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アートの基本知識

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「新たな作品」を生み出し続ける現代アートの振興をきっかけに、「古い作品」や「歴史ある物」が再評価されています。アートがもたらす経済効果や日本の市場の動向について、詳しく見ていきましょう。

日本のアート業界における現状と課題

アートの定義は幅広く、作り手が表現・創造するすべての作品が対象となります。中でも、代表的なジャンルには視覚で楽しむビジュアルアート(視覚芸術)と、身体や言葉を使って表現するパフォーミングアート(舞台芸術)があります。
  • ビジュアルアート:絵画、彫刻、工芸など
  • パフォーミングアート:演劇、音楽、舞踊など
また、20世紀以降に生まれた現代アートは、既存の枠組みにとらわれない革新的な表現方法と技術を融合させながら、観客に新しい視点や問いかけを提供しています。

代表的な現代アートの種類

種類
特徴
絵画
抽象画やコンセプチュアルアート、ミクストメディアなど多様なスタイルが存在
インスタレーション
特定の空間に設置され、鑑賞者の体験を重視する作品
コンセプチュアルアート
作品の物理的形態よりも、アイデアやコンセプトを重視
デジタルアート
デジタル技術を駆使して制作される
サウンドアート
音を素材として使用し、空間や時間を通じた聴覚的な体験を提供
ストリートアート
グラフィティや壁画など、都市環境をキャンバスにして展開
続いて、アートの経済市場について見ていきましょう。

世界と比較した日本のアート市場

世界のアート市場規模の推移

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「The Art Market 2023」 (Art Basel and UBS)令和6年3月より作成

文化庁の調査によると、2022年の世界のアート取引額は678億ドルと推定されています。新型コロナウイルス流行の影響を受け、一時的な低迷期があったものの、市場は堅調に回復していると言えるでしょう。一方で、日本のアート市場規模は世界全体の1%程度。上位3カ国(米国45%、英国18%、中国17%)に対し、極めて限られた状況です。さらに、国の総GDPに占める文化GDP(国内総生産に含まれる文化産業による付加価値)の割合も1.9%にとどまり、日本におけるアート市場の影響力の低さがわかります。

世界に比べて日本のアート市場が苦戦している背景には、アートを資産として認識してこなかった歴史があります。アートは文化的な営みを享受するものとして扱われてきたため、不動産や金のように財産として取得し、価値の上昇とともに売却する投資資産としてのイメージが浸透しづらいのです。

アーティスト活動の基盤強化が急務

日本におけるアートを取り巻く現状

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「第1回 アート市場活性化WG」(文化庁 文化審議会 文化政策部会)令和3年2月より作成

アーティストを取り巻く環境も、整っているとは言えません。「経済的価値」「美術的価値」「社会的価値」の3つの視点から、アーティストの活動基盤を深掘りしましょう。
まず、アートが経済的な価値を生み出すためには、オークションやアートフェアが不可欠です。しかし、現状ではその規模が小さく、十分な経済的インパクトを生み出せていません。また、美術的な価値を高めるためには、国際的な展覧会を主催できるミュージアムが必要となりますが、その体制構築には時間がかかるでしょう。さらに、アートを生活の一部として定着させて社会的価値を向上させるためには、市民の関わり方も重要です。ところが、学芸員や美術ディレクターなど、アートを支えるプレーヤーの育成は発展途上。市民に身近な存在とは言えません。こうした人材の育成不足は、有望な若手アーティストの発掘にも影響が生じています。実際に、国際的に影響力のあるアーティストを選出する「アーティスト・トップ 100」にランクインしている日本人作家は4名のみ。(2024年7月18日時点)アート産業の国際的なプレゼンス(存在感)を高めるには、早急な基盤構築が求められているのです。

課題解決に向けた取り組み

これらの課題を解決するため、文化庁はその克服に向けた施策を次々と打ち出しています。

2018年には、アートに関するインフラ整備や国際評価を促すための取り組み「文化庁アート・プラットフォーム事業」を開始。ワークショップの開催や国内美術館に収蔵される作品情報にアクセスできるデータベースの構築を進めています。さらに2023年には、国立アートリサーチセンターが発足されました。同センターのミッションは「アートをつなげる、深める、拡げる」。リサーチだけではなく、国際発信や人的ネットワークの構築など、新たなアート振興の拠点として注目を集めています。

このような施策を通じて、芸術としての本質的価値と市場における作品の価値(価格)が「車の両輪」となって発展し、安定的なアート市場の形成が目指されているのです。

アートの新たな収益モデル「NFT」とは?

