「まちがえると企画時は最新、発売時には時代遅れ」な業界スピード。 そもそも、なぜここまで多くの新製品を発売しなければいけないのか。その疑問を清水さんに率直にぶつけると、エレコムが置かれているビジネス環境について教えてくれました。 「技術進歩や研究のスピードは目まぐるしく、私が担当する電源周辺機器でも安全性、機能性、コスト減をより実現する最新機器が次々と登場しています。さらに、中国のベンダーにより自社ブランド製品の開発も盛んになっており、競合企業もかなり増えてきています。その結果、商品の市場投入までのスピードによっては企画段階で最新だったものでも発売時には時代遅れ、ということも珍しくありません。こうした市場環境から考えると、現在の新製品の数やスピードにさらなる充実が必要だとも感じていますよ」 周囲がどんどん前進するなら、現状維持は後退と同じ。新しいことをしなければ、他社に遅れをとってしまいます。そのためエレコムでは、社員みんなが躊躇なく挑戦できるように「やった失敗はとがめない」という意識が根付いているそうです。「その代わり、やらなかったは失敗」とも、清水さんは笑いながらそう教えてくれました。
熱が高いユーザーの声は、ブログまで追いかける。 そうした挑戦の姿勢を示すように、いま清水さんが所属する開発部が力を入れているのが、自社開発のオリジナル製品です。もともとはODM製品が主力だったところ、ここ数年でオリジナル製品の割合を少しずつ増やしています。 ベンダーから調達する製品に比べ、トレンドや市場に合わせて機能や技術を追求できるのが、オリジナル製品の強みです。 「とくにマウスやキーボードなどPC周辺の入力機器類の話ですが、どんな製品を出せば盛り上がるか、バズるかは、チームメンバーでも常に意見を出し合いながら開発しています」 その目論見が成功して過去にバズった製品の代表例が、2023年に清水さんのチームが手がけたトラックボールマウス「IST」シリーズです。数年前に流行った“ハンドスピナー”に使われていた摩擦抵抗が少ないベアリングを応用し、なめらかな操作性を実現。それまでにない感触、使用感のマウスに一部ネットがざわつきました。 「トレンドや話題性を考えるときには、ユーザーの声と業界のトレンドのキャッチアップが欠かせません。とくに熱量の高いユーザーさんの発信する情報はブログまで追いかけて見ているんですよ。そこまでのスピード感を持ってやっても、発売するときには一番手になれないこともありますからね」
開発者の熱が、良い商品を生み出す。 オリジナル商品を開発する上で最も大切なことは何か。清水さんに尋ねてみると、「作り手の熱量……ですかね」という答えが返ってきました。 「ユーザー視点というより、自分自身がユーザーなんです。その機能が本当に欲しいのか、欲しいなら0.1mm、コンマ一秒の極限まで追求できると思うんです。作り手に熱量がなければ、こだわりは生まれないですし、その開発者の熱がユーザーにも伝わるんだと思います」 さらに、プロゲーマー向けにキーボードを開発した際の話も教えてくれました。当時、ゲームをやりこんでいたメンバーも参加しており、反応速度に徹底的にこだわったデバイスを開発。最短わずか0.1mmの押し込み・押し上げでキー入力のON/OFF操作ができる磁気検知式スイッチを搭載したゲーミングキーボードとして大きな話題を呼びました。 では、そこまでの熱量をどう維持するのか。続けて清水さんに尋ねると、 「マネジメントとして、その熱意をできるだけ止めない環境づくりが大切です。企業として戦略や売上は守りながらも、熱意ある企画やアイデアをどう可視化して、会社の戦略として展開するか。そのバランスを取るのが、自分の役目だと思っています」 メンバーの熱意にブレーキをかけない。これまで数多くの製品の行方を見てきた清水さんの言葉には大きな説得力がありました。
ファブレス企業からメーカーへ、挑戦と変革。 最後に。今後、エレコムが目指している未来について清水さんに聞いてみました。 「実現したいことは二つあります。まず、現在PCやスマートフォン周辺のみで展開している電源デバイスを、今後は家庭用やインフラ用といった規模の大きな分野に拡大していくこと。もう一つは、アメリカでの事業展開です。これまで日本を中心にアジア圏で事業を展開してきましたが、グローバルに視野を広げるためにも、アメリカ進出に注力しているところです」 その未来を実現するための土台として「自社の開発力の強化は欠かせない」と清水さん。2022年には横浜、2024年には新たに中国・深圳に技術開発センターを置き、現在も開発力の向上に努めているそうです。 既存事業の拡大と、新しい海外市場の開拓、そしてその土台となる開発力の強化。ここへ来て、エレコムが自社のオリジナル製品の開発に力を入れている背景が見えてきたような気がしました。……とはいえ、市場や競合のデータが得やすいODM製品に比べ、オリジナル製品は市場の反響が読みにくいリスクがあるのも事実。その点についても率直にぶつけてみました。 「だからこそ、市場にないワクワクする製品を生み出せるんです。新しいことに挑戦しなければ、いつまでたっても他社の後追いになってしまいます。これからも『エレコム、また新しいことやってるな』と思われるように進んでいきますよ」 ファブレス企業からメーカーへ。エレコムは、いままさにその挑戦と変革の真っ只中にあります。失敗をとがめられない環境で、熱意を持って取り組みたい人にはとてもお勧めの会社だと実感しました。