「新しいことに挑戦する企業」というイメージのあるスタートアップとベンチャーですが、明確な定義こそないものの、実際にはビジネスモデルや成長速度に違いがあります。

スタートアップは、多くの場合、全く新しいアイデアや技術で未開の領域に挑戦し、イノベーションを通じて急速な成長を目指す企業のこと。一方、ベンチャーは既存の市場に新しい価値を付加するケースが多く、成長速度は比較的緩やかなのが特徴です。いずれも、AIやIoT、DXなどICT関連の創業が相次いでおり、技術開発が急速に進んでいます。

こういったスタートアップやAIベンチャー企業が注目される背景には、社会問題の解決に対する期待があります。政府は社会課題を成長のエンジンにする新興企業を盛り上げるため「スタートアップ5か年計画（2022年）」を策定。2027年度までに10兆円規模の投資を実施するほか、創業を志す若者の海外派遣支援といった目標を宣言しました。

すでに多くのスタートアップやAIベンチャー企業が社会課題解決に乗り出しており、以下のようなサービスが誕生しています。

たとえば、AIを活用した医療診断技術は、診断の精度を向上させ、多くの人々が迅速で正確な医療サービスを受けられるようになりました。ほかにも、世界中の子どもたちに質の高い教育を提供し、教育格差の縮小を目指すオンライン学習プラットフォームや、環境問題の解決に向けて、再生可能エネルギーの効率的な利用技術や、廃棄物を減らすリサイクル技術も開発されています。

さらに、スタートアップやAIベンチャー企業が革新を続ける要因には、革新性やアジリティー（機動力）の高さがあります。大企業には真似できない素早い意思決定とアイデアを武器に、ニッチ市場に参入し、独自のポジションを構築しているのです。

また、近年では、大企業と連携して新製品やサービスを生み出すオープンイノベーションが加速。スタートアップやAIベンチャー企業の革新性が大企業のリソースと結びつくことで、より大きな成果が生まれています。

ヘルスケアやスポーツなど、多岐にわたる分野で世界的に評価されている、日本発のスタートアップやAIベンチャーの最新技術。その革新的な技術の成功事例を見ていきましょう。

グローバルヘルスの社会課題解決に立ち向かう企業が活用しているのは、最新のデジタル技術です。AIと独自開発したドローンを組み合わせたエアモビリティーの活用により、感染症の発生源特定や医薬品の小口輸送に貢献しています。とくに、新興国を中心に大きな成長が見込まれており、持続可能な社会の実現に向けた価値を提供しています。

また、スポーツテック分野では、ファンとアスリートやチームの距離を縮めるテクノロジーが注目を集めています。たとえば、試合や大会の記録データを一元管理し、SNSや公式サイトと連携。迅速でシームレスな情報発信がファンを喜ばせています。こうしたデータドリブン（データに基づいて判断や行動すること）なファンコミュニティーの構築により、世界中からアクセスが集まり、スポーツの新たな価値創造につなげているのです。

さらに、住宅分野に新しい風を吹き込むのは、最新の3Dプリンター技術です。建設用ロボットプリンターによる新しい生産方式により、低コストで機能性を備えた家づくりを実現。従来の住宅ローンに縛られることなく、場所や家族構成、ライフスタイルの変化に合わせて気軽に住まいを買い替えられる、新しいライフスタイルを提案しています。 こうした企業は、経済産業省によるスタートアップ育成プログラム「J-Startup」において「世の中に不可欠なキープレイヤー」として位置づけられ、経済成長や課題解決への役割が期待されているのです。

スタートアップやAIベンチャー企業には、解決すべき課題も多く存在します。「新しいことに挑戦する企業」だからこそ、事業の将来性やリスクの不確実性によって資金調達が難航したり、後発企業との厳しい競争に直面したりすることもあるでしょう。

こうした状況において、経済産業省は「METI Startup Policies〜経済産業省スタートアップ支援策一覧〜」を公開。国として新興企業を後押しするべく、税制の負担軽減や海外展開の支援など、スタートアップやAIベンチャー企業のステージに合わせた積極的な支援が行われています。

内外ともに環境が変わりやすく、大企業よりもうねりの激しい波の中で奮闘するスタートアップやAIベンチャー企業。企業規模から見ても、従業員一人ひとりの裁量が大きく、自己成長につながる機会が多いことは想像に難くないでしょう。

現在日本を牽引する大手企業も、創業時は数あるスタートアップやベンチャー企業のうちの一つに過ぎませんでした。今後ますます需要が高まり、目まぐるしく発展するICT分野において、スタートアップやAIベンチャー企業には新しいチャレンジが期待されています。