普及率最下位だった鹿児島に、地元発のキャッシュレス経済圏を。 Payどんが誕生する前、鹿児島県は全国的にも現金決済比率が高いキャッシュレス後進県。地元に暮らす人たちや店舗、企業からすれば、まだまだ現金に対する需要や信頼が高かったそうです。 とはいえ、「国や全国区の大手企業がキャッシュレス決済の普及を進める中、当行も地銀として危機感を持っていました。他行への預金流出だけでなく、地域の貴重な決済データを他社に握られる可能性もあったからです」と上岡さん。 そうした強い思いから、鹿児島銀行は独自のキャッシュレス決済サービス「Payどん」の開発にゼロから着手。約1年間という短期間で仕組みからアプリ開発まで完了させます。しかし、発表直後は大きな壁にぶつかったそうです。 その時はまだPay どんに関わっていなかった上岡さんですが、「ユーザーや加盟店の開拓には相当苦労していました。使えるお店が少なければユーザーは積極的に持とうと思いませんし、逆にユーザーが増えなければ加盟店も採用しようと思いませんよね。このジレンマから抜け出し、軌道に乗せるまでが大変だったそうです」と当時の様子を教えてくれました。 鹿児島県の人口が約1,540,000人。わずか4年で、約12人に1人が持つまでに成長した。
自治体と協力し、地域価値の共創にPayどんを役立てる。 スタート直後はサービスの普及に苦労したPayどんですが、自治体と提携した大型企画の成功から一気に風向きが変わります。 「新型コロナによって地域経済も大きく落ち込む中、鹿児島市が行う飲食店支援を目的としたプレミアムポイント事業の提携先としてPayどんが採択されたのです。これまで自治体が紙で販売していた地域振興券をPayどん内で販売し、市民の方々に購入・利用してもらうという大型企画。印刷や販売のコスト削減とともに、その決済データを活用できる点が評価されました」 というのも、紙の振興券の場合、自治体はユーザーの使い道を正確に把握することはできません。しかし、デジタルであれば「いつ、どこで使われたか」といった詳細な決済データを入手することができるのです。「実際、1回目のキャンペーン後の決済データを分析すると、市として力を入れて支援したい飲食店の夜間利用が少ないことが分かりました。そこで、続く2回目では夜間利用にプレミアムポイントを上乗せし、より有効な支援を実現することができたのです」と上岡さんは話してくれました。 また、Payどんは加盟店からの手数料を1.5%と他の決済サービスと比べて低く設定し、かつ翌営業日入金とのこと。キャッシュフローが潤沢ではない場合が多い小規模事業者などにとって、この2つは大きな魅力です。そして、こうした条件が提示できるのは、鹿児島銀行の企業としての使命が「地域価値の共創」だからに他ならないとの話でした。
地銀と地元企業とのつながりも活用し、DXにも貢献。 そうして、Payどんのユーザー数が12万人まで増えた2023年度から、新たな心強い味方が推進室に加わります。それが、鹿児島県庁から出向してきた釜付さんです。鹿児島県庁で情報、観光、農政といった多分野の部署で勤務してきた釜付さんは、鹿児島県内の自治体と鹿児島銀行をつなぐ上での重要な役割も果たしているとのこと。 「地域振興券で実現した自治体と地域住民のデジタルプラットフォームを活用すれば、既存の給付金制度などでもPayどんを利用することでもっと便利で自由な施策を打ち出せる可能性があります。鹿児島県内の自治体としても、Payどんは今や無視できない存在だと思います」と釜付さん。すでに地域振興券に限らず、県民向けの給付金事業への活用など、自治体と一緒にアレンジ施策を打ち出す調整なども進めているそうです。 一方で、自治体事業などは財源に限りもあるため、より地元の民間企業との連携も必要だと言います。自身も支店で営業活動に取り組んでいた上岡さんは「地銀は昔から、地元の企業と深いつながりがあります。地銀の担当者だから提案を聞いてくださるお客様も少なくありません」と話します。 たとえば、あるタクシー会社はこれまで紙のスタンプカードで管理していた利用者への特典をPayどんの決済時のポイント還元に置き換えるなど、地域の中小企業単体では難しいDXにも貢献しているとか。ここでも、鹿児島銀行の自分たちのためだけでなく、地域の企業のために何ができるかという思いが貫かれています。
競合他社とも手を取り合って、地域をもっと元気に。 お二人に今後のPayどんの目標について尋ねると、「まずは、ユーザー数を現在の2倍程度まで増やすことです」と上岡さん。そして、そのための施策の一つとして「県内の金融機関である南日本銀行様や鹿児島相互信用金庫様、鹿児島信用金庫様とも連携し、決済アプリの共同利用を実現しました」と教えてくれました。地元の金融機関同士が連携してサービス運用することは、全国でも初めての事例とのこと。ここでも鹿児島銀行の前例のないことに積極的に取り組む「挑戦する企業風土」を感じます。最後に、そんなお二人に、地域でデジタルに携わる面白さや可能性についても伺ってみました。 「都会に比べると地方はデジタル化を含め、新しいことへの変化にまだハードルを感じる方も少なくありません。まずは、そのスタート地点に多くの人を立たせてあげるのが、自分の仕事だと思っています。ただ、その一方で誰のために働いているかが明確で、取組の意義や実感を持ちやすいのも、地方で働くことの魅力」と釜付さんは話します。 「地方では、企業によっては社内においてデジタル化に取り組むことに対し、ハードルを感じている社員もいます。だからこそ、デジタルネイティブな若い世代が活躍しやすい領域ですし、デジタルに前向きな仲間を増やすことで、会社の変革スピードも一気に早まると思います」と上岡さん。 地域価値の共創を目指し、地元の企業や人々との関わりが深い地銀だからこそ、デジタル化に取り組むことで自社の枠を超えて大きな良い影響を与えることができると改めて話してくれました。