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アニメ・エンターテインメントの基本知識

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政府によるインバウンド誘致や積極的な海外展開を追い風に、市場拡大を続けるアニメーション・エンターテインメント業界。躍進の裏側にある仕事の内容や今後の展望について、詳しく解説していきます。

意外と知らない?
アニメーション・エンターテインメント業界の仕事

1本のテレビアニメが放送される時間はおよそ30分。最近ではさらに短いアニメーションの需要も増え、「1分アニメ」と呼ばれるショートアニメも登場しています。この短時間で視聴者を魅了するためには、どれだけの企業や専門家が関わっているのでしょうか。制作の基本的な流れを見ていきましょう。

アニメ制作の基本工程

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「アニメシリーズ制作における 制作進行のマニュアル」(一般社団法人日本動画協会)令和2年8月より作成

まず企画を立て、全体の進行を担うのはアニメーション制作会社です。プロデューサーや脚本家が中心となって制作を進め、美術担当や撮影監督などが、背景やキャラクターデザインを手掛けます。そして、声優や音響制作会社が音声を乗せ、最終的な編集を経て映像が完成。動画配信サービスやテレビ局を通じて、視聴者に届けられます。

さらに、イベントを行う際の運営やさまざまな権利を管理するライセンス企業との連携も欠かせません。このように、多くの人たちが協力し合い、1本のアニメが生み出されているのです。

日本の基幹産業に位置づけられたコンテンツ産業

「アニメ」をはじめ、日本のエンターテインメントに関する単語が海外でも使われていることを知っていますか?

海外で使われているエンターテインメントに関する日本語

anime
アニメ
manga
漫画
kawaii
カワイイ
otaku
オタク
もともとアニメは英語のアニメーション(animation)から派生した日本語ですが、日本アニメの人気が広がるにつれ、海外でも定着。従来のアニメーションは「animation」、日本アニメは「anime」と区別されるようになったのです。

今でこそ世界中に根強いファンを持つ日本アニメですが、1980年代ごろまではほとんど浸透していませんでした。もともと海外では「アニメーションは子ども向けのもの」という考え方が一般的で、大人が関心を示すものではなかったからです。

しかし、日本アニメの優れた表現力や多彩なキャラクターの魅力が伝わるにつれ、価値観が変化。国を超え、幅広い年齢層から愛されるコンテンツとなりました。

日本のコンテンツ産業の成長

日本のコンテンツ市場規模の推移

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「クールジャパン戦略関連基礎資料ver1.0」(内閣府 知的財産戦略推進事務局)令和5年12月より作成

アニメや漫画などの作品は、それらを総称して“コンテンツ”と呼ばれています。そのコンテンツ産業の国内における経済規模は2021年時点で約12.9兆円。米国、中国に次ぐ世界3位のビッグマーケットにまで成長しました。同年の、日本由来のコンテンツにおける海外輸出額は4.5兆円に達し、その規模は半導体産業に迫るほどに成長しているのです。

こうした市場の拡大を受けて、内閣府は2024年6月に「クールジャパン戦略」(日本のブランド力を向上し、海外からの日本ファンを増やすための戦略)を5年ぶりに改訂。コンテンツ産業を国の基幹産業に位置付けました。目標は、日本発のコンテンツの海外市場規模を、2033年までに20兆円とすること。さらに、デジタル化やDX化の促進や、産学官が連携した広報活動などを戦略に盛り込み、勢いに拍車をかける狙いです。

また、コンテンツ産業に期待されるのは、内なる成長だけではありません。他産業とのコラボレーションによる商品の付加価値向上、アニメや映画の聖地巡礼による経済効果、キャラクターIP(知的財産)を通じたソフトパワー(文化的な魅力を通じた他国への影響力)の発揮など、業界を横断した発展が重要視されているのです。

アニメーション・エンターテインメント業界の
今とこれから

日本文化を象徴するアニメーション・エンターテインメント業界。盛況を見せる一方で、課題も少なくありません。ここでは「デジタル化・DX化、再投資サイクルの確立、人材育成」の3つの観点から、業界の今とこれからを探っていきましょう。

機会損失を防ぐ「デジタル化・DX化」

1つ目の課題は、デジタル化やDX化への対応が十分ではないことです。たとえば、海外から来日する観光客が、紙のイベントチケットを紛失して困ったり、案内文が字幕化されていないために不便を感じたりするなど、改善の余地がたくさんあります。今後は、デジタル化・DX化を加速させ、機会損失を防ぐ取り組みが必要とされています。

また、ブロックチェーン(デジタルデータを安全に分散管理する技術)やNFT(デジタルコンテンツの所有権を証明する仕組み)などの新技術の活用も見逃せません。実際に、テレビアニメに特化した NFTマーケットプレイス(作品をNFTとして販売するプラットフォーム)が誕生するなど、知られざる才能の発掘と、経済的な効果が期待されています。

優れた作品を生むための「再投資サイクル」の構築

高付加価値構造に必要な「再投資サイクル」

高付加価値構造に必要な「再投資サイクル」の画像

「新たなクールジャパン戦略」(知的財産戦略本部)令和6年6月より作成

続いての課題は、高付加価値の作品を生み出し続けるための「再投資サイクル」が構築されていないことです。具体的な例を挙げて考えてみましょう。

たとえば、インバウンド向けにVR体験を組み合わせた上映会や、アニメのキャラクターと英語で対話できるイベントを企画し、体験による付加価値を提供するとします。この高い価値提供により期待できるのは、外貨などの収益獲得です。得られた収益は、制作スタッフやクリエーターに適切に分配・還元し、さらにDXなどの新しい技術に再投資します。この循環を繰り返すことで、業界全体が強化され、国際競争力のあるハイクオリティーな作品が制作できるようになるのです。

こうした再投資サイクルを構築するためには、クリエーターの制作環境を整備することが不可欠です。政府は取引の適正化を図るため、法整備やガイドラインの見直しを促進。コンテンツ産業に関わる企業は、これらを遵守し、取引条件や環境の整備を進める必要があるのです。

さらなる海外展開に向けた「人材育成」

少子化と人口減少が進む日本では、次世代を支えるクリエーターや担い手の不足が予測されています。そのため、クリエーターの育成が急務。とくに、アニメなどの作品を作り上げるには、クリエーターだけでなく、広告やマーケティング、テクノロジー開発、組織運営など、多岐にわたる専門知識とスキルを持つ人材が求められています。

今後のさらなる海外展開に向けて、まずは必要とされるスキルを明確化し、具体的な人材育成プログラムを策定することが大切です。あわせて、高校や大学などの高等教育機関との連携も重要です。カリキュラムの整備や実践的なプロジェクトの提供など、人材育成の強化・充実が求められています。

1970年代にアニメや漫画の熱狂的なファンによって生まれた「オタク文化」に、21世紀以降、加熱する「推し活ブーム」。私たちの日々の生活に彩りを与えてくれるアニメやエンターテインメントの魅力は、世界中にファンを生み出しています。この世界に誇るコンテンツを守り育てることは、日本の経済成長につながるブランド戦略となるのです。

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