アート振興を促進する一手として期待されているのが、NFT(非代替性トークン)です。NFTとは、ブロックチェーン(ネットワーク上にある端末同士を直接接続し、暗号化した取引記録を分散的に処理・記録するデータベースの一種)を使ってデジタル資産の所有権を証明し、アート作品の唯一性や希少性を保証する仕組みのこと。従来のアート市場では絵や彫刻などの物理的な作品が主流でしたが、NFTの登場によりデジタルアートの取引が活発化し、アーティストに新たな収益機会が生まれています。

NFT流通の仕組み

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NFTが流通する流れを具体的に見ていきましょう。デジタルアーティストが作品をNFTとして販売する場合、制作したデジタルデータはブロックチェーンに記録され、購入者がその作品の唯一の所有者となります。この所有権は他の人に販売でき、NFTマーケットプレイスでユーザー同士がNFTを売買・交換できます。さらに、二次市場での取引では、販売時のロイヤルティーが所有者だけでなくアーティストにも支払われます。従来のアート作品では二次市場での報酬は所有者のみが受け取っていましたが、NFTアートでは、印税のようにアーティストにも継続して経済的メリットがもたらされるのです。

NFTによる市場拡大を追い風に、日本政府もアートの所有権のNFT化に積極的な姿勢を見せています。2023年度には「文化芸術のグローバル展開、DXの推進、活動基盤の強化」に対する予算として、215億円を計上。博物館資料のデジタル・アーカイブ化とその公開・発信、DXに効果的に取り組む博物館の支援策などが盛り込まれました。

アートが切り開く日本の未来

アート業界を盛り上げる企業の新しい取り組みも見逃せません。たとえば、スマホでいつでも気軽に国内外のアート作品を見つけ、購入したり支援したりできるアプリ。お気に入りのアート作品を月額でレンタルできるサブスクリプションサービス。乗り物とアートを融合させ「世界で一番美しい車」として賞賛されたコンセプトカーなど、これまでの取り組みとは一線を画した関わり方がメジャーになりつつあるのです。こうした取り組みをさらに勢いづけるのが、国内の富裕層の存在です。Altrataが発表した「超富裕層レポート2023」によると、海外と比較した日本の富裕層の数は世界第4位。高価なアート作品の購買力を持つ富裕層が参入すれば、市場がより大きく躍進する可能性があります。

さらに、アートへの関心が高まることで、他産業への付加価値向上も期待されています。経済産業省による「アートと経済社会について考える研究会」では、2022年時点で遊休不動産とアートを掛け合わせた建設需要の増加に約62.7兆円、空き家問題を抱える不動産業界との相乗効果に約45.3兆円、アート性の高いサステナブルファッションに約7.5兆円など、さまざまな分野における経済効果を試算しています。こうしたアートの戦略的な利用によって、日本の経済全体が活性化するでしょう。
まとめ
  • アートは視覚芸術と舞台芸術に分類される。多彩な表現と技術を融合した現代アートの振興に伴い、歴史ある作品が再評価されている。
  • 日本のアート市場は世界と比べて規模が小さく、文化GDPの割合も低い。アートを資産として認識する文化が未成熟であり、アーティストの活動基盤の強化が急がれる。また、国際的なプレゼンス(存在感)向上が必要。
  • NFTやサブスクリプションなど、新たな技術を組み合わせた収益モデルが登場。国内の富裕層への期待値は高い。今後はアートの戦略的な活用により、建設や不動産、ファッションなどの他産業への付加価値向上が期待されている。

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