋が見えることでモチベーションアップにつながり、しっかりと処遇の改善も図られる仕組みが整ってきたのです。

特例事業→公定価格に位置付けが変化
処遇改善等加算Ⅲ
内容:

保育・幼児教育の現場で働く人への賃上げ

加算額:

3%(月額9,000円)程度(補助額は公定価格上の職員の配置基準を基に算定)

対象者:

非常勤を含むすべての職員

そして、処遇改善等加算Ⅲは、2022年2月から9月までの特例事業として始まった賃上げ。現在は公定価格として位置付けられることになり、より安定的な加算になったと考えることができます。

2. 上昇傾向にある保育士の給与

かつて、保育士の給与水準は決して高いものではありませんでした。しかし、着々と処遇改善が重ねられてきたことで、状況が大きく変わってきています。

保育士の給与水準の変化

保育士と一般就職の給与の比較
  • 首相官邸公式サイト「待機児童対策~これからも、安心して子育てできる環境作りに取り組みます!~」より
  • ※「保育士数」は「社会福祉施設等調査(厚生労働省)」の各年10月1日時点の保育施設に従事する保育士の数(常勤換算従事者数)を元に、平成29年までは、厚生労働省(子ども家庭局)で保育所等の回収率(例:平成28年の回収率:93.9%、平成29年の回収率 :94.3% )の変動を踏まえ、割り戻して算出したもの。平成30年は、全数調査から標本調査への移行により調査結果が全施設の推計値となり、回収率での割り戻しはしていないため、平成29年以前の結果との比較には留意が必要。
  • ※平成27年以降は、保育教諭(主幹保育教諭、指導保育教諭、助保育教諭、講師を含む)及び小規模保育事業に従事する者のうち保育士資格保有者の数を含む。平成30年は、家庭的保育事業、居宅訪問型保育事業、事業所内保育事業に従事する者のうち保育士資格保有者の数を含む。
  • ※ 「保育士の年収」は、「賃金構造基本統計調査(厚生労働省)」における各年6月の月収と前年の賞与から算出。

グラフを見ると、待機児童解消加速化プランや子育て安心プランといった施策が取られる中、保育士の数は年々上昇し、年収も増加傾向が続いていることが分かります。 現場の保育士さんの頑張りに対してまだ十分とはいえないかもしれませんが、「保育士=薄給」という従来のイメージは崩れつつあります。

ただし、注意しておきたいのは、こうした補助金を給与に反映させる度合いは各事業所に委ねられている部分もあるということ。補助金があった分だけ実際の給料が上がるとは、必ずしも言い切れないのです。処遇改善に積極的な園であるかどうかは、職場探しにおける大きなポイントになるでしょう。

3. 自治体ごとに独自の施策も!

保育士のために動いているのは、国だけではありません。自治体ごとの施策で地域に保育士を呼び込もうとする取り組みも目立ってきました。ここでは一例として、特に保育士の需要が高いとされる関東の一都二県において、どのような施策が行われているかご紹介します。

※以下の内容は2023年5月に調査したもので、今後の実施は未定の施策も含まれます。詳細は各自治体へお問い合わせください。

1) 東京都の取り組み

大胆な保育士の給与補助で、全国に大きなインパクトを与えたのが東京都です。2015年に平均して月額約2万3,000円、2017年にはさらに月額2万1,000円程度の上乗せが実施され、トータルで約4万4,000円もの賃金アップにつながったとされています。また、世田谷区などで行われている宿舎借り上げ支援※にも注目。区内の認可保育園などで働く保育士さんが園の借り上げた住宅に入居した場合、月額賃料8万2,000円までの補助金が園(事業所)に支払われる内容です。

※ 東京都福祉保健局 保育人材確保の取組について「保育従事職員宿舎借り上げ支援事業」より

2) 神奈川県の取り組み

保育ニーズの増大に応じて、保育所の拡充や保育士確保に力を入れてきた神奈川県 。年2回の全国共通の保育士試験とは別に、県独自の保育士試験※1を実施しています。実技試験に代えて保育実技講習会を修了すればいいため、合格のチャンスが増えたといえるでしょう。また、指定保育士養成施設で保育士をめざす学生を対象に2年分の学費などを貸し付ける保育士修学資金貸付事業、さらに一部の市では宿舎借り上げ支援事業も実施されています(横浜市の場合、宿舎1戸当たり月額6万1,000円が上限※2)。

※1 令和5年神奈川県保育士試験より。登録から3年間は「地域限定保育士」として神奈川県内のみで勤務可。その後は全国どこでも保育士として働くことができる。
※2 「保育士宿舎借り上げ支援事業【令和5年度申請分】」より

3) 千葉県の取り組み

手厚い賃金上乗せがある東京都との格差を埋めるため、処遇改善に熱心な自治体が多いことが千葉県の特徴。その一つが船橋市で、「ふなばし手当」と名付けて年額58万7,880円※1もの賃金を上乗せしています。正規職員のみならずフルタイムと同等の働き方をしているパートタイム職員(1日6時間以上かつ月20日以上勤務し、社会保険に加入している場合)も対象で、勤務1年目から受給することができます。また、千葉市※2でも月額最大3万円の賃金上乗せがあるほか、職員の配置基準に余裕を持たせることで過重労働の防止にも努めています。

※1 「ふなっしーも応援!船橋市内の保育園で働きませんか?」より
※2 千葉市公式ホームページ「働きやすい千葉市の民間認定こども園・幼稚園・保育園等で保育士等として働きませんか」より横浜市保育士宿舎借り上げ支援事業令和2年度のご案内より。支援事業」
より

4) 大阪府の取り組み

大阪府大阪市では、他都道府県から大阪市内の保育所等に転入した新規採用保育士を対象に、福利厚生にかかる費用に対し2年間補助金を交付する取り組みを行っています。帰省にかかる費用や市内遊興施設の年間パスポート購入費※など、都市部ならではのうれしい福利厚生も対象に。近畿圏での就職を希望するなら、検討の余地ありですね。

※ 大阪市公式サイト「大阪市内で保育士として働く方を支援します」より。

5) 福岡県の取り組み

福岡県では、保育士の離職防止や有資格者の再就職支援などを目的とする資金を貸し付け、保育人材の確保・定着を図る取り組みが盛んです。貸付金の種類は全5種あり、いずれも一定の要件を満たせば、返還債務が免除されます。

※ 「ふくふくネット 保育士を応援する貸付金」より。

保育士が足りていないのは多くの地方都市でも同じことで、Uターン・Iターン就職を支援するため、移住すると数十万円もの補助金を支給するケースもあります。処遇改善制度を上手に利用し、あこがれの街、なじみの街で保育士としてキャリアをスタートしてみてもいいかもしれません。